2019年、メディアを誰も助けには来ない

この数年で最大のリストラの波がジャーナリズムを襲う――。

2019年は、この数年で最大のリストラの波がジャーナリズムを襲う――。

オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所の上級研究員、ニック・ニューマン氏が9日に公開した報告書「ジャーナリズム、メディア、テクノロジーのトレンドと予測2019」は、そんな予測を示す。

また、同研究所の所長で同大教授のラスムス・クライス・ニールセン氏も、その逆境を「誰も助けには来ない」と指摘する。

すでに2018年に明らかになったメディアの下降線は、その勢いを増していくようだ。

●29カ国、200人のメディア幹部を調査

ニューマン氏の報告書は48ページ。2018年12月に日本を含む29カ国、200人のメディア幹部を対象としたオンラインアンケートがベースになっている。

国別では英国(33%)、ドイツ(12%)、スペイン(10%)など、欧州各国が中心となっている。

対象者の内訳は編集長(40人)、デジタル責任者(30人)、CEO(18人)など。

その結果と合わせ、2018年の動向と2019年の展望をまとめている。

筆者のニューマン氏は、報告書冒頭のサマリーで、このように断じる。

ジャーナリズムは、すでに構造転換の中で広告収入の大幅な下落に見舞われているが、その空洞化はなお続くだろう。メディアはその落ち込みを埋めるためにサブスクリプション(課金)に目を向けている。だが、2019年にはその限界も明らかになりそうだ。これらのトレンドを勘案すれば、ジャーナリズムには、この数年で最大のリストラの波が押し寄せるだろう。それによって、ポピュリスト政治家やパワフルなビジネスリーダーに説明責任を果たさせるメディアの力は、より弱体化することになる。

●2018年の逆境

メディア業界の逆境は、2018年を通じて一段と色濃くなっていた。

ヴォックス・メディアは2月、全スタッフの5%にあたる50人のリストラを実施。2017年11月末に100人のリストラが報じられたバスフィードは、2018年6月にフランス版の閉鎖明らかになった。ミレニアル世代をターゲットにした「マイク(Mic)」は、11月末、スタッフの大半をリストラした上、2017年の評価額1億ドル(約110億円)の20分の1、500万ドル(約5億5000万円)で、女性向けメディアグループ「バストル」に売却されている。

その背景には、フェイスブックが2018年1月に実施したニュースフィードのアルゴリズム変更で、ニュースサイトの表示優先度を下げたことや、同社が旗を振った「動画へのピボット」が期待はずれだったことなど、様々な要因が指摘されている。

●サブスクリプションへの期待

ニューマン氏の報告書では、「2019年、最も重要なデジタル収入は」との設問で、各国のメディア幹部の半数(52%)がサブスクリプションをあげている。

以下、ディスプレイ広告(27%)、ネイティブ広告(8%)、寄付(7%)の順だ。

だが、「2019年、重要、もしくは非常に重要なデジタル収入は」との別の設問だと、ディスプレイ広告(81%)、サブスクリプション(78%)、ネイティブ広告(75%)、イベント(48%)の順。

サブスクリプションに本腰を入れた取り組みは、大方のメディアでまだ緒に就いたばかりで、収入面ではなお、広告が大きな比重を占めている事情がわかる。

サブスクリプションの成功例であるニューヨーク・タイムズは、デジタル購読者が310万人となり、紙と合わせて400万人超の読者を擁する。

だが、これに追随するその他のメディアでは、同様の成功を収めているとは言えない状況だ。

一方で、ペイウォールの乱立に対して、これを回避するソフト「ペイウォール・ブロッカー」も登場し、サブスクリプションモデルの行く手を阻んでいる、と報告書は指摘する。

●誰も助けてくれない

アンケートでは、「2019年にジャーナリズムへの支援が見込めるのは」との設問もある。

これに対して、「誰からも助けはない」と「財団とNPO」が同じ29%でトップ。以下、「プラットフォーム企業」(18%)、「政府」(11%)となっていた。

かつて、フェイスブックなどのソーシャルメディアに依存した「分散型メディア」モデルが注目を集めた。

だが、このモデルの地盤沈下は、2018年にいたるソーシャルメディア依存型の相次ぐ不振で明確になった。これにともなうメディアのグーグル回帰の傾向もアンケートでは示されている。

「2019年の各プラットフォームの重要度」についての設問で、「非常に重要」「極めて重要」との回答があった割合ではグーグルがトップで87%。次いでアップルニュースとフェイスブック(いずれも43%)、ユーチューブ(42%)、インスタグラム(31%)、ツイッター(29%)の順だった。

●厳しい現実に向かい合う年

ラスムス・クライス・ニールセン氏が、メディアサイト「ニーマンラボ」の年末特集「2019年のジャーナリズム展望」に寄せた論考は「誰も助けには来ない、長く緩慢な苦境」。

より直截的な表現で、ニューマン氏と同様の認識を示す。

2019年はニュースのビジネスにとって、新たなひどい年になるだろう。そしてジャーナリストたちは、誰一人助けには来ないという厳しい現実に直面せざるを得ない――心優しい億万長者も、プラットフォーム企業も、政策担当者も。

そして、メディアが注目するサブスクリプションのハードルの高さについても、こう断じる。

大半の報道機関にとって、これは抜本的な転換を迫る。単にペイウォールを立てて、人々が購読してくれるのを待ち望むだけではすまない、はるかに厳しいものだ。現在、ネットで配信されているニュースの大半は、単純に、金を払う価値がない。ほんの一瞬のアテンションの価値すらないものもある。まして課金など。

それをつくれば、彼らはやって来る――という、いわゆる「フィールド・オブ・ドリームス症候群」がなお、メディア業界には残っているようだ。

援軍など期待できない中で、サステナブルな状況をつくりだす方策は、メディア自身の変革しかない。

金を払う価値のあるジャーナリズムで、「一人ずつ購読者を獲得し、維持し、積み重ねていく」。そのためには、長い時間がかかることを覚悟しなければならない、とニールセン氏は辛めの声援を送っている。

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(2019年1月12日「新聞紙学的」より転載)

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