Netflix、衝撃作「13の理由」の自殺シーンを削除。佐々木俊尚さん「文化の保存としていいのだろうか」

Netflixは、オリジナルのドラマ「13の理由」から10代女性の自殺シーンを削除した。「若者が影響を受ける」などと指摘されていた。

アメリカの大手動画配信サイト「Netflix(ネットフリックス)」は7月15日(日本時間)、オリジナルドラマ「13の理由」から、10代女性の自殺シーンを削除したとTwitterで発表した。

私たちは、「13の理由」を視聴したたくさんの若者が、うつや自殺といった難しい問題について話せるようになり、助けを求めることができるようになったと聞いています。今夏、シーズン3を配信するための準備をするにあたり、このドラマに関して議論されていることについて気を配りました。アメリカ自殺防止協会クリスティーヌ・ムーティエ医務部長らのアドバイスにより、私たちは製作総指揮を担当したブライアン・ヨーキーやほかのプロデューサーたちと話し合い、ハンナが自ら命を絶つ場面を編集することを決断しました。

「13の理由」は、ある日、男子高校生クレイ・ジェンセンが、謎のカセットテープを受け取ったことをきっかけに、好意を寄せていた同級生ハンナ・ベイカー の自殺の真相に迫っていくストーリー。

シーズン1は2017年3月に公開され、翌年5月にはシーズン2が公開された人気作だ。

「13の理由」のハンナ・ベイカー
「13の理由」のハンナ・ベイカー
Netflix

Netflixによると、編集されたのはシーズン1の最終話で、ハンナが自宅の風呂場で手首を切って自殺する場面。

他にも、ハンナが両親が経営する店から刃物を盗むシーンが編集されているという。現在配信されている動画では、既に該当シーンは見られなくなっている。

ニュースを報じたニューヨークタイムズによると、編集された自殺のシーンは、以前から教育関係者やメンタルヘルスの専門家らに、若者を刺激し、彼らが模倣する危険があると指摘されていた。

またアメリカ児童青年精神医学会(AACAP)の研究によると、シーズン1公開後の2017年4月、10~17歳の若者の自殺率が急増し、過去5年で最も高くなったと、ニューヨークタイムズやAFP通信などが報じている。

Netflixの担当者はハフポストの取材に対し「若い人の難しい問題を扱った力強い作品と思っているが、その分様々な調査結果が出ていることは把握していた。多数の専門家らにアドバイスを受け、脚本・製作総指揮のブライアン・ヨーキーとも相談した結果、シーンを修正するのが正解と判断しました」と話した。

日本のテレビや映画でも同様の事案

日本のテレビ番組や映画でも、過激な描写が問題視され、批判を集めたり打ち切りになったりした例がある。

1998年に放送されたテレビドラマ「聖者の行進」(TBS系列)は、知的障害者らが働く工場を舞台に暴力や性的虐待を描き、スポンサーだった製薬会社が提供を降りる事態へと発展した。

また児童養護施設を舞台にした「明日、ママがいない」(日テレ系列、2014年)では、赤ちゃんポストを設置する病院や児童養護施設の関係団体から抗議を受けた。

他にも中学生同士が殺し合う映画「バトル・ロワイアル」(東映、2000年)は少年犯罪問題に関連して国会で取り上げられ、フジテレビ系列のバラエティー番組「めちゃ×2イケてるッ!」の人気コーナー「しりとり侍」は「暴力やいじめを肯定している」と指摘を受け、2001年に打ち切られた。

だが今回は比較的自由度が高いネットドラマでの出来事。しかも、公開されてから既に2年以上がたっている。

ジャーナリストの佐々木俊尚さんは「アメリカでは既にテレビ番組よりもネット配信サイトの番組が視聴されており、日本よりネット番組の影響力が大きい」と前置きしつつ、次のように話した。

「ネットのストリーミング配信は、配信する側が削除してしまえば、ビデオテープやDVDと違ってユーザーの手元に残らない。どこからどこまで規制するという基準が明確ではないのに、配信側の都合で動画を削除してしまうのは、文化の保存としていいのだろうか。じゃあ殺人シーンや古い映画の喫煙シーン、差別的表現は?などキリがない」

「人の生死に関わる問題は複雑です。直接的な死の表現だけが命に関わる、という考えは危険です」

「文化として『これは良くないことだよね』と言える方向に持っていくことが、表現の自由と規制のバランスをとる唯一の方法だと思います」

「番組に込めたメッセージよりも大切なシーンはない」

自殺シーンのカットについて、ブライアン・ヨーキー氏も「13の理由」公式ツイッターアカウントでコメントを発表した。

主な内容は次の通り。

シーズン1で醜く苦痛な自殺の現実を詳細に描いたのは、この行為の恐ろい真実を伝え、誰も真似したいと思わないようにするという意図がありました。しかし、シーズン3を配信するにあたり、アメリカ自殺防止協会のクリスティーヌ・ムーティエ医師などからこのシーンに関しての懸念を聞き、Netflixとともに再編集することに同意しました。この番組の命と、番組に込めたお互いに気遣い合うべきだというメッセージよりも大切なシーンは存在しません。この編集が、特に繊細な若い視聴者のあらゆるリスクを軽減しながら、ドラマが多くの人々にとって最善なものになることを信じています

Netflixは注意喚起のメッセージ動画や、悩みがある場合は相談を促すウェブサイトを作成し、公開している。動画では出演した俳優らが「このドラマをきっかけに話し合って欲しい」「勇気を出して話せたら楽になれる」と訴え、事件の被害者である場合は視聴を避けるよう呼びかけている。

相談窓口の一例

よりそいホットライン(0120-279-338)24時間対応で通話無料

・東京いのちの電話(03-3264-4343)24時間対応

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