「光化門を見てみなさい、韓国国民は一流の国民だ。 なのに国会が二流、三流でいいのか」 韓国国会議長:丁世均インタビュー

丁世均「(韓国)国民の水準に国会がついていかなければならないではないか」

丁世均(チョン・セギュン)議員は、昨年6月の選挙で、弱体化していた保守派のセヌリ党に民主党が勝利したとき、国会議長になった。丁氏は、バランスの取れた人格を持ち、感情には簡単に動かされないが、政界内で調和の取れた関係を作ることに長けた韓国政治界の重鎮であり、機関の構築に情熱を持っている。朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾訴訟以降、韓国政治をリードしていく中心人物として浮上した。

筆者は、韓国の現在の政治的危機と、そこにある挑戦と可能性について、丁氏と話す機会を得た。韓国国民の衆目を集めている男として、彼はおそらく、韓国の政界を正確に評価するのに最もふさわしい人物だろう。

エマニュエル・パストリッチ:政府の日韓軍事情報保護協定締結もTHAADと同様、政府が決定に急ぎすぎたことが国民の怒りを買っていますが、この問題に関してはどうお考えですか。

丁世均:この問題の重要性や波及効果は、THAADとは比べものにならないでしょう。しかし、過去に日本は正しくないことをしたにもかかわらず、今も過去に対して正直に認めず、謝罪をしてないので、小さな疑惑でも感情的にとても大きく見えるのが事実です。そのため、これが問題になるのです。

また、この問題もTHAADと同様に、きちんとした論議や正当な手続きを経ずに、ことを急ぎすぎてしまったために問題が生じてしまった。この協定締結には情緒的な問題と手続き的な問題があるのです。それに後遺症と言いましょうか、今のところは表に表れていない問題が後に発生するかもしれません。ですから、おそらくしばらくすればこの問題は治まると思われますが、私はこのような国政運営が繰り返されるのは望ましくないと思っています。

エマニュエル・パストリッチ:政府はTHAADの配置も急いでいますが、これに対して議長の立場をお聞かせください。

丁世均:私は以前にもこの問題について指摘をしたことがあります。それは韓国にTHAADの配置がどうしても必要だとしたら、まず議会での議論を経て、それからTHAADの配置の候補地として挙げられてる地域の住民とも十分な協議をしなければならない。また、利害関係のある近隣諸国とも慎重に議論をしてから、問題が生じないようにしてからことを進めるべきだということです。

また、これを国内で推進する場合は、民主的な手続きを守らなければならない、と主張したことで、ひどく反対されたことがあるのですが、私はそれを進めるか、止めるかということより、過程がもっと重要だと思っています。

民主的な過程を通した決定ならば、たとえそれがいかなる結論に達したとしても、我々はそれを認めなければならないと考えます。したがって、第一に、その政策を推進する過程が民主的でなければなりません。そして、THAADの問題は国会の同意を得なければならないと私は思っています。

ところが、政府は国会の同意も得ずにこれを勝手に決定してしまった。これは間違っています。

大韓民国憲法で、外国との条約や重要な試案については、国会で批准(同意)を得ることになっているのですが、その重要な試案のうちの一つが財政の負担なのです。

国民が払った税金が投入される事業は国会の同意を得ることになっています。なぜなら、国民が負担しなければならないのですからね。ですから、経済的な負担がある部分に関しては必ず国会の同意を得ることになるのですが、このTHAADの問題について現政府は、「必要な用地をキャッシュ(お金)で購入するのではなく、政府が保有している他の土地と交換するのだ」と言っているのです。

キャッシュ(お金)はかからないとしても、実質的には政府のプロパティー(資産)が他の人にトランスファー(移転)されるのだから、これは国民の税金が使われるのと同じです。したがって、国会の批准を得なければならないというのが私の考えです。そして、国会で議論をして、国会の同意を得られれば配置をし、同意を得られなかったら配置を中止するのが正しいと、私は思っています。

エマニュエル・パストリッチ:中国の韓国産製品、及び、文化コンテンツの規制、次期アメリカ政権のアメリカ優先主義など、外交分野でもさまざまな問題が山積みだと思います。このような状況の中で国会は何か対案を模索中でしょうか。

丁世均:私は韓国が原則を守る努力をするしかないと思っています。アメリカは韓国の唯一の同盟国でありながらも、中国とは経済的な利害関係が最も大きい国であります。ですから、両国は共にとても重要な国であることには違いがありません。

したがって、いかなる事案に関してもどうするのが正しいか、また、どうするのが合理的か、そして、その原則をしっかりと立てて、力によって振り回されず、正しいものがあれば、その問題を真摯に、かつ誠意をもってきちんと説明して理解を求める努力をし、そして、正しいほうに進んでいくしかないと思います。そうしないと両者とも満足させることはできませんからね。

