あの人のことば
2019年04月29日 12時03分 JST

「息子と週末だけ過ごす生活軸が『私という母親』には合っている」マンガ家・鳥飼茜さんがたどり着いた場所

男女間の分かり合えなさを描き続けるマンガ家、鳥飼茜さん。「わが子の父親」と「私の夫」、2人の男性が存在する家族のかたちについて、話を聞いた。

KOOMI KIM/金 玖美

『おんなのいえ』『先生の白い嘘』などで男女間の分かり合えなさを描き続けるマンガ家、鳥飼茜さん。小学5年生の息子さんを育てる母でもある。お子さんが2歳のときに離婚し、シングルマザーを経て、2018年9月にマンガ家の浅野いにおさんと再婚した。

1年半の交際を経ての浅野さんのプロポーズの言葉は、「自分がこの先いつ死んでも財産整理を頼めるように」と規格外かつ型破り。鳥飼さんも、「周囲の母親基準に合わせず自分軸で生きている自由さ」がとても魅力だ。

恋人だった2人の結婚に至るまでのいきさつ、子育てをするシングルマザーとして、作家として、恋愛する女性として揺れる想いが、日記『漫画みたいな恋ください』(筑摩書房)に細やかにつづられている。

現在は、夫である浅野さんと共同名義で購入した“新居”で、鳥飼さんがほぼ一人暮らしをしている(!)。執着されることを嫌うという夫は、「信頼があるんだから、有事のとき以外はどこで誰と何をしていようが構わないでほしい」と週に一度しか家に帰らない。

10歳になる息子さんは、父親である前夫と平日5日間生活し、週末になると鳥飼さんの暮らす家にやってくる。鳥飼さんが営む家族形態は、シングルマザーからの再婚という一般的な事例にもまったく収まっていないところがある。

鳥飼さんにとっての家族とは。「本当に、自信を持って母性がない!」と明るく言ってしまえる母としての思いも語ってくれた。

KOOMI KIM/金 玖美

息子は平日父親と暮らし、週末2日を母親と過ごす

━━浅野さんと再婚同士で結婚されて約8カ月。生活はどんなものですか?

浅野さんとの関係は、『漫画みたいな恋ください』で書いた、恋人として会って過ごしていたときの間柄とほとんど変わっていません。「旦那さんがほぼ週に1回しか家に帰ってこない」と人に話すと驚かれます。「ありえない!夫婦でしょう?」「一緒に新居も買ったのに?」と。

“新居”には、愛の巣的なニュアンスもあるからか、相当な数の人が毎回同じ反応をしますね。

再婚して大きく変わったのは、私の生活から子どもがいなくなったこと。10歳の息子は今、前夫と暮らす生活に軸を移しました。

子どもが2歳のときに離婚して、昨年までは平日を私と一緒に暮らし、土日や休日になると父親と過ごすという生活を続けてきました。それを見直し、今は週末に私の家にやってくる形になりました。

再婚を決めたタイミングで、前夫と私と息子の3人で話し合いました。息子がどうしたいかが第一にありました。といっても、10歳の子どもが自分で決めることは簡単なことではなくて。「お母さんとお父さんとどっちと過ごしたい?」とそのままの事実を聞いても、「どっちが好き?」と聞こえてしまうようで。

息子は、心情的な部分よりも、身近な環境を変えずに済む選択をしたようでした。父親の家にいても、母親の家にいても、平日は学校に通わなきゃいけないこと。彼自身の事情や都合でものを考えたとき、父親と平日を暮らすほうが学校を移らなくていい。小学校の間は少なくともお父さんのところにいたい。そんなことを言いました。

父親である前夫の意向も大きいです。子どもと過ごせるのならば、いれるだけ一緒にいたい想いが前夫にはありました。そもそも、私たちは揉めて離婚したわけではありません。子どものことはどちらもイーブンの意識でいたつもりでしたが、前夫には遠慮のようなものがあったことを再婚する少し前に知りました。

彼(前夫)は、私の再婚によって、事情次第でわが子と今のように会えなくなるかもしれない可能性をずっと想定しながら息子と付き合っていたと。それはとてもつらいことだったと。これまでの心情を聞いたんです。

前夫の苦しみに、まったく思い至れていませんでした。土日に彼が子どもを見るのは、父親としての義務感からだと決めつけていました。

というのは、私自身が子育てをそう捉えていたから。息子が生まれてから10年間、「やらなきゃいけないこと」として、ちょっとネガティブな気持ちがありました。子に対してたくさん怒ってしまっていましたし…。

