提案力が求められるこれからのマンション管理業

マンション管理会社には、単なる経年劣化対策を超え、資産価値向上にむけた提案をもっとして欲しいものです。
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利用価値、資産価値を左右する維持管理

よく「マンションは管理を買え」と言われます。これは、マンションは建物・設備も重要だが、快適に住み続けるためには買った後の維持管理も同じように重視すべき、という意味です。

新築マンションを買う時に、あらかじめ管理の質を評価するのは難しいですが、中古マンションの管理ならチェックは容易です。

例えば、比較的新しいマンションにもかかわらず、エントランスや郵便ボックス、植栽など共用部が汚れていたり乱雑な感じがしたりするだけで、管理がおざなりになっていると思うはずです。注意喚起や禁止事項のビラがエントランスなど共用部にやたら多いとか、ゴミの出し方や駐輪場の整理整とん状態も気になるところです。

一方、古くても外壁や玄関、植栽などの手入れが行き届いているうえ、掲示板には住民の交流イベントのビラがいくつも貼ってあり、管理員さんや受付の方が気持ちよく挨拶してくれきびきびと働いている、そういった光景を目にするだけで、そのマンションに良い感じを持つのではないでしょうか。

これらは、マンション管理状況の評価ポイントとしてあながち的外れではありません。

空いた住戸がいつまでも売れない、管理費や修繕積立金の長期滞納者が多い、住民の入退去が頻繁にある、マンション内や近隣とのトラブルがあるなど、目視ではわからない管理面の問題の有無について、調査員をわざわざ雇って調べる人もいるようです。

新築マンションは買った途端に中古マンションになるわけですから、未来の買い手からのチェックを意識して維持管理をしっかりしていくことが、マンションの売りやすさ、貸しやすさに直結する、つまりマンションの資産価値を落ちにくくするということを理解しておきたいものです。

管理会社選びはコストより管理の質

雑誌のマンション特集には、「管理費は削減できる」という記事が必ずといっていいほど掲載されています。管理サービスが適切か、管理費が適正な範囲に納まっているのかについては、管理組合がマンション管理に精通していない場合、コンサルティング会社など外部の専門家の判断を仰ぐことが必要でしょう。

ただし、安さと質とのバランスを考えず、性悪説に基づいて相見積もりなどで一番コストの安い管理会社を選ぼうとすると、「安かろう、悪かろう」となって管理組合と管理会社の信頼関係が失われるリスクも高くなります。月々の管理費が安く管理の質も低いマンションが、資産価値の落ちやすいマンションであることは明らかです。

国土交通省のマンション総合調査をみると、管理費徴収額の妥当性について区分所有者の8割以上が「妥当」と考えており、「徴収しすぎ」と考えている区分所有者は1割しかいません。これを無関心な住民が多いと読み替えることもできますが、管理サービスの標準化と管理費の相場観形成が進んだ結果とも考えられます。

最近はマンション管理に関する情報も増えて住民の関心も高くなっており、不必要なサービスや法外な管理費は提示されにくくなっている可能性が高いからです。

これからのマンション管理では、建物・設備の維持管理だけなく、住民の高齢化対応、良好なコミュニティ育成支援、防災・危機管理対策、管理組合員への情報配信や総会投票へのICT(情報通信技術)活用、住民や所有者の多国籍化対応など、新たな課題が目白押しです。

もはや、管理組合の活動は本来の財産管理団体の枠を超えつつあり、管理業務を受託する会社は、時代の変化への適応力も含めて管理の中身や質が一層問われるようになっているのです。

トラブル対応も大事だが、管理会社はもっと提案を

「住宅はクレーム産業」といわれるように、マンション管理の現場では、細々したトラブルシューティング的な仕事が毎日発生します。また、前述したようにマンション管理上の新たな課題にも直面しています。

管理会社には、豊富な経験に裏打ちされたトラブル対応力は言うまでもなく、長期的な視点から管理組合のために積極的に提案していく力も求められていると思います。

例えば、大規模修繕における提案力です。

巨額の費用がかかる大規模修繕では、工事費の見積もりが一番安い会社が選ばれがちで、現在の管理会社やその関係会社が必ずしも指名されないことが少なくありません。しかし、そのマンションの管理状態を最も知りうる立場の会社が、価格だけでしか勝負できないのはもったいないことです。

大規模といっても修繕はしょせん修繕ですから、外壁などの補修や塗装、給排水管交換など通常の工事メニューだけでは、経年劣化による資産価値の低下度合いを小さくする効果しか期待できません。

最終的には費用との兼ね合いもあるでしょうが、修繕工事の専門会社には真似のできない、マンションの資産価値を引き上げ、生活利便性や快適性を高めるような魅力的な提案なら管理組合の心は大きく動くはずです。

例えば、窓ガラス交換による断熱性能引き上げ、太陽光発電装置の設置、耐震補強、排水溝・排水管増設などによるゲリラ豪雨対策、高齢者見守りシステムの導入、機械式駐車場の撤去とカーシェアリングシステムの導入、高圧一括受電による電気料金引き下げなどです。

マンション管理会社には、単なる経年劣化対策を超え、資産価値向上にむけた提案をもっとして欲しいものです。

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株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 不動産研究部長

(2014年9月22日「研究員の眼」より転載)

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