最大限に誠意は見せるが、国家的な利益や国際規範、また常識的に正しい方向に進んでいくしかないと、私は思います。

エマニュエル・パストリッチ:最近、国定歴史教科書の現場検討本の公開をきっかけに、国定歴史教科書の廃止を訴える世論が沸いています。歴史的な脈略から国定教科書問題を考える場合、この問題はどのように解決されなければならないとお考えですか。

丁世均:私は本来、国定教科書という発想自体が間違っていると強く主張してきました。なので、これは政派的な考えや理念的な次元の問題としてではなく、未来世代への教育、そして、歴史を認識する妥当な視点、こういった次元から捉えるべきではないかというふうに思っています。

したがって、今の韓国の水準から見て、歴史教科書を国定化する必要は全くなく、国定教科書の時代は既に過ぎたということで、国定ではなく検認定教科書にすべきだと思います。それに、国民の大多数が国定教科書に反対し、検認定教科書に賛成しているので、現政府は国定教科書を早くあきらめるべきだと、私は思います。

エマニュエル・パストリッチ:最近、毎週末、ソウルで開かれる大規模なろうそくデモが世界中の多くの市民から注目を集めています。この大規模なろうそくデモへの市民参加は、アジアだけでなく世界でも稀な活力のある韓国の民主主義精神を反映するケースだと言えます。これに関してはどう思われますか。

丁世均:これほど大規模な集会が開かれて、これといった事故も起こらず、まったく平和的で、また文化的な要素までもが加味された形で行われていることには、私も驚いています。おそらく、世界の人々はもっと驚いていることでしょう。崔順実事件のせいで恥ずかしい思いをしたのですが、これでカバーできたと思っています。

私は、アジアの他の国の人や世界の人々が韓国を訪れたときに「見よ、これが韓国の民主主義だ!」、また「見たか、これが韓国市民の水準だ!」と、自負しながら話したいくらい本当に画期的なことだと思っています。また、他の議員たちにはこういうふうに話をしています。「光化門を見てみなさい、韓国国民は一流の国民だ。なのに国会が二流、三流でいいのか。国民の水準に国会がついていかなければならないではないか。」と。これは私の本心です。

そのパワーを韓国の未来の希望に、そして、特に若者の失業や両極化など、我々が抱えている様々な問題を解決するのに上手く活用できれば、と思っています。また、そうすることで韓国国民が皆、共に暮らして行ける国になれると期待しています。

エマニュエル・パストリッチ:韓国は大統領選挙という、重要な歴史的ターニングポイントで新たな指導者を選出することになるのですが、今後、韓国の指導者にはどんなことが要求されるでしょうか。

丁世均:次の大統領は、新たな時代、例えば、4次産業革命など、我々の目の前に差し迫る新たな時代を理解している人でなければならないと思っています。

それから、韓国を一段とレベルアップさせるビジョンや戦略を持っていなければならないと思います。世の中は今、以前とは違う超スピードで変化しています。今までは上手くやって来ましたが、これからは今までの方法だけではやっていけません。ですから、新たな変化を能動的に感知して、それに対応できる、また、新たな戦略を打ち出せる有能な人物が指導者にならなければならないと思います。

それに、今の韓国社会は少子高齢化問題や若者問題が深刻なのですが、若者の失業や住居など、若者問題についてアイデアを持ち、解決の方法を提示して実践できる、このような人物でなければならないと、私は思います。

エマニュエル・パストリッチ:議長は、とても合理的で、健全な政治的見識のお持ち主だと知られていますが、今年起こったブレキジット(イギリスのEU離脱)やトランプ当選などから考えてみますと、今後、韓国の保守や進歩も過去のような姿勢では、刻々と変化する政治的要求を受容することができないと思われます。今後、保守や進歩陣営は、どのような点を補完していかなければならないと思いますか。

丁世均:簡単ではない課題ですね。韓国は「スモール・オープン・エコノミー」と言われており、パートナーと上手く協力してきたのですが、結局、自らが競争力だと言いましょうか、東洋では「自強」と言いますね。自強でなければ、情勢が激変し、多くの困難が混在する状況の中で、自分の地位を守るのはそう簡単なことではないでしょう。

そのため、科学技術をはじめとして、全ての面において、我々は強力さを失うことなく、今まで懸命に積み上げてきた技術をより一層強化させることこそが、混沌する国際情勢の中で韓国が生き残れる道だと思っています。したがって、韓国人の勤勉性や情熱、また、想像力をより一層高める努力が必要であり、そのためには、優秀な指導者が必要だと思います。

そして、今年の大統領選挙で本当に優秀な指導者を国民が選択することで、国際社会から尊重され、韓国と共生しようとするパートナーが多く集まるようになる努力が必要だと思っています。

