ドローンが命を救うプロジェクト発足 生死分ける心肺停止後の8分半、AEDを空から現場に

救急の日の9月9日、救命医療にドローンなどを活用する新プロジェクト「Project Hecatoncheir」(プロジェクト ヘカトンケイル:百腕巨人プロジェクト)が発足しました。

救急の日の9月9日、救命医療にドローンなどを活用する新プロジェクト「Project Hecatoncheir」(プロジェクト ヘカトンケイル:百腕巨人プロジェクト)が発足しました。

50の頭と100本の腕を持ち、ゼウス軍を助けたとされる古代ギリシャ神話の3人の巨人たち Hecatoncheir の名を冠したこのプロジェクト。「命を救う100本の腕にしたい」という願いが込められています。

「ドローンで命を救う」――どのように?

Project Hecatoncheirの目的は、ドローンを含め、ICTを災害などの救命医療現場に活用し、少しでも多くの命を救うというもの。国際医療福祉専門学校・ドローン有効活用研究所が中心となってスタートさせました。

プロジェクトリーダーの小澤貴裕氏(国際医療福祉専門学校専任教員/ドローン有効活用研究所上席研究員)は、自身の救急救命士としての経験を解説。

「脳と心臓は損傷すると治らない不可逆的臓器。心肺停止から8分半経過すると、命が助かる可能性がぐっと減ってしまう」。最大の命題は「できるだけ早く救命活動を行うこと」だといいます。

また、救命医療が求められるのは屋外だけではありません。自宅にいたとしても、同居人が心肺停止に気づかないことがままあり、それからの119番通報では除細動機(以降AED)の到着が遅れてしまうといいます。スライドでは、救命において重要なチェーン・オブ・ザ・サバイバルが映し出され、2番目と3番目のリングが途切れがちだと説明されました。

そこでHecatoncheirが提案するのがウェアラブル端末などによるIoTの活用とドローンなど次世代インフラによる医療物資搬送です。自宅において心停止状態に陥ったとしても、身に着けているウェアラブル端末から位置情報も含めて自動通報し、ドローンがAEDを付近に届けるというわけです。

また、的確な判断と指示には現状を知ることが重要です。ドローンがあれば、搭載する小型カメラで周囲の状況が確認でき、映像を救急隊のゴーグルに映し出せば、救急隊員が状況を理解しやすくなったり、的確な指示を受けたりといったメリットもあります。

ドローンに立ちはだかる壁

しかし小澤氏は、ドローンの実用化にはいくつか越えなければならない壁があると述べます。その1つが9月4日に可決された改正航空法で、ドローンの飛行ルールとして、都市部など家屋密集地域や空港周辺、夜間などの飛行を禁止するというものです。

小澤氏は規制解除について、消防・医療機関から協力を得て数多くの実証実験を行い、国や自治体に活用モデルを提案していく必要があるとしています。

また、荷物の重さも課題。国内のAEDは現在2.3kgですが、小澤氏はより飛行時間が延びる300g程度のAEDの必要性を説きました。現状でもスイスには500g以下のものがあります。

「ほとんどの人は3回で蘇生します。AEDの使用は2分に1度。4分でドローンがAEDを運ぶとして、3回使いきるまでに6分、合計10分稼げます」と小澤氏。ちなみに救急隊員が現場に到着するまでの平均時間は10分間です。

このほか部品の調達も課題とし、機体開発・研究に携わる岡田竹弘氏は国内開発の必要性を指摘。「外国製は機体が大きい。実証実験で確保できるスペースが限られてしまうので大きい機体では難しい」としました。将来的に、使い捨て用途や宅内へ入ることを想定すれば、小型化が必須と説明。

岡田氏は独自フライトコントロール(FC)プログラムをはじめ、小型で拡張性の高い純国産の機体を開発。またプロペラが人を傷つけることがあるため、ケージ内に本体を格納したものもあります。

以下の動画は岡田氏が開発した純国産のドローン。動画の尺は1分32秒。

まるで巨大なロボット

ソフトウェアを担当する大畑貴弘氏は、Project Hecatoncheirの最終イメージを「都市全体をあたかも大きなロボットとして機能させる」と説明。

IoTで情報を収集し、知能の役割を担うICTで適確に判断。ドローンだけでなく、海上保安庁や救急隊員、医療機関が動く(駆動する)ことを巨大ロボットと形容しました。こうした情報の収集管理はオープンソースで行う計画です。

Hecatoncheirが運搬用に考えている機体は3タイプ。そのうちMicro DronesとMiddle Dronesは実験済み。垂直離着陸が可能で飛行距離の長い有翼機 Large Drones に関しては海外と交渉中とのことです。

プロジェクト実現に向けて佐賀県庁職員で救急車両へのiPad導入などICT活用に取り組む円城寺雄介氏、医療安全の専門化 沼田慎吉氏、ドローンに詳しい 稲田悠樹氏らが参画。稲田氏は「ドローンについては不足していることがまだまだ多い。ポジティブな情報を発信することで、良いイメージを抱いてもらいたい」と語りました。

小澤氏は結びの言葉の中で「要救助者やその介助者にとっては、到着したドローンから指示を受けられるだけで圧倒的な安心感が得られる。そのための実用化 第1段階は災害時のサーチ・アンド・レスキュー。遅くとも2年以内、早ければ1年以内の飛行を目指します」と話しました。

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