里親になった男性カップルが子どもに伝えたいこと。「あなた自身が最高の存在なんだよ」

「差別することなく助け合いたいと思ってもらえる家庭を作りたい」。2月に養育里親に認定された愛知の同性カップルが、気持ちを綴ってくれました

2020年2月、愛知県に住む30代の男性カップルが養育里親に認定された。

同性カップルが養育里親に認定されるのは、2016年の大阪市に続いて2例目だと考えられている。

愛知に住むカップルは認定について、「よかったなあという気持ち。子ども委託された時には、責任をしっかり持って迎えたい」と、メールインタビューで里親になる気持ちを綴ってくれた。

イメージ画像
Hinterhaus Productions via Getty Images
イメージ画像

子どもが大好きだったふたり。子育てをしたいと願っていた

養育里親に認定されたのは、愛知県内で暮らす藤村涼太さんと町田智樹さんだ(ともに仮名)。

藤村さんと町田さんが里親になりたいと思うようになったのは、2年ほど前。

元々子どもが大好きだったこともあり、たとえ自分たちで産めなくても、子育てしたいという願いを持っていた。

海外、特に同性同士の結婚が認められている国では、同性カップルや同性愛の人たちによる子育ては珍しくなくなりつつある

歌手のエルトン・ジョンさんは2010年から同性パートナーと子育てをしている。最近では、CNNアンカーのアンダーソン・クーパーさんが、代理母を通して親になったことを報告した。

そういった海外の同性カップルの子育てを知っていたことに加えて、2016年に大阪で同性カップルが養育里親に認定され子どもを委託されたことが、二人にとって希望になった。

「海外の事例や大阪のカップルのことを知り、私たちも里親に申請したいと思うようになりました」と藤村さんは振り返る。

(Instagram:カナダで子育てをしているBJ・バローネさんとフランキー・ネルソンさん、そして息子のマイロさんの家族。SNSには、海外で子育てする同性カップルの写真がたくさん投稿されている)

「一緒に乗り越えていきましょう」

里親になりたいと思った藤村さんと町田さんは、地元自治体のウェブサイトで里親制度説明会を調べ、参加することにした。

説明会に行く前に、念のため「同性カップルでも良いか」をメールで確認し、さらに説明会の後にもう一度、同性カップルも里親申請できるのかを児童相談所の担当者に尋ねた。

担当者の答えは「NGではないのですが、これまで同性カップルが里親になった事例がないので、今日の説明会の内容を含めてもう一度よく考えてみてください。その上で、本当に里親になりたいのであれば改めて児相まで来てください」というものだった。

「里親になりたい」という気持ちに変わりはなかった藤村さんと町田さんは、後日改めて児相に出向いた。そして里親になりたい気持ちを、もう一度伝えた。

二人の気持ちを聞いた担当者は「上司の判断も含めて検討します」とした上で、こう答えたという。

「事例がないため問題が起きることも考えられますが、それは一緒に乗り越えていけばよいので、頑張りましょう」

「差別することなく助け合っていきたい」と思ってもらえる家庭にしたい

児相の担当者は、初回の相談から最後までずっと良心的で真摯な対応をしてくれた、と藤村さんは振り返る。

「実習や研修のときなども自然に接して下さいました。特段の配慮は私たちにとって不要でしたが、それでも『何かあれば言ってくださいね』といったホスピタリティのある対応でした」

里親研修では、里親制度についての知識や理解だけでなく「親となることの責任」を学び、子どもを中心にすることのが何より大切だと改めて感じた、藤村さんは話す。

「里親研修を受けて、里親は子どもが欲しい大人のための制度ではなく、家庭環境を子どもに提供する子どものための制度であることを感じました。どれだけ里子として迎えた子に愛情をもって接するかが、重要だと感じています」

町田さんも「研修を通じて、制度の意味や子育ての様々な観点を学び、子どもが来た時には責任をしっかりもって迎えたいと思いました」と気持ちを語る。

ふたりは研修を無事に終了し、念願の養育里親に認定された。

認定にほっとしつつ、これはスタート地点だとふたりは感じている。

そして迎える子どもたちのために、どんな家庭を提供できるかを考えている、と藤村さんは述べる。

「迎えた子どもに『自分も大人になったら幸せな家庭を築きたい』『差別することなく色んな人と助け合っていきたい』と思ってもらえるような家庭にしたいと考えています」

「子どもや若い世代が、幸せな家庭を築きたい。描く幸せは人それぞれ違いますが、助け合って生きていく精神を養うことが必要だと感じています」

2019年12月に就任したフィンランドのサンナ・マリン首相は、同性の両親に育てられた
Thierry Monasse via Getty Images
2019年12月に就任したフィンランドのサンナ・マリン首相は、同性の両親に育てられた

