24時間体制の職場での時短勤務は「申し訳ない」ことなの? Yahoo!ニュース社員の本音を聞いてみた【ニュース×働く】

「良い意味で、"主張"するようになった」

「ニュース」に関わる仕事は、職種や媒体・サービスを問わず24時間365日何が起こるかわからない世界。当ブログでは、Yahoo!ニュースの中の人や、「ニュース」に関わる業界の人などの声を通じて「"ニュース"とともに働くということ」について探る連載企画【ニュース×働く】をはじめます。

※当ブログや連載の背景については以下の記事をご参考下さい。

王者Yahoo!ニュースは、なぜ自社メディアを始める必要があったのか(サイボウズ式)

第1回目のテーマは「時短勤務」。まずは社内事情から......ということで、Yahoo!ニュースで働く育児短時間勤務者に話を聞いてみました。(聞き手/Yahoo!ニュース編集担当・井上芙優)

※この記事は2015年2月5日に配信された記事です。

「良い意味で、"主張"するようになった」

井上 私はもともと報道機関の記者で、約2年半前にヤフーに転職したのですが、入社してまず驚いたのが子育て社員の多さ(※2013年度の産休・育休後の復職率は93.5%)でした。特にニュースは24時間対応を求められるサービスですし、なんとなく「みんな100%仕事優先で働いているのかな」というイメージを抱いていたので......。皆さんは限られた時間でどんな風に業務をやりくりしてるんですか?

深澤綾(企画部アナリシス。25歳で第1子、27歳で第2子を出産) 育休から復帰した当時はエンジニアだったのですが、エンジニアはスタートダッシュが遅いタイプが多い感じで(笑)、復帰後はその感覚で仕事を続けていたら子どものお迎えの時間までに仕事を切り上げられなくなってしまうことに気づいて、今は「前に前に」と予測して効率よく仕事を進められるようになりました。自分のお尻をたたくようにしています(笑)。私は小学生と4歳の息子がいるのですが、第1子の時から第2子のあいだに会社の制度も進んでいる気がします。

松井直(企画部アナリシス。2013年5月、29歳の時に第1子を出産) 私は良い意味で「主張」するようになりました。仕事の優先度も大事にしながら、一方で、自分のやりたいことも仕事の中に入れ込んでいかないとただ忙殺されていくだけので......。限られた時間で入れ込めるように頭を使うようになりました。仕事に対する姿勢は前向きになったような気がします。

A(匿名希望)(パートナー開発部。35歳の時に第1子を出産、2013年4月に育休から復帰) 私はYahoo!ニュースに配信をいただいている媒体社の方々とお会いする業務が多いのですが、出先から直帰して子どものお迎えにいったり、アポのスケジュールにあわせて育児家事をやりくりするように心がけてますね。あとは夫と分担して週一は夜を自由に使える日をつくって、飲みに行ったり仕事にあてたりしています。時間が限られているため(復帰後は)効率が上がったので、出産前に今のような働き方ができていたらもっといい働き方が出来ていたのに、と今は思いますね(笑)。

佐藤真希(編集部リーダー。2010年2月の33歳の時、第1子を出産) 私の所属するニュース編集部は24時間体制でシフトを組んでいるため、会社の制度や周囲の人、家族に助けてもらってなんとかやりくりしています。時短勤務でシフトから基本は外してもらっていますし、欠員カバーで土日の早朝に出勤したり、というときは家族が子供の面倒をみてくれています。ただ、大きなニュースや突発的な対応があるときが多いので、自宅から対応できるように、PCはいつも持ち帰っています。

ITママ特有の子育て方法はある?ニュース教育する?

井上 ちなみに、ここにいる皆さんはIT企業社員かつニュースに関わる業務を担っているわけですが、何か特別な子育て方法とかありますか?

深澤 自分はスマホゲームにハマると、のめり込んでしまうのですが(笑)、子どもにはスマホやタブレットは極力与えてないですね。電車に長い時間乗る時などは映画1本ダウンロードして見せたり、ということはありますが。私は子どもの見えないところでスマホゲームをしています(笑)。

佐藤 Yahoo!ニュースのスタッフだから子どももニュースを見せるようにしたり、特別なことはしていないですね。自分自身は日ごろのニュースを追うのも大事な仕事の一つなのですが子どもといるときはできないので、基本は電車の中や、子どもが寝静まってからニュースを読みこんだりしています。日常的に家のテレビでニュースをつけることは多いです。子どもは不満そうにしていますが(苦笑)。

A 私は外食するときに子どもが騒がないように、子ども向けアプリを活用したりしています。子どもって、数分で操作を覚えて使えるようになるので驚かされます。一方で、実際のおままごとをさせたりと、2次元と3次元のバランスはなるべく取るようにしています。

ワーママが、スーパーウーマンにしか見えないのですが

井上 佐藤さんはリーダー(管理職)も務められてますよね。皆さんに対しての印象といいますか、正直、スーパーウーマンにしか見えないんです。自分は今28歳で、つい最近結婚したのを機に今後のことを考えるようになったのですが......今までは自分が好きなように働いていればそれで生活は何とかなっていたのですが...これからは、子どもも産みたいけど仕事も続けたいし、でも夫も仕事が忙しいしどれだけ協力態勢がとれるのか、果たして自分に皆さんみたいな器用なことが出来るんだろうか、と。不安が募るばかりです。