エマニュエル・パストリッチ:今後、アメリカの次期政権をトランプ大統領が引っ張っていくことになり、韓国の対外貿易政策路線に関しても多くの人が大きな関心を寄せています。貿易に関して韓国は今後、アメリカの新政権とどのような立場で協議を進めていくべきでしょうか。

丁世均:政治の論理をもって、しばらくのあいだは、一定の状況を維持することができるでしょうが、長い目で見てみると、結局は経済の論理によって左右されるものですから、先ほども申し上げましたように、韓国が競争力を維持する限りは、ある特定の指導者が何と言おうとも、韓国はこれからも国際貿易において自分の役割を維持していけると思います。

こうした問題を政治や外交で解決しようとせずに、経済に集中して、自らの競争力を維持することこそが危機を克服できる道だと思っています。例えば、「Made in Korea」の製品がクオリティもよく、プライスも手ごろならば、アメリカの消費者もトランプ大統領の思惑に反して、それを購入することでしょう。直接購入する方法もありますし、アメリカの企業もそれを買って消費者の要求に答えようとするでしょうし、必ずしも大統領の言いなりになるとは限らないでしょう。

エマニュエル・パストリッチ:最近、朝鮮半島を取り囲む東北アジアの情勢は、とても緊迫な動きを見せています。南北の対峙問題を含めて、北朝鮮の核問題によって触発された国際社会の制裁や南北間の緊張状態の高潮、及び、韓国国内の政治的変動において北朝鮮の変数などはどのように見ていますか。

丁世均:北朝鮮の人民も、韓国の力動性にとても注視していることでしょう。

私は、以前からずっと言い続けてきましたが、北朝鮮の核問題は必ず解決せねばならないと思っています。韓国だけでなく、北朝鮮のためにも核開発はよいことではありません。ですから、北朝鮮の核をなくすよう懸命に努力しなければなりません。ただ国際社会の制裁だけでは解決にはならず、対話が必要だと考えます。

したがって、制裁と対話を平行することで、北朝鮮の問題を解決する方法を見つけなければなりません。制裁はあくまでも対話を引っ張り出すための手段であって、制裁自体が目的になっては行けません。北朝鮮の人民や政権に辛酸を与えるのは核問題のせいであって、彼らが苦しむ姿を見て楽しみたいからではないのです。そのため、私は制裁と対話を並行せねばならないと考えるのです。

エマニュエル・パストリッチ:議長がお考えになる「与野党協議体」とはどのようなものでしょうか。

丁世均:通常、国会には国会なりの立法部門の役割があり、政府にも政府の役割がありますが、今は大統領の権限が制限された緊急事態であり、しかも私たちは国内外の多くの問題にも直面しています。

そのため、特段の対策が必要です。これを野党は与野党協議体と呼んだり、国政協議体と呼んだりしています。国会の本来の機能は、政権を牽制し、監視することにあります。同時に、法案も作成します。

ところが、大統領に過度に権限が集中しているのが実情であるため、国会の多くの役割の中で牽制と監視の役割をさらに強化すべきだと考えています。また、現在、我々が直面している懸案の解決に国会がより積極的に参与するべきです。そのような次元で最近の言葉で「協治」をしよう、ということです。

現在、交渉団体が4つありますが、与野党間、そして国会内で4つの交渉団体間及び立法府と行政府間の協治する必要があります。ここから与野党協議体のアイデアが出てきましたが、このようなものが必要だと私は考えます。そしてそうした努力を通じて国の緊急事態を克服し、私たちが直面している状況が正常化されるまでの時間を無駄にせずに活用しようというのが趣旨です。

つまり、緊急時に対応する国会と政府、そして大韓民国の機関の協治の努力が必要であるということです。

エマニュエル・パストリッチ:韓国ではこれまで改憲問題も提起されてきましたが、今回が改憲の機会だという話もある一方、改憲は「第3地帯」などの権力分割のための手段だという指摘もあります。これに対する議長のお考えをお聞かせください。また改憲の方向はどのようになるとお考えでしょうか。

丁世均:改憲は、まず、国民的な共感が基本であり、その土台の上に、国会の各政党が合意をしてこそ、スムーズに改憲が行えます。今はもう、早期選挙が行われることがほぼ確実なので、その前に改憲をすることは容易ではないでしょう。ですが、今年国会に改憲特別委員会が設置される予定です。つまり、政治家側にとって現在の判決、大統領選挙、弾劾は粛々と進行していくものであり、一方で、改憲プロセスはまた個別の議論が行われ、別に扱われるものなのです。

「第3地帯」とは、既存の政党から離脱して、新しく作られたグループのことを指します。この新しいグループは、2政党が推進する方向とは別に自分たちの勢力を育てて、自ら執権しようとするもので、その可能性は常にありますが、現在勢力を得ているとは見ていません。