今、里親が必要とされている

里親制度は、虐待や経済的な問題など、何らかの理由で生みの親と暮らすことのできない子どもたちを、家庭に迎える制度だ。

その中で、藤村さんと町田さんが認定された養育里親は、家庭での養育が困難になった子どもや家族を失った乳幼児や未成年を一時的に自分の家庭に引き取って育てる。

預かる子どもは、乳幼児から原則として18歳未満の子までだが、20歳未満まで延長も可能。里親期間が終わった後に交流が続く人たちも、少なくない。

日本では現在、何らかの理由で親と暮らすことのできない子どもの数は約4万5000人いて、その8割が児童養護施設や乳児院などで暮らしている。

しかし、家庭環境で育つことが子どもの成長に良い影響を与えるということが様々な研究からわかっている

国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗氏は、家庭環境で育つことの大切さを次のように話す。

「子ども、特に赤ちゃんや未就学児にとって、家庭というのは安全基地であり、人間の基礎を作る場所です。様々な理由から親が育てられない子どもたちには、家庭を提供する必要があるのです」

国も、里親などの家庭養護を受ける子どもを増やそうとしている。しかし、里親制度がまだ社会に浸透していない、委託できる里親の数が足りていないといった理由から、里親や特別養子縁組へのシフトが進んでいないのが現状だ。

同性カップルが子育てしやすい環境を作ることが必要

藤村さんと町田さんたちのような同性カップルの里親認定は、里親を増やすことにつながる可能性がある。

アメリカ・カリフォルニア大学ウィリアムズ・インスティチュートの2018年の調査では、同性カップルが子どもを養子縁組もしくは里親になる割合は、異性カップルの7倍だった。

レインボーフラッグを振る子どもたち
Cathal McNaughton / Reuters
レインボーフラッグを振る子どもたち

一方で、同性カップルの子育ての前に立ちはだかるのが、根深い偏見だ。すでに同性婚ができるアメリカでも、「子どもたちを守るため」と主張して、同性婚に反対した人たちもいた。

しかし、オレゴン大学教授らによる2015年の研究では、同性カップルに育てられた子どもたちは、心理面や行動面、成績などで異性カップルに育てられた子どもたちとの違いはなかった

アメリカ養子縁組センター所長のアダム・パートマンさんは、ハフポストUS版への寄稿で、「子どもたちは一時的な児童養護施設で暮らすよりも、愛にあふれる家庭に育つことが心身の健康にとって大切」と語る。

「養子にしたいと望むLGBTの大人たちは多く、近年増加しています。これは、里親となる可能性のある家庭を著しく増加させることであり、家族を必要とする子どもたちにとっては希望の光となります」

同性カップルが子育てしやすい、そして同性カップルに育てられる子どもたちが生きていきやい社会を作るためには、同性同士が結婚ができるようにすることも必要だ。

結婚できない状態では、カップルの1人が親権を持てない、病院での緊急事態に家族として扱ってもらえないなどの問題が生じる。また、結婚できないままでは、同性カップルに対する偏見も無くならない。

海外ではすでに27の国や地域で同性婚が認められている。日本でも結婚できるようになれば、養育里親だけではなく、養子縁組里親も可能になる。

養子縁組里親は特別養子縁組を前提にした里親だ。特別養子縁組できれば、生みの親が育てられない環境にいる子どもたちと法律的な家族になり、永続する家庭を提供できるようにもなる。

そのためにも、国は同性婚を実現させて欲しいと藤村さんたちは訴える。

「同性婚が認められることで、養子縁組里親の選択肢も選べますし、戸籍上の家族にもなれるので愛情を持って育てた子どもに遺産を残すこともできます。国には行政に任せきりにせず早く対応して欲しいと思っています」

将来自分たちの家庭に子どもを委託された時には、こんなメッセージを伝えたいと藤村さんたちは考えている。

「子どもには、『生まれてきてくれてありがとう。あなたは私たちにとって最高の宝ものであり、あなた自身が最高の存在なのだから自分に自信をもって生きてほしい』と願いながら、子育てをしていきたいなぁと思います」

2020年、世界的に流行した新型コロナウイルスは、LGBTQコミュニティにも大きな影響を与えています。「東京レインボープライド」を始めとした各地のパレードはキャンセルや延期になり、仲間たちと会いに行っていた店も今や集まることができなくなりました。しかし、当事者やアライの発信は止まりません。場所はオンラインに移り、ライブ配信や新しい出会いが起きています。

「私たちはここにいる」――その声が消えることはありません。たとえ「いつもの場所」が無くなっても、SNSやビデオチャットでつながりあい、画面の向こうにいる相手に思いを馳せるはずです。私たちは、オンライン空間が虹色に染まるのを目にするでしょう。

「私たちはここにいる 2020」特集ページはこちら。