中央アフリカ共和国ザンガ・サンガ保護地域でゴリラの双子が誕生

ゴリラの人づけが続けられていた中央アフリカ共和国のザンガ・サンガ保護地域で、政情政変を乗り越え、野生では珍しい双子のゴリラの誕生が確認されました。

コンゴ盆地の熱帯ジャングルが広がる中央アフリカ共和国のザンガ・サンガ保護地域で、2016年1月末、野生のニシゴリラに双子の赤ちゃんが生まれたことが確認されました。この親子が生きる地域では、周辺の地域社会の持続可能な発展をめざすエコツーリズムの一環として、1997年から本格的なゴリラの人づけが続けられ、人気のスポットになってきました。野生では珍しい双子のゴリラの誕生は、政情不安を乗り越えて、野生生物の保全と地域の発展を両立させるこの取り組みにとって、平和の大切さを改めて実感する朗報 となりました。

アフリカ中部で一番新しい世界自然遺産での取り組み

カメルーン、コンゴ共和国、中央アフリカ共和国の3カ国の、国境沿いに分布する国立公園や保護区をひとまとめにした「サンガ多国間ランドスケープ」 。

サンガ河が肥沃な熱帯ジャングルと湿地帯を育み、マルミミゾウやゴリラ、チンパンジーといった稀少な動物たちの楽園でもあるこの場所では、豊かな生物多様性を守る取り組みが1990年代から続けられています。

2012年に、3カ国に連続する森林としては世界で初めて、ユネスコの世界自然遺産に登録されました。

このランドスケープは、WWFジャパンが資金的、技術的に支援してきた、カメルーン南東部のロベケ国立公園を含む、3カ国それぞれの3つの国立公園、計7,542平方キロの中核地域と、1万7,880平方キロにおよぶ周辺地域(バッファーゾーン)で構成されています。

このバッファーゾーンでは、地元のバントゥー族やバカ・ピグミー族の人々による伝統狩猟、農耕などの生業活動が行われているほか、主にヨーロッパに向けた木材の生産も盛んです。

環境や地域社会に配慮した木材生産の証である「FSC(Forest Stewardship Council(R):森林管理協議会)」の森林認証を取得している会社も多くあります。

求められる地域の持続可能な開発

こうした、FSC認証の取得などを通じた、生物多様性の保全と地域社会の持続可能な開発を両立する現場の努力は、非常に重要です。

ゾウなどの大型で長生きする哺乳類を保護するためには、生息地として十分な広さの森林の確保が欠かせない一方で、地域社会が主体となり、自然環境と共存していく暮らしの有り方を確立する必要があるためです。

海外からの観光客を対象とした「エコツーリズム」も、そうした取り組みの一つとして、アフリカ各地で長年にわたり行なわれ、一定の成果を上げててきました。

これは豊かな自然や野生生物の観察を目玉に、自然への十分な配慮をしつつ、その収益を野生生物保全や地域経済に還元するもので、地元の環境への意識を高めながら、新たな収入や仕事を生み出すことにもつながります。

これまで、 環境保全団体などはそのためのノウハウを地域に伝え、自立した取り組みを実現するためのサポートを行なってきました。

1960年代にルワンダの火山国立公園やタンザニアのタンガニーカ湖湖畔などで、研究のために始められたゴリラやチンパンジーの「人づけ(人を恐れないように慣らすこと)」も、1970年代末に入ると珍しい大型動物が観られるエコツーリズムに発展。

以来、地域コミュニティと現地政府、双方に収入を生む自然保護策として注目を集めています。

中部アフリカでのエコツーリズムのスタート

もちろん、こうした「人づけ」は、注意深く取り組む必要があります。

プロセスの途中で、警戒心を解いたオスゴリラと人間が不用意に近づき、思わぬ事故につながったり、あるいは感染症をうつし合ったりするリスクが考えられるためです。

それでも、人づけがうまく行った野生個体群は、ツーリズムの魅力となるため、地域コミュニティに「自分たちの利益=自然を守ろう」という動機をもたらし、保護の基盤を固める大きな力になります。

また、こうした地域では、訪れる観光客や研究者らのさまざまな「目」が絶えず配られることによって、密猟者の侵入を阻むなど、自然保護にも直接的な貢献をしてきました。

今では過去の教訓を活かし、IUCN(国際自然保護連合)でもエコツーリズム・ガイドラインなどを作成し、準拠して活動を行なうことで、さらなる保護に結びつける体制が整いつつあります。

しかし、豊かな緑に恵まれ、もっとも多くの類人猿が分布するアフリカ中部の国々では、長引く政情不安や深いジャングルがエコツーリズムの振興を妨げてきました。

ゴリラの人づけが進みはじめたのも、ようやく1990年代も後半に入ってからのことです。

ザンガ・サンガでのゴリラの人づけ

サンガ多国間ランドスケープの中で、最初に大型類人猿の人づけの試みが行なわれたのは、中央アフリカ共和国南西部ザンガ・サンガ保護地域でした。

ここでは、WWFが1997年からゴリラ・エコツーリズムを目指した人づけを開始。

森に生きる先住民バカ・ピグミー族の人々にトラッカー(追跡人)として協力してもらい、実に5年の歳月をかけて人づけしたゴリラ・グループの一般公開にこぎ着けました。

この人づけの取り組みは、中央アフリカ共和国政府とWWFが共同で運営する「霊長類人づけプログラム」の一環として行なわれたもので、ゴリラの研究およびエコツーリズムと併せて進められてきました。

