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2019年12月02日 07時56分 JST

日本人が使える中国キャッシュレス決済“アリペイ”。現地で使って分かった「便利だけど不便」

アリペイ「Tour Pass」は日本人の中国出張・旅行をどこまで変えられるのか。現地から報告する。

生活のほぼ全てのシーンでキャッシュレス払いができてしまう中国。それを支えるのがアリババ集団の「アリペイ(支付宝)」とテンセントの「ウィーチャットペイ(微信支付)」の2大巨頭だ。

これらのサービスは、これまでは中国国内の銀行口座が無いと利用できない、つまりビジネス出張や観光目的の日本人には使えなかったが、2019年11月に状況が一変。両社ともに、日本人を含む外国人がクレジットカードなどからチャージして使用できるサービスを開始したのだ。

中国出張がどの程度便利になるのか。記者が実際に中国へ飛んで確かめたところ「便利だけど不便」な現実が見えてきた。

アリペイ「Tour pass」を導入して中国に行ってきた筆者

■気まずさよ、さらば

チャージ自体は簡単だ。クレジットカードとパスポートの写真をアプリに登録すれば、ものの5分で完了する(詳しいやり方はこちら)。

北京に着いた私は、早速街のコンビニへ。7月に取材で大連市を訪れた際には、まだこのサービスがなかったため現金払いで通していた。レジの店員が常に「微信吗?(ウィーチャットペイで払う?)」と聞いてきて気まずい思いをしたものだ。

適当に飲み物を見繕ってレジに持っていく。アリペイを起動し、QRコード画面を店員に掲示する。あとは店員がバーコードリーダーで読み取って決済完了。

コンビニの決済は2秒で終わる

あまりに呆気ない。店員は一言も発さずに次の客の相手をし始めたので、思わず「もういいの?」と聞いてしまった。これは簡単だ。

次に試したのは飲食店。中国の街中には「清真(ハラール)」の看板を掲げた新疆料理などを提供する大衆食堂が多くあり、筆者も上海で過ごした学生時代は週7のペースで通っていた。

食事を終え会計を頼むと、店主は壁に貼ってあるQRコードをあごでさした。今度はQRコードをアプリでスキャンして、指定された代金を自分で入力する。「この金額を支払う」ボタンをタップし、証拠として店員に画面を見せれば会計終了だ。

もちろん釣り銭などのやり取りもなく、楽だ。仮に中国語が話せない日本人でも、メニューにある金額を入力すれば良いだけなので、英語すら通じないこうしたローカルな飲食店に入るのにも抵抗はなくなりそうだ。

21元(約330円)。ごちそうさまでした

■ローカルな移動手段にも

私は今回北京と深圳を訪れた。こうした大都市は地下鉄網が張り巡らされ、渋滞しがちな道路をタクシーで移動するより遥かにストレスが少ない。

たとえ現地に不案内でも、中国版グーグルマップとも言える「百度地図」アプリを使えば乗り換え案内もしてくれるので迷わずに済むのだ。

深圳の地下鉄駅周辺

ここでもキャッシュレス決済が役に立つ。地下鉄駅の自動券売機で目的の駅名をタップし、QRコードをスキャンすればいい。券売機では、外国人が持って行きがちな100元札が基本的に使えず、これまでは小銭を用意する必要があったのでこれも楽だ(ちなみに深圳では現金払いのみの券売機も見かけた)。

■「オフラインのみ」という枷

ここまで、アリペイ導入でいかに日本人の出張が便利になったかを書いた。しかし、私は何もアリペイを絶賛したいわけではない。実際にはまだまだ不便な点も多い。

その代表格がタクシー配車だ。地下鉄駅があればそれを使うに越したことはないが、駅が近くにない場合、頼れるのはタクシー。料金も日本より割安で気軽に使える存在だ。

中国では手をあげていわゆる「流し」のタクシーを捕まえることも可能だが、今はスマホアプリで呼ぶのが主流だ。こうした配車サービスでは、日本でも展開している「DiDi」などが有名。配車と同時に、紐付けしたアリペイ残高などから支払いも済んでしまう気軽さが人気だ。

しかし、外国人が使える「アリペイ」ではこのサービスを享受することはできない。それもそのはず、開放されたのはQRコードを使った「オフライン決済のみ」で、中国人が普段やっているようにアプリ上で簡単に決済、という芸当は出来ないのだ。

ちなみにDiDiは、支払い手段として日本で使えるクレジットカードも登録できる。しかし、現地で使用できずにわざわざ中国の携帯を書い直した日本人もいる。広報担当者に確認したところ「日本でダウンロードしたDiDiアプリは中国では使えない」とのことだった。

街にずらりと並んだシェアサイクルも別途、あらかじめアプリをインストールしてクレジットカードを登録しておく必要があるので、アリペイなどがあるだけでは使えなかった。

北京のシェアサイクル(筆者撮影)

■スーパーアプリの世界はまだ先...

この「オフライン決済のみ」という制限の持つ意味は大きい。

そもそも中国でキャッシュレス決済があっという間に浸透したのは、上述した「レジが便利」程度ではなく、アプリ一つで何でも実現してしまうような全能感が理由の一つだと私は考えている。

代表的なのがウィーチャットの「ミニプログラム」で、本来チャットアプリのはずのウィーチャット一つで、タクシー配車や食事の出前、さらに映画の口コミを見てチケット購入...など生活に必要なほとんどのことをカバー出来てしまう。ウィーチャットが「スーパーアプリ」と呼ばれる所以だ。

Getty Images
スーパーアプリ「ウィーチャット」

ただ現状では、オフラインのQRコードにかざして支払いができるだけで、日本人は中国のキャッシュレス中心のライフスタイルを体験することはできない(もちろん、中国国内に銀行口座がある場合は別だ)。

日本では、ヤフーとの経営統合を発表したLINEが今後「スーパーアプリ」を目指すとみられている。実際に中国に行っても体験できなかった、1つのアプリで生活が成り立つような世界が、日本でも実現するのを心待ちにしたい。