「大丈夫ですか」より良い声のかけ方とは?2020の「おもてなし」に向け今からでもできること

受け入れる側の「心の準備」はどうだろう?

障害者・高齢者へのおもてなしのために

2020に向け準備が進む東京。スタジアム建設やオフィシャルグッズの販売は順調なようだが、受け入れる側の「心の準備」はどうだろう?世界中から訪れる人たち、障害者や高齢者へもきちんと「おもてなし」が出来るだろうか?

東京2020大会組織委員会アドバイザーであり、「障害(バリア)を価値(バリュー)に」をテーマに事業展開する株式会社ミライロ代表取締役社長の垣内俊哉さんは「まずは3つのバリアを解消しましょう」と指摘する。

株式会社ミライロ代表取締役社長 垣内俊哉さん

バリアを無くすより作らないことが大事

①環境のバリア

リオや平昌も視察した垣内さんによれば、東京は世界的にもバリアフリーが進んでいて、車椅子で入れる飲食店は全体の10%で他地域と比べると高く、増加傾向にある。スマホやPCを充電できる店も多い。

「とはいえ、予算や建物の事情でバリアフリー化できないお店もあります。だから今後はバリアを無くすより作らないことが大事。あとからスロープを作るとお金がかかるので、設計段階で織り込めばいい。残念ながら、東日本大震災において障害者・高齢者の死者は健常者の2.5倍と言われています。環境のバリアを取り除くことは命を守るためでもあるんです」

もちろん、バリアフリー化できない店舗にもできることはある。それは③で述べる。

日本財団パラリンピックサポートセンター顧問としてリオを視察

提供すべきは押しつけではなく選択肢

②意識のバリア

「日本の企業や人は、無関心か過剰になりがち」と垣内さん。

日本人は責任感が強く、知識や技術が無いなら接するのは止めた方がいい、専門家に任せた方がいいと「無関心」を装ってしまうことが多い。その一方で「過剰」、そこまでしなくていいよ、という対応をしてしまう。思いやりの表出なので悪意は無いが、気持ちのすれ違いが生じる。

「例えば、車椅子を勝手に押す、視覚障害者の手を勝手に引くのは、その人が本当に求めていることかどうか。必要なサポートは人それぞれ違うのに、こうして欲しいだろうという固定概念で接してしまう。レストランなどで車椅子ユーザーが来ると店の椅子をどけてくれますが、血管が圧迫されて血流が悪くなるなどの関係で椅子に移りたい人もいる。それに2020期間中は座ったままだと暑くて蒸れるでしょう。ぜひ『車椅子のままお食事されますか、椅子にお移りになりますか』と聞いて欲しいですね。提供すべきは押しつけではなく選択肢なんです」

「声をかける時に『~できますか?』『大丈夫ですか?』はできるだけ避けた方が良いです。そう聞かれたら『できます、大丈夫です』と答えてしまうもの。相手に無理をさせてしまうかもしれません。正解は『何かお手伝いできることはありますか?』。東京は『おもてなし』で2020を勝ち取ったのに、日本の障害者や高齢者に声をかけられなくて海外から来た方に声をかけられるはずがない。これが日本のおもてなしだ、とみんなが思って帰ってくれるよう学んで欲しいですね。そのための『ユニバーサルマナー検定』も実施しています」

情報共有アプリに発信するだけで社会貢献に

③情報のバリア

東京のサービスは世界の中でも充実しているのに、それを探すのが難しいというバリア。

充電できる店はスマホやPCだけでなく電動車椅子ユーザーにも大事な情報だ。クレジットカードや電子マネーが使えるかは、インバウンドだけではなく紙幣で決済しづらい視覚障害者も知りたいこと。

「段差の解消やエレベーターの設置ができないお店でも『クレジットカード使用できます』と書いてあるだけで助かる人はたくさんいます。車椅子ユーザーにとって段差は1段か2段以上かで、何人の補助が必要か変わります。その情報が発信されていれば『3人で行けば入店できるな』などと判断できる。今は誰でも簡単に情報を投稿・閲覧できます。お店の関係者でなくても『あの店にはスロープがあるよ』とBmaps(段差や多目的トイレ、公衆Wi-Fiなどの情報を共有する地図サービス)などに発信するだけで社会貢献になるのです」

Bmapsの投稿画面

Bmapsの投稿画面

垣内さんはリオと平昌のパラリンピックを視察した。

「リオのバリアフリーは不十分でしたが、みんなが声をかけてくれて、困っていないと言えば放っておいてくれる適度な距離感もあった。リオと比べると平昌の環境は整っていましたが、困っている時にボランティアや街の人から声をかけられることはほぼなかった。リオのような陽気な国民性というより、日本は平昌と同じ対応になってしまう可能性が高い。2020は施設やシステムに甘えることなく、困っている人を見かけたら積極的に声をかけていかないと『冷たい国だったね』と思われかねない」

「日本では10人に1人が東京にいる。人口の多さは価値です。人が多ければ、手を差し伸べられる人も、情報を集めて発信できる人もたくさんいる。2020年に向けて、1人1人ができることを、ひとつひとつやっていきましょう。後になって『2020がきっかけでみんなの意識が変わった』と言われるようになって欲しいと僕は願っています」

ユニバーサルマナー検定 http://www.universal-manners.jp/

(2018年6月26日FNN PRIMEより転載)

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