彼らはもともとこのような弾劾事態がなければ、勢力を拡大するつもりでしたが、弾劾事態が生じたため、彼らもそう時間的な余裕がなく、おそらく難しいでしょう。前述したように、憲法裁判所の弾劾決定と新たな早期大統領選挙という一面と、憲法改正というもう一つの側面がありますが、憲法改正が一体いつになるのかは誰にも分かりません。

いつになるかはわかりませんが、私のもともとの目標は私の任期中に改憲をすることです。そして、改憲の重要な要素は、第一に、分権です。大統領の権限を縮小し、その権限を立法府や他の機関に分け与える水平的分権です。そして、地方分権は垂直分権と言えるでしょう。

中央政府が持っている権限の一部を地域に分け与え、国民の基本権の問題であれ、環境問題であれ、持続可能な成長であれ、さまざまな問題がより広範囲に改憲に反映されることを望んでいます。いわゆる権力構造のみに留まらず、過去30年間の大韓民国の多くの変化や発展が、そこに反映されるような改憲になればと思います。

もともと崔順実(チェ・スンシル)の事件の前に、国民の約60%は改憲に賛成、30%はしなくても良い、残りの10%は分からない、といった世論でしたが、崔順実スキャンダルにより、多くの国民、特に知識人が、「これだから帝王のような大統領制はダメだ。これは政治家の問題ではなく、制度そのものに問題があるのだ」と、批判しており、憲法から制度の見直しを迫られています。

なので「ろうそくデモ」というのは、崔順実一味に罰を与え、大統領をやめさせることが最終地点ではなく、政権を変えることに対して新たな選択肢を作ることも含んでいるのです。民心がそうだといえば、新しい大韓民国を作るために、国会が変わらなければならず、検察も改革され、全般的な改革が必要になるでしょう。

それに加え、「これまで議論されてきた改憲が成し遂げられるべきであり、それこそが根底にあるべきじゃないか」という考えが広がっているため、改憲の雰囲気は成熟していると考えます。

エマニュエル・パストリッチ:早期の大統領選挙、憲法改正などをはじめとするいくつかの問題と現在の状況を総合的に見て、国会議長として弾劾にどのような感想をお持ちでしょうか。

丁世均:国会での弾劾決定に与党のセヌリ党62人が賛成したということは、国民の世論を反映したものです。国民78%が弾劾に賛成しましたが、国会の採決も全く同じ結果です。これを見ると、国民の世論がそのまま立法府に反映され、国会議員をも動かしたと解釈できます。

弾劾問題はすでに憲法裁判所に進んだため、憲法裁判所で比較的迅速に、賢明な判断が下されると思います。しかし、憲法裁がどのような決定を下すかはまだわかりません。国会議員らは、改憲においてゆっくりと、しかし、正当な方法で、国会で議論をしなくてはなりません。「ろうそくデモ」の市民は、国会で弾劾決定がされ、憲法裁判所に進んだので様子を見てみよう、と考える国民もかなり多いようです。

しかしながら、国民は必要であればいつでも自分たちの主張を再度行う姿勢です。重要なのは、国政の懸案、例えばインフルエンザ問題や、経済的な危機、慣行的な行為をはじめとする外交安全保障問題によく対処しながら、政治的なプロセスは、プロセス通りに、そして民主的で平和的で穏当に、整然とうまく解決していくことだと思います。

また、政治家が選挙の勝利のために努力するのは自然なことです。私たちが直面している困難や大韓民国の未来について努力し、また大統領選挙に出馬しようとする人々は、国民の支持を得るために努力をして、それぞれの分野のすべての韓国国民が自分の当面の課題に取り組めば良いと思います。

ですから、大統領選挙に出馬しようとする人々が正当な競争をして、国民の審査を受ければ良いのです。その過程で、自分たちのビジョンを提示し、それを競わせ、国民の評価を受けて、本当に良い指導者が出ればと思います。また候補者たちができればネガティブ・キャンペーンをするよりも、自らのビジョンを戦わせて、国民にアピールすることで、国民の支持を得る努力をしてくれればと思います。

時間があまりないですが、良い公約をたくさん打ち出して国民にアピールし、国民の支持を得る、といった建設的なキャンペーンが行われることを期待しています。

エマニュエル・パストリッチ:国政協議体で議長はどのような役割をするお考えでしょうか。またどのような議題を早急に扱わなければならないのかお聞かせください。

丁世均:いろいろありますが、民生経済が第一だと思います。第二は、北朝鮮の核問題を含む外交安全保障問題です。民生経済と外交安全保障問題について、政府がこれまで見逃した部分がないか、そして政府を助けられる部分はないか、といった議論をして国政の革新的部分が滞りなく運営されるように、議会と政党が役割をして欲しいと思います。

注目記事