子どもをもっと見たい父親と、ちょっとお休みしたい母親がいるのならば、試しにひっくり返してみてもいいのかなと。関係は一時的なものでまた入れ替えてもいいんじゃないか。そんな選択に至りました。

KOOMI KIM/金 玖美

母性愛の形でなく、息子と向き合えるようになった

━━鳥飼さん自身は、週2日お子さんと暮らす生活をどう受け止めたのでしょうか。

どんな理由であれ、父親の家に日常生活を移すと子どもが決めたあとは、しばらく放心状態でした。10歳まで私が見ていたにもかかわらず、息子はその延長を選ばなかった。私との暮らしが不満だったからこそ離れたかったのかとか、母親が子を手放す状態がどういうことなのかと、母としての罪悪感も含めていろいろ考えました。

ただ、今は私という母親にはこれがよかったと思っています。

本当に私は、自信を持って母性がない。か弱き者に対する絶対的な愛情の注ぎ方がわからないというか。自分がいないと生存が危機的状況になる存在が怖い。もちろん、わが子には元気でいてほしいんですよ。

子どもと一緒の生活は、保育園や学校が絡んでいる分、自分が母親という役割をある程度遂行していなくちゃいけない強制的な何かに追われているようなもの。ご飯作って食べさせて、お風呂入って、ゲームの時間はここまでだよと言って、宿題確認して、寝かせて、朝また学校に送り出すといった義務。息子をかわいいと思いたいのに心の底から思えないことに葛藤もあったし、できない自分にものすごい焦燥感がありました。

とくに存在自体が愛くるしい赤ちゃん~幼児の時期を過ぎて、小学3、4年の頃からですね。「宿題した?」と聞いて、「した」とウソをつくなど、親の言うことを聞かない部分ばかり目についてイラついてしまって(笑)。

平日一緒にいない今は、土曜に前夫の家に車で迎えに行き、スーパーで買い物して、食事して…と何にも強いられない時間です。2人で過ごす無駄な時間でしかないから、いろんな話を息子とするようになりました。

この間は、息子が最近毎晩見るという夢について教えてくれて。内容がすごく面白かったから「小説にしたら?」という話から始まり、電車が苦手と言うので「電車に乗らない人生を送ることを目指すなら、それなりの努力がいるよ?」とか。息子の興味や関心に、「お母さんはこう思うよ」と突っ込んだ会話が初めてできるようになったんです。

愛とか母性愛とかの形ではないけれど、人間同士としてつき合えるようになりました。母子関係における、お世話する側とされる側という、ある種の主従関係が向いていなかったのでしょうね。母親である意識がなるべく向かない生活軸に移したことで気づけました。

━━では、今は息子さんの親権は父親にあるのですか?

親権にこだわったことがないんです。私も前夫も、子どもを養育する権利がどちらにあるかを決めておくことに重要性を感じていません。子どもが大きくなるまで、なったあとも、父親は前夫で母親は私ということは永遠に変わりません。

離婚したときはまだ授乳もしていたり、排泄も自分でできなかったり、個人であるという感覚が薄かった。母子は自然にセットで動いていた時期だったから、「書類上決めないと、だから、(親権は)私でいいよね?」と収まっただけ。一応親権は私にありますが、離婚したときのまま触っていないだけです。

KOOMI KIM/金 玖美

子どもの父親との関係に、戸籍上の別の家族が1つ増えた

━━再婚相手である浅野さんが、息子さんと養子縁組して義父になるという選択もありましたか。

浅野さんは、付き合っているときから息子とたくさんかかわろうとしてくれていました。私と息子のことを含めて結婚しよう(養子にする可能性も含めて)と考えてくれてもいました。

ただ、私は浅野さんに限らず誰と再婚しても、再婚相手が息子の父親になる選択肢は1ミリもありませんでした。

私が再婚するからといって、子どもが新しい夫の子どもになるわけではない。再婚相手に「じゃあ、一緒に育てる?」とはなれません。子どもは母親の附属物ではないし、うちの場合は、父親と子どもの関係もある。私の選択でその縁を切ることはできません。息子は私の子どもであり、前夫の子ども。そこに戸籍上の別の家族が1つ増えたような感覚です。

