こんにちは、フリーライターの宮里です。
スマホやタブレットの充電に大活躍のUSB充電ケーブル。どれも同じだと思われがちですが、ケーブルによって充電速度のバラツキが激しく、安いケーブルは避けた方がいいと言う人も結構います。そこで、本当に安いケーブルはダメなのか、100円ショップで売られている商品をかき集めて実験してみました。
この記事は、身近にある「疑問」や「不思議」を実験して検証する『ウェブ情報実験室』です。
実験の目的
100円ショップで売られているUSB充電ケーブルの性能を調べ、外見で優秀なケーブルを見極める。
動機
今年の夏前あたりにふらっと北海道へ行ったのですが、その時、いつも使っているUSB充電ケーブルを忘れていってしまったんですよね。あわてて近くの100円ショップでUSB充電ケーブルを購入したのですが、モバイルバッテリーにつないで充電しながらスマホを使っていると、電池残量が増えるどころか減っていきます......。どうやら充電速度が消費速度に間に合っていなかったようです。
たまたま2種類のケーブルを買っていたので、もうひとつのケーブルを使ってみたところ、こちらは問題なく充電しながらスマホが使えました。
充電が間に合わないケーブルはもう二度とつかみたくない。そんなわけで、今回の実験では単純に性能を比較するだけでなく、見た目である程度性能が絞れないかを考えてみました。
実験対象
今回試したのは、100円ショップの「キャンドゥ」「ダイソー」「セリア」で売られている14製品。これに加え比較用として、手持ちのケーブルの中では充電が速いと感じているルートアールの「RC-UHCM10R」を選びました。
ちなみに100円ショップのUSB充電ケーブルは驚くほど数が多いため、色違いや形状が似ているものはなるべく避けています。また、製品によっては製品名や型番が不明なものがあるため、この記事では製品名ではなく、通し番号を付けて呼ぶことにします。
キャンドゥ3製品: C1、C2、C3
ダイソー6製品: D1、D2、D3、D4、D5、D6
セリア5製品: S1、S2、S3、S4、S5
比較用ケーブル: Red(RC-UHCM10R)
実験方法
実際にスマホに接続し、0%から100%になるまでの時間で比較するのが理想ですが、さすがに時間がかかり過ぎます。ですので、条件をそろえた場合に出力できる電圧、電流値で性能の優劣を探る方法を選びました。
<実験1>
まずは実機のスマホを使った実験。ターゲットのUSB充電ケーブルがどのくらいの充電性能をもつかを調べるのが目的です。スマホは手元の「Xperia Z Ultra」を使い、USBの電圧と電流が測れる簡易計測器「RT-USBVAC3QC」で計測しました。なお、Xperia Z Ultraのバッテリー残量は、52~56%の間です。
<実験2>
もうひとつは、固定抵抗を使った実験。スマホのように充電状況によって条件が変わらないため、純粋なUSB充電ケーブルの品質を調べるのが目的です。電流を2A流せるUSB抵抗器を使い、実験1と同じく「RT-USBVAC3QC」で計測しました。なお、抵抗値は5Vで約2Aが流せる2.35Ωとなっています。
ちなみにどちらの実験も、使用するUSB-AC電源との相性問題を避けるため、2A以上の出力ができる4製品で計測しています。
左から、2A出力のサンワサプライ「ACA-IP34」、2.4A出力のルーメン「LAC-1UQC2」、2.4A出力の日本トラストテクノロジー「CUBEAC224」、8A出力のANKER「71AN7105」です。
実験結果
まずは実験1の結果から見ていきましょう。単純に電圧と電流とを見るだけではよくわからないので電力を算出、さらに4つのUSB-AC電源の結果を平均しています。
上位3製品をピックアップすると、S1がトップ、僅差でC2、そしてS2という順位になりました。最高値のS1と最低値のS5を比べると、その差は約1.8倍。ケーブルによって充電時間に大きな差があるというのも納得できる結果です。
次に実験2の結果を見てみましょう。こちらも電圧と電流を見るのではなく、平均電力を算出しています。
負荷が固定されている場合、ケーブルがなんであれ電力を引っ張るためか、スマホ実機を使ったテストより差が少ないようですね。こちらの順位を見てみると、S2、S1、C2という順位になりました。
順位の入れ替わりこそありますが、どちらの実験でもトップ3製品は同じという結果です。
単純に充電速度が速いケーブルが欲しいというのなら、好成績となったこの3製品から選ぶといいでしょう。
