謎のワード「996.ICU」が話題に 残業に苦しむIT社員たちが、過酷な労働実態を相次ぎ告発

「残業」を推奨する文化の出現も影響しているという

「996」という、日本では耳馴染みのないワードが中国のネットで話題になっている。過酷な残業に苦しむIT企業の社員などがこの騒動をきっかけに、各社の労働実態をネット上で相次いで告発している。

996.ICUのホームページ
996.ICUのホームページ
996.ICUのホームページより

■「996」とは?

「996」とは、中国のサラリーマン、特にIT企業でよく見られる就業スタイルを表した言葉。「午前9時に出勤し、夜9時に退勤する生活を週6日」送ることから、数字をとって「996」だ。

■社員たちが「ブラック企業リスト」

騒動の発端は3月末、匿名のプログラマーがネット上のプラットフォームで「996.ICU」というプロジェクトを立ち上げたことだ。名前は「996」の労働を続けていると「ICU(集中治療室)」に送られかねないことに由来している。

このプロジェクトは、4月10日時点で20万を超えるユーザーに支持されている。

プロジェクトには中国のIT企業社員とみられるユーザーたちから、過酷な労働環境を強いているとされる企業の情報が寄せられていて、それを元に「ブラック企業リスト」が作られている。

中には、5G通信で世界をリードしようとするファーウェイや、日本の若者に人気のTiktokをリリースしているBytedanceなど、世界的に知られているIT企業の名前も挙げられている。

更に「証拠」として午前3時に会社からタクシーを呼んだ記録や、社員が自殺したことを伝える個人ブログがリンク先として貼られているが、真偽は不明だ。

■背景には...日本の会社のような空気感

中国の国営放送、中国中央テレビ(CCTV)もこの騒動を報じている。それによると、IT企業間の競争が激しくなり、社員一人ひとりの業務量が増大していることが背景にあるという。

また、企業側も残業を受け入れない社員に対し自主的に退職するよう迫ったり、「若い人間には経験を与えている」などとして残業代を支払わなかったりするケースもあるとしている。

「残業する」こと自体を推奨する文化も一部で根付いているという。

■気まずさを感じず、さっさと帰ろう

このプロジェクトは中国のSNSにも飛び火し、「社会主義国家のはずなのに、なぜ庶民が搾取されているのか」とか「日本の今日が明日の中国と言われてきたが、残業をありがたがる文化がついに中国に出現した」などのコメントが書き込まれている。

「996.ICU」ではホームページで「労働法に照らし合わせれば、996で働く人は給料が2.275倍にならなければ割に合わない」と主張したうえで、賛同者には「午後6時になったら気まずさを感じずにとっとと帰りましょう」と呼びかけている。

ユニコーン企業(時価総額10億ドル以上の非上場企業)を数多く生み出すなど、IT分野の成長は、減速しつつある中国経済を支えていると言っても過言ではない。

しかし今回の騒動によって、急速な成長の足元でIT企業が労働者に過大な負担をかけ続けていたことが目に見える形となった。

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