電気自動車のテスラモーターズが、F1 の レッドブル レーシングチーム(RBR)で長年チーフメカニックを務めたケニー・ハンドカマーを迎え入れることを発表しました。テスラの CEO を務める実業家イーロン・マスクがツイッターで明かしたもので、ハンドカマーは、テスラモーターズのサービストレーニング部門を担当します。
テスラモーターズは昨年暮れ、カリフォルニア州でガソリンスタンドならぬバッテリー交換スタンドの試験営業を開始しました。これはすでに世界的に展開しているバッテリー充電ステーションとも異なり、新品の充電済みバッテリーパックを購入して取り替える方式を採用します。いまのところ対象はテスラ モデル S のみとなっています。
現在、バッテリー交換スタンドで必要な作業時間は3分前後。これは充電ステーションで30分かかって充電するのに比べればはるかに早く、イーロン・マスクは「無料でできる充電を選ぶか、すぐに済むバッテリー交換を選ぶかはドライバー次第」としていました。
しかし、バッテリーを交換するにしても運転席に座ってただ3分間を待つのは意外と長く感じるものです。そこでイーロン・マスクは主力車の飛躍的なサービス向上のためにハンドカマーを迎え入れ、彼が持つ F1 の技術ノウハウを導入することにしました。
ハンドカマーは昨年まで F1 のトップチーム、レッドブル レーシングチーム に所属し、チーフメカニックとしてセバスチャン・ベッテルの4年連続ワールドチャンピオン獲得に貢献しました。それ以前もベネトンフォーミュラ チーム時代にはミハエル・シューマッハ担当メカとして2年連続のタイトルを獲得し、ベネトンチームが買収されルノーF1チームとなった後もエースドライバーのフェルナンド・アロンソを担当していました。
F1 レースでのタイヤ交換作業は、レース中の給油が禁止されていた1980年代後半で約9秒ほどの時間がかかっていました。これでも素人からすればとんでもない速さですが、その後給油可能な時期を挟んで、再び給油禁止レギュレーションとなった2010年代の現在、ピットストップでのタイヤ交換は2秒前後にまで短縮されています。
もちろん F1 方式のタイヤ交換技術がそのまま EV のバッテリー交換で使えるわけではありません。しかし、いかに早く交換作業を完了させるかという点において、タイヤ交換のコンマ1秒のためにしのぎを削ってきたハンドカマーのノウハウはそれなりに応用が効きそうです。F1からの技術転用で、数年後のテスラのバッテリー交換がどうなっているのか、非常に気になるところです。
昨年、レッドブル レーシングチーム からセバスチャン・ベッテルが離脱し、フェラーリ F1 チーム への移籍を発表しました。当初はハンドカマーもそれに続くと思われていましたが、蓋を開けてみれば誰も予想しなかったテスラモーターズへの加入。ハンドカマーは「これまで素晴らしい仲間たちと何度もチャンピオンシップに勝ってきました。そろそろ新しいものに挑戦したいと思っていたところで、市販車業界の最もビッグなイノベーターの一人とともに仕事ができるのが楽しみです」とコメントしています。
下は2013年、F1 日本GP における ロータス F1 チーム のタイヤ交換の様子。
(2015年02月12日Engadget日本版「テスラがレッドブルF1チームの元チーフメカを引き抜き。バッテリー交換にF1技術を導入」より転載)