A 生まれてみたら意外と何とかなっている、というのが正直な感想かもしれないです。私の所属しているチームは、お子さんのいるメンバーが多いので理解があって助かっています。男性社員も、お子さんが病気のときは看護で休まれてますし、「子どもが熱出した」というときは「早く帰りな」って送り出してくれます。それは本当にありがたいです。

佐藤 子育てはもちろん物理的に大変なところもあるけれど、過度に恐れることはないと思います。子育てに限らず、親の介護などを抱えている方もいらっしゃいますし、誰もが100%自分の時間を仕事に投入して自分のモチベーションも高くて悩みが全然なくて......という人のほうが少ないのでは。とはいえヤフーは比較的制度も風土も恵まれていると思います。制度そのものが機能しておらず苦労している友人の話などを聞くと、社会全体ではまだまだ対策が必要な部分もあるなと感じます。

松井 私はちょうど悩んでいるところで。どれが自分がいいライフスタイル、ワークスタイルなのかまだ手探りの状態ですね。日々、模索してます。「この時間に帰ると、こうなるんだ」とか、「これくらいの量の仕事をするとこれだけ疲れるのか」とか、まだ時短勤務を始めて半年なので、「あ、これは自分にとってヒットだな」みたいな感覚を模索している最中です。

井上 なるほど......。皆さんそれぞれ悩みながらやりくりして、子育てしているんですね。

「申し訳ない」を自分の中でどう乗り越えるか

井上 時短勤務で負い目を感じてしまうことなどはありますか?

佐藤 私の所属するニュース編集部はシフト勤務で夜勤もあるのですが、育休から復帰して時短勤務を始めた直後は、他のメンバーは夜勤をしているのに自分は入れない、ということにすごく負い目がありました。

A 私のチームはシフト勤務ではないですが、自分も周囲に対して負い目を感じる時期がありました。自分が時短勤務者だと知らなかった社内のメンバーに会議を午後5時に設定されてしまって、「すみません時短なんで...」と断るときは最初は本当に申し訳なくて。最近は「時短勤務でもちゃんと仕事ができてきた」という実感がわいてきたので、マイナスの方向に考えないようになりました。もちろん、ニュースは24時間稼働の世界ですが今は自分の周りのメンバーの理解があるので、夕方に仕事が急に降ってきたときも、代わりに仕事を引き取ってくれているので助かっています。

松井 「すみません」じゃなくて、「ありがとうございます」っていえるような関係性を互いに作ることが大事かなと思います。「すみません」って考えこんで言い出すと自分が辛くなる一方だし、どうしても時間は限られているので...。自分の中でバランスを取るというか、周りに自分がいてよかったと思えるようなアウトプットがだせていればそれでいいのかな、と前向きに思うようにしています。

「"時短"の肩書きに違和感も」

井上 社会的関心や公共性のあるニュースを幅広く世の中に伝えていくためには、さまざまなバックグラウンドや立場の人が職場にいたほうが健全なのかなと個人的には思っています。Yahoo!ニュースのスタッフは、子どもがいるいないに限らず様々な立場の人がいますが、あらためて、子育てをしながら働くことについて普段から感じていることはありますか。

松井 誤解を恐れずにいうと、私はそもそも「時短勤務者です」と紹介を受けることに違和感を感じているんです。自分のなかでは時短前も時短後も、仕事に対するモチベーションや、「やりたいこと」の軸はかわっていないはずなんだけど、「時短」という肩書きがつくことによって、周りの目はちょっと変わってくる。そこの違和感はありますね。もちろん周囲は協力的ですし、仕事のフォローもしてくれています。なので偏見とかそういうものではないけれど、何か言葉にはできない違和感を抱えていますね。

A それぞれが自分のおかれた環境で何ができるのか考えて、サービスが負っている使命を果たすことは出来ると思います。私の場合は35歳で子どもを生みましたが、ある程度自分の働き方が確立されたタイミングで生んだので、松井さんとか深澤さんとか若い世代はこれから考えることもたくさんあると思いますし、それぞれ生むタイミングでも思いや状況が違うかもしれないですね。

「女性」が注目される限りは等しくない?

佐藤 うまく言えないんですけど、「女性ならではの働き方」ばかりが特筆されてしまうのは、どこかいびつなのではと思います。個人的には、私は「女性ならではのニュース」とか「女性編集者が選んだ女性のための......」などにはあまり興味がわきません。ことさら男だから女だからと、ガチガチに考えすぎないほうが自然かなと。

井上 そうですね。「出産は女性しかできない」という性差はある一方、このインタビューの場を単純な「女子会」にはしたくない、というジレンマがあります。この連載企画自体も、今後、聞き手も話し手も含め、様々な立場や境遇の人に登場してもらえればと思っています。

佐藤 物理的に、臨月のときに夜勤は絶対無理だし、「出産」という面では男女等しくないのは自然のことだし、だからこそ女性側も、「こんなに大変だからわかってよ!」という一方通行のコミュニケーションではなくて、結局は、自分のおかれた環境でやりたいことを実現していくにはどうすればいいか、ということを考えることがシンプルかなと思っています。

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