ここで少し視点を変えて、電力ではなく抵抗値を見てみます。
実験1では、ケーブルによって電力が変わることからスマホを可変抵抗とみなし、スマホ込みの抵抗値を算出。実験2の場合は負荷が固定抵抗(2.35Ω)なので、この値を引いたUSB充電ケーブルの抵抗値を算出してみました。なお、計測器の内部抵抗など、その他の要因は無視しています。その結果が次のグラフです。
青が実験1、赤が実験2の結果ですが、おもしろいことに、傾向が非常に似通っています。USB充電ケーブルの抵抗値は数値としては0.5Ωなど非常に小さなものですが、このわずかな差をスマホが認識し、充電速度を変えている......と考えてもよさそうですね。
ここからは、USB充電ケーブルの外見と性能の関係を探っていきましょう。
実験2の結果から、ケーブルの抵抗値が低いほど実際の充電性能も高いという傾向がわかっています。そして一般に、導線の抵抗値は断面積が大きいほど、長さが短いほど低くなります。つまり、この2つをムリヤリ結び付ければ、ケーブルは太いほど優秀、短いほど優秀になるのではないか、という仮説が立てられるわけです。
まずは太さから検証していきましょう。今回用意した製品の断面積を太さから計算し、大中小の3グループにわけてみました。
大: C2、D3、S1、S2、S4
中: C1、D1、D5、S3
小: C3、D2、D4、D6、S5
実験1の結果を使って平均電力で比べてみたのが次のグラフです。
中グループと小グループの差はわずかですが、断面積が大きい、つまり太いほど性能も高いという傾向が見てとれます。なお、ここの断面積はあくまで被覆も含んだもので、中にある導線の断面積ではありません。この時点で仮説が怪しくなってますが、結果として傾向が出てるので気にしないことにします。
続いて長さについて検証してみます。こちらも40cm以下、50cm、70cm以上という3グループにわけ、実験1の平均電力で比べてみました。
40cm以下: C2、C3、D2、S1
50cm: C1、D3、S2、S3、S4
70cm以上: D1、D4、D5、D6、S5
先ほどの太さよりもキレイに差が出て、短いほど電力が高い、つまり優秀だということがわかります。
外見から判断するということで、次は形状に注目してみましょう。フラット(きしめん)、カール、リール、ストレートの4グループにわけて比べてみました。
フラット: C2、S1、S4
カール: C3、D2
リール: D4、D6、S5
ストレート: C1、D1、D3、D5、S2、S3
形状の種類別ではフラットが若干有利なくらいであまり差は感じないですが、リールだけは明らかに低くなっています。リールは長いケーブルをコンパクトに持てるというのが特徴ですから、長さの影響が大きいともいえますね。
最後は外見ではありませんが、データ通信ができる製品とできない製品とで検証してみましょう。
通信可: C2、D2、D3、D4、D5、D6、S2
通信不可: C1、C3、D1、S1、S3、S4、S5
グラフにするまでもありませんが、どちらもほとんど同じ結果となりました。そもそも、通信できない製品の中にトップのS1と最低のS5がいる時点で、データ通信の可否は性能に関係なさそうですよね。
結論
以上の実験結果から、外見からUSB充電ケーブルを選ぶ時に気を付けたいポイントをまとめると、
1. 太いほどアタリの可能性が高くなる
2. 短いほど性能は高くなりやすい
3. リールは性能が低いが、カールやフラットなどの形状はあまり影響しない
4. データ通信の可否は関係ない
といったことが言えそうです。
とはいえ、今回試した中でも期待外れなものがあったりしますし、スマホによっては違う結果になるでしょう。すべてがこれに当てはまるわけではありませんので、あくまで参考ということで。
なお、ここまで触れずにきていましたが、比較対象とした「RC-UHCM10R」は100cmと長くてもどのケーブルより抵抗値が低く、そして電源を選ぶことなくしっかりと充電できます。短いケーブルなら100円ショップでもいいですが、長いケーブルが欲しければ安物はダメ。しっかりした製品をおすすめします。
(2015年11月06日 Engadget 日本版「100均『USBケーブル』は外見で選べ? 100円ショップで購入できるUSBケーブルをいろいろ比較してみました(ウェブ情報実験室)」より転載)
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