アベノミクス:企業統治と資本市場の改革

アベノミクスでは、3次にわたって成長戦略が打ち出された。私見ではそのうち、最も本格的な構造改革の取り組みが行われたのが、第二次成長戦略だった。

アベノミクスでは、2013、2014、2015年と3次にわたって成長戦略が打ち出された。私見ではそのうち、最も本格的な構造改革の取り組みが行われたのが、2014年6月に閣議決定された第二次成長戦略だった。構造改革は一定の成果も挙げたが、課題も残された。ここではもっとも成果が挙がったといえる企業統治と資本市場の改革について振り返ってみよう。

なぜ企業統治と資本市場の改革が重要なのか。1970年代から80年代にかけて世界を席巻するかに見えた日本企業の競争力が、近年の世界競争の中で立ち後れる傾向が顕著になっているが、それはグローバル市場の激しい変化を敏感にとらえ、迅速に戦略を展開しえない企業の難点、また本来、活用できる資本が効率的かつ効果的に活用されないといった資本市場の欠陥など構造的弱点が背景にあるように思われる。

先進国企業を追うかつてのキャッチアップ段階では、日本企業は先進技術を迅速に吸収するために経営資源を企業内に凝集することが求められたが、先進国となりグローバル競争の先頭に立つべき現代では、そうした閉鎖性や集団制はかえって障碍になる。アベノミクスの成長戦略では、そうした構造的難点を克服するために、企業の開かれた意思決定と資本の活用を促進するために、以下のような改革を推進した。

(1)会社法改正による社外取締役の導入

2014年6月に会社法を改正し、企業は社外取締役を最低1人は導入すべしとした。義務化は見送られたが、しない場合はその理由を株主総会で説明しなくてはならないので、多くの企業が社外取締役を選任した。米欧先進企業では社外役員の役割が極めて大きく、開かれた戦略的意思決定ができるとされている。社外取締役の導入は、これまでの日本企業の閉鎖性を打破する手段と期待されている。

(2)ガバナンスコードの策定

成長戦略では、企業価値最大化のためにガバナンスコード(企業統治のための行動規範)を策定するよう提案し、金融庁と東京証券取引所が2015年6月の株主総会シーズンまでに企業が策定するよう指導することとした。これは企業経営の透明性、公正性を高め、経営資源の有効活用を促進すると期待されている。

(3)スチュアードシップコードの導入

これは、機関投資家が、投資先企業に対して経営改善要請など投資方針を表明することで、一般投資家も投資先企業をより理解し積極的に投資するよう誘導する英国生まれの取り組みである。日本ではこれまで常態だった"もの言わぬ株主"の文化を、積極投資の文化に変えることが期待されている。

(4)GPIFの運用方針の積極化

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は年金基金など約130兆円を運用する世界最大級の公的年金運用団体だが、これまで国債などリスクが少ないと思われた債権を中心に運用をしてきた。アベノミクスでは、よりハイリターンを期待しうる株式などの運用比率を高めるよう要請し、2015年から内外株式などリスク資産比率が半分ほどに高められた。

(5)JPX日経400インデックス

2014年1月に開発・導入された「JPX日経400インデックス」は、日本企業がROE向上の重要性をもっと認識し、ROEの向上に向けて企業戦略を見直して尽力すべしというアベノミクスの呼びかけに応える民間の仕組みだが、多くの企業がこのインデックスで評価されるよう資本政策などを変革した結果、それら企業のROEは短期間に飛躍的に高まった。

これら一連の改革は、日本企業に株式市場などを媒介してより積極的かつ効率的に資金を活用させる上で、ROEの向上など一定の成果を挙げた。資本政策で数字上引き上げられたROEを裏打ちする企業効率の真の向上が実行されるか、株式運用比率を高めたGPIFの運用ならびに管理体制は大丈夫か、など幾多の課題は残されるが、短期に可視的成果を挙げたという意味では、企業統治と資本市場の改革は、アベノミクスの成長戦略の中ではもっとも成功した例と言える。

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