気候変動の解決は日本の高度経済成長の戦略と精神にあり

今こそ日本は新たな高度成長を牽引していかなければならないのだ。

大野健一の著書『途上国ニッポンの歩み-江戸から平成までの経済発展』は、英語にも翻訳され海外でも広く読まれている。最近ではマレーシアなどの発展途上国が日本の高度経済成長を手本にしていることも話題になっている。

確かに、1960~70年代に成し遂げた日本の産業化が輝かしいものだったことに異論はない。だが、今日の発展途上国にそのビジョンを伝授することよりも、当時の戦略や精神を日本国内で復活させる時期を迎えていると私は考える。今こそ日本は新たな高度成長を牽引していかなければならないのだ。

今度の高度成長では、鉄鋼、石油化学の設備拡大、電子部品や自動車の輸出など、一世代前の産業に重点を置いてはならない。新たな高度成長は1960、70年代に日本が経験した時よりも断然に速いスピードで進んでいくはずだろう。しかし、何よりも気候変動というとてつもない脅威に、その都度対応できる日本の技術及びインフラ整備のノウハウの集積に集中しなければならないのだ。

以前の高度成長期の精神や長期的なビジョンは必要だが、方向性は正反対でなければならない。脱石油、脱石炭よりもまず有機農に重点を置いて、伝統の持続的な経済体制を一日でも早く回復することを目的にしなければならない。

TV、洗濯機、冷蔵庫の三種の神器の代わりに、低価風力や太陽光パネルを一日でも早く義務化し普及させ、先進技術を活用した完璧な住居の建築、石炭、石油、原子力の依存から脱却した「東洋の奇跡」の再現を目指さなければならないだろう。

もちろん、新しい経済体制を発展させるためには、昔の知恵を活用しなければならない。例えば、高い教育水準を利用して経済発展を成したように、市民の教育水準を向上させて、特に環境に関する教育や環境管理、環境技術の発展に関連した教育を活発に進めていかなければならないだろう。ただし以前と異なり、農業分野を大事に育てていかなければならないことになる。

以前、日本は、玩具、繊維、自転車、オートバイ、自動車、飛行機から半導体に至る先端技術の開発のため精細でかつ長期的な計画を立て実行していた時期があった。日本政府は専門性を確保し、インフラを構築すると同時に、この技術自体に対する理解やそれに加えて、それによってもたらされる変化にも対応できる体系的な人力養成プログラムを行っていた。

しかし、最近日本は「第5期科学技術基本計画」で科学技術に関する長期的なプランを立て、施行したものの、残念なことに国家的事業の統合的なアジェンダとして機能できずにいる。この基本計画は、日本社会や経済体制を根本的に変革する総合的な計画というよりも、単なる生産効率性や世界市場の攻略に重点を置いているだけなのが現実だ。

しかし、気候変動対策及び有害汚染物質の排出やエネルギー消費の削減など、今日当面している大きな変化は、過去の経済や技術開発に匹敵するほど重要な課題として浮上してきており、日本としてはこのような変化に向き合いながら、経済及び技術開発などの計画を再編成する必要がある。

私は、以下の三つの観点を基盤にして、未来を予測し計画を立て実行していく新たなアプローチ法を提案したい。

第一に、10年、20年または30年後の日本の自然環境がどうように変化しているのかを考えなければならない。海水面がどれだけ上昇するのか、干ばつの程度と頻度、そして台風や津波などの巨大な自然災害は将来どのように変化していくのかを熟考しなければならない。また、地質や緑地、農業や海洋の生態系はどのように変化するのかなども考慮すべき重要事項である。

第二に、現在の技術開発の方式がいつまで有効なのかという問題である。これは、現在の技術開発がいつ全面的に無炭素方式に代わるかという問題と関連している。今までの技術開発方式は無炭素方式とはかけ離れており、これによる環境への脅威は憂慮すべき水準だからである。

第三に、未来の気候変動による脅威に対処できる技術開発のインフラをどれだけ先制して構築することができるかが問題である。

我々は、まず2021年までに全てのビルに太陽光パネルと効果的な断熱設備を導入することを目標にしなければならない。この計画は、産業、学会、政府、技術、流通、教育などの各分野、そして地域社会の積極的な参与を誘導できるように都市再生事業と連携がなされなければならない。

具体的には、窓ごとに薄膜太陽電池や先端の断熱材が迅速に導入されなければならない。この他にも、太陽や海水面の上昇などの巨大な自然災害に対する備え、または緑地や海洋生態系及び地質改善なども念頭に置いて計画する必要がある。

この長期的な計画は、単なる生産や輸出ではなく、気候変動の脅威に日本がどのように対応するかにかかっている。特に、島国である日本にとっては、海水面の上昇は他の国々よりも差し迫った脅威である。したがって、海水面の上昇や地球温暖化に対応することは、当然日本の国家的安保アジェンダの中心に置かなければならず、市場中心の思考から一日も早く脱却しなければならない。

長期的な計画のためには資金確保も重大な問題である。この資金は気候変動による国家的対応に基づいた公的資金でなければならず、いかなる方式であっても、私益の投機性資金ではその使い道に期待することはできない。

つまり、現在の危機は半導体、自動車、鉄鋼及び石油化学産業が日本にいかなる未来を招くものなのかを問いただし、新たな未来を描いていかなければならないことを意味しているのだ。未来を予測し計画することで気候変化の脅威を集中的に考慮しなければならないのである。

政府は、決断力のあるリーダーシップを発揮し、戦争時にありとあらゆる技術力を結集して対応するように、気候変動という長期的で巨大な脅威に対応しなければならない。この問題を聖域化し対応を先延ばしにすることは許されない。

政府は、産業全般にわたって化石燃料の依存度の減少や断熱材の普及を達成させる5ヶ年ごとの計画を立て、実行するべきである。何よりも重要なことは、こうした計画がきちんと日本の企業文化やマインド、政策などを十分に考慮し、目標に向かってより早く変化できるようにデザインされていなければならない。

また、他の産業国よりも早く達成することで、日本が他国の模範となり、世界に日本の威信を見せつけられる価値のあるものになりえるだろう。

当面、二つの5ヶ年計画が必要だろう。一つは、気候変化を受け入れるためのもの。そして、もう一つは、それによってもたらされる脅威を緩和するためにだ。この二つのプランはどちらかが欠けてはならないし、成功するためには両者が緻密にリンクしていなくてはならない。

この計画は、日本の文化や慣習、通念に変化を要求するものであるし、日本の金融、貿易、投資ポリシーの変革も避けられないだろう。しかし、これが成功すれば、石油輸入を外国に頼り、石油資本に隷属する歴史は終わり、世界中の手本になることだろう。

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