一部のユーザーが抗議していた「絵文字は白人偏重、人種的多様性を反映していない」にアップルが早くも対処しました。
開発者向けに配布が始まった iOS 8.3 beta 2 では、従来の絵文字のうち顔や人体を描いたものに対して、標準のほかに5色の肌色を指定できるようになっています。
米国などで一部の団体やユーザーが主張してきた「絵文字と(人種)多様性の問題」は、絵文字は白人ばかりを含んでいて人種的多様性を反映していない、白人以外には自己を表現する文字を与えないことで、アップルなどの企業はコミュニケーションの場から少数派を不当に排除している、といった内容です。
もともと日本の携帯文化から生まれた絵文字は、アップルやGoogleの働きかけにより
国際規格Unicodeに取り込まれ、世界の emoji になった経緯があります。
情報量の少ない線画時代から絵文字を使い慣れた日本人にとっては、たとえば「アップルの絵文字にはアジア系男性がひとり、インド系がひとりいるほかは全員白人。非白人を蔑ろにする姿勢は明白」といった主張を聞いても戸惑います。しかし携帯端末の進歩により抽象だったはずの絵文字もカラフルに高精細になり、たとえば「定義:プリンセス」の絵文字に対してこれは「姫的なるもの」を象徴しているだけと言おうにも、実際にはどう見ても金髪碧眼に雪花石膏の肌、薔薇の頬の女性が描かれており、はたして人種多様性を反映しているのか?と改めて問われれば、たしかにしていないと答えざるを得ません。
抽象的なユニコードの定義に対して実際の絵文字グラフィックを用意した側のアップルは、こうした主張を真剣に受け取っており、
・アップルとしても絵文字に多様性が不足していることには同意する。しかし Emoji はさまざまなプラットフォームでの相互運用のため、標準規格であるユニコードに準拠する必要がある。
・アップルはEmoji のキャラクターセットにもっと多様性を反映するため、規格のアップデートを目指してUnicode コンソーシアムと密接に協力して作業を進めている。
と回答していました。
従来の絵文字のうち人体が書かれたものをただ肌の色だけ新たな文字として増やせば、非互換の環境では単に表示できず、多様性どころか顔なのか人なのかすら通じない可能性があります。そこで Unicodeでは従来の絵文字はそのままに、肌の色を指定する識別文字を追加して二文字並べる方法が提案されていました。この方法ならば、対応環境では解釈して1文字として表示し、非互換の環境でも少なくとも元の絵文字は表示できます。
追記:トップ画像の左端、濃い黄色の顔はいわゆる「黄色人種」ではなく、デフォルトの「人種を特定しない」肌色。アップルとGoogleによるUnicode提案では、肌色としてフィッツパトリックスケールを反映した5種類を設定しています。
フィッツパトリックスケールは、皮膚科学で標準的に使われる分類。人間の肌の種類を6種類に分類します(本来は紫外線に対する反応による分類で、真っ白で日焼けすると赤くなるタイプから、いわゆる小麦色に日焼けして褐色が濃くなるタイプ、日焼けしてもほとんど分からない濃い褐色まで)。
フィッツパトリック分類のうち、もっとも色素が薄いタイプ1と2はまとめてひとつに扱われるため、肌の色として選ぶのは5種類。
iOS 8.3 b2 の実装ではいずれのタイプにも「肌色」を代表させず、デフォルトには濃い黄色が設定されています。つまりスマイリーの顔の黄色と同じ。
iOS 8.3 b2 のスクリーンショットでは、従来の絵文字からポップアップで数種類の肌の色が選択できることが示されています。従来のソフトウェアキーボードで記号付きアルファベットを入力するときのように、インターフェースとしては長押しして現れた候補から選択するようです。
iOS 8.3 の正式なリリース時期は今のところ未定。また 8.3 リリース時に新絵文字が含まれるかも確定したわけではありません。
(2015年2月24日engadget日本版「アップル、絵文字に人種と肌の色の違いを導入。iOS 8.3 / OS Xベータから」より転載)
【関連記事】