コロナシフト
2020年08月19日 07時37分 JST | 更新 2020年08月19日 11時50分 JST

新型コロナでイライラするのは「自分だけが我慢している」と思うから。精神科医は“コミュニケーションの欠落“を指摘

「自分は一生懸命我慢しているのに、周りはラクをしていると勝手に想像し、感情が高ぶっている人が増えているのではないか」

Yutaka Ohno
大野裕さん

新型コロナの感染拡大の終わりが見えず、ストレスを感じる日々が続いている。イライラが高まってSNSに激しい言葉を書き込んだり、「自粛警察」になったりする人もいる。

「自分が一生懸命我慢しているのに、周りはラクをしていると想像し、感情が高ぶっている人が増えているのではないか」

認知療法の分野で国際的にも活躍する精神科医の大野裕さんは、コロナ禍のストレスについてそう分析する。

大野さんは、様々な悩みにAIが答えるアプリの開発も監修。テクノロジーの力も借りながら、新型コロナの感染拡大で生まれるストレスとうまく付き合える社会のあり方を探っている。

Kim Kyung Hoon / reuters
 August 17, 2020. REUTERS/Kim Kyung-Hoon TPX IMAGES OF THE DAY

なぜ自粛警察は生まれるのか

大野さんは、うつ病やストレスなどの治療に詳しく、認知行動療法研修開発センター理事長や国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター顧問も務める。

「怒りは『周りをコントロールしたい』という気持ちから発生することがあります。例えば、自分が我慢しているときに『他の人も同じように耐えてほしい』と考え、それでも相手が思い通りに動いてくれないと、怒りが湧いてくることもあるのです」 

大野さんがその例としてあげるのが一部の「自粛警察」だ。

緊急事態宣言中に営業する飲食店に文句を行ったり、県外から帰省などで来る人を非難したりする。

動機は様々だと思われるが、大野さんは次のように背景の一つを推測する。

「自粛警察になってしまう人は、『社会のためにやっている』という意識を元に行動している可能性があります。コロナの感染防止のことを真剣に考えていて、おそらくご自身も消毒を徹底したり外出自粛をしたり努力をされているのでしょう」 

 

「自分だけが頑張っている、他の人はやっていないのではないか、みんな分かってないのではないかーー。そしてそんな『何もわかってない人』に自分が注意することで、彼ら/彼女らの行動を変えて、感染拡大を防げるのではないかという思いがあるのではないでしょうか」

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感染防止策をとる店舗 Japan May 28, 2020. REUTERS/Kim Kyung-Hoon

 他の人も自分と同じように悩んでいる。まずはそこから考えてみる

ところで、と大野さんは問題提起をするーーそもそも自粛警察になる人たちの怒りの矛先である他人が本当に「何もわかっていない人」なのだろうか?

営業をする飲食店の中には、消毒液や感染防止のアクリル板を置いたり、換気を進めたり、さまざまな工夫を重ねているところがある。

感染を防ぐことも大事だが、店をずっと閉めたままにしてしまうと、失業や倒産など「別の深刻な問題」が発生するからだ。

また、帰省や外出をする人の動機も様々であるはずだ。年老いた両親の見舞いに行くために実家に戻らないといけない、など止むを得ぬ事情もあるだろう。

 大野さんはこう言う。

「根本には、コミュニケーションの欠落があると思います。例えば丁寧に相手の立場を理解して、それでも行動を変えて欲しいと思って、『こうしたらどうでしょうか』と言うならわかりますよね。そうではなくて、パッと自分の考えで思い込んで感情的に怒る人がコロナ禍の社会で見られます」 

 

「想像の中で相手の行動の意味を判断しちゃうんですよね。コロナで、苦しんだり迷ったりしていない人なんていないですよね。みんなも自分と同じぐらい悩んでいると考えることが、まずは大事なのではないでしょうか」

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感染防止などを呼びかける小池百合子・東京都知事(Photo by Kazuhiro NOGI / AFP) (Photo by KAZUHIRO NOGI/AFP via Getty Images)

「理解し合う」→イライラを防ぐ

「職場のパワーハラスメントにおいても共通した構図があるかもしれません。パワハラには様々な形態がありますが、中には上司が『お前のことを指導してやる』という意識で行うものもあります」

 

「部下の思いを聞かず、『どうせお前は分かっていない』と一方的に理不尽な『指導』をしてしまう、このような上司にも、自粛警察と似たような意識があるのかもしれません」

大野さんは、それぞれが、自分が置かれた状況を「発信」し、お互いに耳を傾けることも重要だという。

「例えばお店は、自分たちがやっている感染防止対策をお店の外に張り出したり、SNSで発信したり。感覚過敏など様々な事情でマスクをつけられない人が『マスクをつけられません』というカードを身につける動きもありました。もちろんそれが難しい場合もあるので、強制するのではなく、可能な範囲で行うことが大事ですが、双方に情報を発信しあって、理解することが、『イライラ』を防ぐきっかけになり得ます」

 AIが悩み相談を聞く時代がやってくる

大野さんは新型コロナの感染が広まりだした5月中旬、あるアプリの無料公開に踏み切った。AIが悩みやストレスの原因を聞くチャットボットサービス「こころコンディショナー」。大野さん自身が監修した。

このアプリは、年齢や性別などを記入した上で、「言いたいことを好きなだけ書いてください」「今日はどうされましたか」などのAIの質問や呼びかけに答えていくものだ。「深呼吸をしてください」とAIがアドバイスをくれることもある。

こころコンディショナー
こころコンディショナー

 新型コロナも含めて日常の様々なストレスを感じたときに出てくる「極端な考え」を浮かび上がらせ、話を聞いてもらうことで気持ちを軽くすることを狙っているという。

「私たち精神科医は、どんな悩みでも『即、解決できる』と思われることがありますが、それは誤解です。実際は、相談しているときに、相談者は自分で解決策を考えたり、解決のための方向感がわかっていたりすることも多いのです。それをうまく引き出す流れを作れたら、と考えています」

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「あまり期待しなくていい」がAIの魅力

「こころコンディショナー」は、聞き役となるのが人ではなく、機械だという点も利点だという。

 

こころコンディショナー
AIが「話しやすい雰囲気づくり」を行う

 

「新型コロナのような強いストレスを感じる状況下では、機械の方が役立つ場合もあります。人に相談すると、期待が大きい分、思った通りの答えを得られないとガッカリすることもありますよね。機械だと『仕方ないか』という気持ちになれますし、人には言えない悩みを吐露しやすい面もあるのではないでしょうか」 

 

「ただ、AIは文脈を読んで対応するのは苦手。文脈を読んで解決策を提示するというより、その方がもっている解決をうまく引き出せるようにするためのアプリです。コロナの感染拡大が続く中、人間とテクノロジーの力をうまく生かして、社会のストレスを減らして行きたい」

Yutaka Ohno
大野裕さん