そして、ゴリラ・グループの人づけの成功は、エコツーリズム実現の大きなカギとなりました。

ザンガ・サンガ保護地域で現在、観光客に公開されているのは、Makumbaと名付けられたオスが率いる12頭のグループで、ベースキャンプのあるバイホク(Bai Hokou)から南東に、20~25平方キロ広がる森を利用して暮らしています。

このグループの人づけが始まったのは2000年ですが、今では年間400人近い観光客が、Makumbaたちに会うためにザンガ・サンガを訪れるようになりました。

その結果、地元に雇用が創出されたほか、ザンガ・サンガ保護地域を管理・監督する中央アフリカ共和国の森林省も観光収入を獲得。

さらに、プロジェクトでは継続したパトロール活動のために80人以上の監視員(エコガード)を雇い上げ、地域コミュニティに対しても、バッファーゾーンでの自然資源の持続可能な利用への支援を続けています。

この取り組みは今や、ゴリラの保護とその森の保全に地域の人々が主体的に参加する大きな機会となり、保護管理の推進に無くてはならない計画の柱となったのです。

確認された双子のゴリラの誕生

そして、2016年1月末にこのバイホクで、このグループのメスMaluiが双子のアカンボウを抱いているのが、初めて確認されました。

WWFアフリカ大型類人猿プログラムのリーダーで、ザンガ・サンガ保護地域で8年以上活動した経験のある、デイビッド・グリアは言います。

「この双子は、ザンガ・サンガのゴリラ・エコツーリズムの歴史の中で、最初の記録です。過去16年、ここのゴリラたちを人づけし、保護するために奮闘してきたすべての人々にとって、この明るいニュースは苦労が報われる素晴らしい瞬間でした」

「この双子の誕生は、ザンガ・サンガの保護がうまく行って、ゴリラたちが安心して暮らしている証と言えるでしょう。しかし中部アフリカ地域全体を見渡してみると、ゴリラたちは密猟や感染症、そして生息地の減少といった深刻な脅威に、まださらされ続けています。

WWFはこの状況を改善するために、政府やパートナーと協力し、彼らの生息域全体に保護の手が届くよう活動を続けているのです」

コンゴ盆地の東側に分布するヒガシゴリラでは、過去に何回か双子の誕生が確認されていますが、ニシゴリラでは最近まで記録がありませんでした。

2015年、同じサンガ多国間ランドスケープに含まれる、コンゴ共和国北部のベリバイ(Mbeli Bai)で双子のゴリラが生まれ、今のところ二人とも無事に育っています。

ザンガ・サンガのMaluiのアカンボウたちも順調に育ち、1年後にも変わらぬ元気な姿を観ることができるよう、現場スタッフの努力が続きます。

自然と地域社会を脅かす問題との戦い

アフリカ中部の国々では2012年 ごろから、高度に武装した国際密猟集団が暗躍し、象牙を狙ってゾウの多い深いジャングルに入り込むようになりました。

アジア諸国の経済発展に伴って象牙の需要がうなぎ上りに増え、金よりも高値で取引されるようになったため、国際的な犯罪集団が密猟に手を染めはじめたからだとされています。

カメルーンでは北部のブバ・ンジダ(Bouba N'Djida)国立公園で、2012年初めに450頭ともいわれるゾウの大規模な密猟が起こって以来、政府は国境警備に軍を派遣。

また国境に近い国立公園に配属するレンジャーの数を倍増するなどの対策を取ってきました。

これらの地域はいずれも、自動小銃を携え、GPSや衛星電話、四輪駆動車などを駆使して侵入してくる犯罪集団との戦いの最前線です。

サンガ多国間ランドスケープでも、自然遺産に登録されたことを受け3国の政府森林省が連携を強化。国境でもあるサンガ河の共同パトロールなどに力を入れてきました。

しかし、中央アフリカ共和国で2013年3月に勃発したクーデターによって、事態は一変。

5月には、混乱に乗じて東のスーダンから入り込んだ武装密猟団が、ザンガ・サンガ保護地域でゾウの密猟に及びました。

この後も首都のバンギでは政治的混乱が続いたため、遠隔の国境地帯にあたるザンガ・サンガ保護地域には保護の手が回らなくなり、一時はさらなる密猟の発生も懸念されました。

しかし、サンガ多国間ランドスケープに確立されていた、国を越えた協力体制のおかげで、その危機は回避されました。

密猟団の動きはさまざまな団体間の情報共有によって事前に把握され、WWFカメルーンが急遽派遣したスタッフや、地元のレンジャーたちの決死の努力が、ザンガ・サンガで再び大規模な密猟が起きる事態を防いだのです。

そして、2014年7月、ザンガ・サンガ保護地域では、エコツアーの受け入れを再開することができました。

今ではクーデター前と同じように、ゴリラのグループも平和な時を楽しんでいます。

今回の双子の誕生は、それを象徴する大きな出来事でした。

森とゴリラを守るために欠かせない、平和と安定。それに向けた地域コミュニティと行政との協働を多国間でも繋いでいく。

そんな役割を担うWWFのような団体の取り組みは、これからも続いてゆきます。

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