ある男性の友人は浅野さんの立場を想像して、「子どもを介して前の家族とつながっていると、自分が阻害されていると感じて苦しいかもしれない」と意見をくれました。浅野さんの気持ちは本人にしかわからないけれど、浅野さんが私の夫で、息子の父親は前夫であることが浅野さんへの裏切りになるとは思いません。絶対的な存在として子どもがいて、そこから派生していく夫との関係も尊重したい。

KOOMI KIM/金 玖美
鳥飼茜(とりかい・あかね)1981年大阪生まれ。漫画家。2004年『別冊少女フレンド DXジュリエット』誌にて『ドラマチック』でデビュー。京都を舞台に姉弟の恋愛や日常を描いた『おはようおかえり』で注目される。『おんなのいえ』『先生の白い嘘』など、アラサー女性の恋愛、男女の無理解などを描く。『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて『サターンリターン』隔週連載中。

人生において恋愛の優先順位が高い

━━息子さんと、夫である浅野さんとの関係はどんなものですか。

親戚のおじさんぐらいの感じでしょうかね。「浅野さん」と息子は呼んでいますし、2人は共通の趣味がゲームなので、浅野さんが持ってきてくれたゲームについて延々と話をしています。私には全く意味がわからないんですけど、息子は(私の友達とか)相手の興味に合わせて、自分の好きな釣り、マーベル作品やガンダムなど話題を選んで深堀りするのが好きなようです。

浅野さんは、息子が来る週末にだいたい帰ってきます。3人で晩御飯を一緒に食べると決めているみたい。マイペースだから19時に来ると言っておきながら、到着は子どもが寝る直前の時間といったことも少なくないけれど、夫としては、毎週来ている認識だと思います。

━━浅野さんに限らず、離婚後に新しいパートナーを考える際、「子どもにとってどうか」ということは、どれぐらい考えましたか。

そもそも息子に明らかに悪影響を及ぼすような人は好きにならないですし、子どもが相手を好きか、相手から子どもが好かれるかは考えたことがないですね。付き合った人は、全員息子に紹介してきました。当時付き合っていた彼氏と前夫と3人で、子どもの保育園の運動会を見に行ったこともあります。

徹底して子どもに隠してつき合ったり、恋愛を諦めたりしているシングルマザーの方もいらっしゃいますよね。私は器用にできない。自分の性格上、仮に息子をおもんばかって恋愛を諦めたとしたら、「子どものせいで私は我慢したんだ」という気持ちが何かの形で出てしまいそうで。「お母さんは何にも諦めてないよ」と見せ続けることが、私にとって子どもへの誠意です。

━━再婚したものの、1週間のうち4、5日は一人暮らしということですが、毎日一緒に生活しない夫婦とはどんなものですか?

最初はおかしい、なんで帰ってこないの、と浅野さんに直接聞くこともあったし、胸の内で感情を行ったり来たりさせていました。「普通の夫婦」から外れているからではなくて、寂しい、会いたいのグラデーションですね。

浅野さんは、自分のペースで生きている人。彼に一度言われたのは、「愛情はいらない。信頼があったらいい。有事の時に頼れる人がこの人であるというのがお互いにわかれば、そのほかの時間はどこで誰と何をしていようが構わない。有事以外は感情が揺れないでほしい」と。極端な意見ですが、浅野さんは「信頼があれば執着しなくなる」と、「相手への関心が高まる」は両立できると考えているようです。

一方の私は、人生の優先順位において恋愛が上位。昔から友達より彼氏の方が優先順位が高かったし、離婚してからもずっと彼氏が必要だった。パートナーと一対一の関係だけで完結できる世界がどこかにあると信じていたし、理想にしてきました。

執着されたくない夫と、依存したい妻。まったく折り合いがつかないし決裂しかないかと、本当に別れる寸前までいったのですが、一旦自分の目を問題から逸らしてみたんです。全然違うことをするべく、いろんな人に会ってその時間を全力で楽しむことをしてみました。もともと人と会うのは好きなので、そうしているうちに考えがちょっとずつ変わっていきました。
 
私はいろんなことを恋愛相手に求めすぎていたし、相手に何かを与えていないといけないと思いすぎていました。(浅野さんに)もっと認められたいと自己肯定感が満たされない自分の問題を、相手との問題にすり替えていただけ。自分の問題と認識できてからは、夫との関係は安定していますね。

私は自分にも人にも、嘘をついているのがイヤ。自分に正直に誠実に選択したら、今のような家族になっていました。

鳥飼茜『漫画みたいな恋ください』(筑摩書房)