新型コロナに打ち克つために、人類ができる3つのこと【グテーレス国連事務総長 寄稿】

死者が15万人を超える新型コロナウイルス。国連のグテーレス事務総長がハフポスト日本版に寄稿した。
アントニオ グテーレス 第9代国連事務総長
アントニオ グテーレス 第9代国連事務総長
©UN Photo/Mark Garten

新型コロナウイルスに感染した人が、世界で230万人以上(米ジョンズ・ホプキンズ大学集計)に達した。死者も15万人以上に上る。(寄稿時点)

今後、世界はどうなるのか。

仮に、ある国がこれから感染を抑え込めたとしても、別の国で感染者が増えれば、そこから再びウイルスは流行し、経済も止まり、めぐりめぐって、自国の国民も打撃を受ける。

もはや途上国も先進国も、国内も海外も、あなたも私も、区別はなく、ありとあらゆる国・地域と個人が「当事者」になった。

こうしたグローバル危機の中、国連のアントニオ グテーレス事務総長がハフポスト日本版に「未曾有のパンデミックと闘うために全員の力が必要 ( All hands on deck to fight a once-in-a-lifetime pandemic) 」という題名で寄稿し、人類が危機に立ち向かうための「3つのポイント」を示した。

以下に紹介する(寄稿は4月2日時点のデータや情勢などを元にしている)

未曾有のパンデミックと闘うために 全員の力が必要

COVID-19(編集部注:新型コロナウイルス感染症)のパンデミックと、パンデミックがもたらす破壊的な結果を封じ込めるための唯一の方法、それは私たちによる連帯です。

3月26日に開かれた緊急オンライン会議で、G20の首脳たちは正しい方向へと歩み始めました。

しかしながら、私たちが直面している「経験したことのない巨大な危機」に立ち向かうためには、調和のとれた明確なグローバル対応が必要であり、それは依然として不十分なのです。

感染者の数を示すグラフの上昇曲線が平坦になる見通しは立っておらず、私たちの道のりはまだ長いと言えます。

この感染症は、当初、10万人が感染するのに67日間を要していました。しかし、今後は10万人、もしくはそれ以上の人たちが、1日で感染することになるでしょう。

一致団結して、思い切った行動をとらない限り、新規感染者数は何百万人にも達する可能性があります。こうした状況によって、医療システムが崩壊し、経済は急激に悪化し、人々は困窮し、特に貧困層が最も大きな打撃を受けることになります。

ニューヨークの国連本部で、新型コロナウイルスについての記者会見を開いたグテーレス氏(2020年2月28日)
ニューヨークの国連本部で、新型コロナウイルスについての記者会見を開いたグテーレス氏(2020年2月28日)
Anadolu Agency via Getty Images

世界が取り組むべき「3つのアクション」

最悪の事態に備え、それを避けるためにあらゆる手段をとることが肝要です。そのために、科学的な根拠、連帯、賢明な政策に基づいた3つのことに取り組むべきです。

まず1つ目は、COVID-19あるいは新型コロナウイルス感染症の感染を抑え込むこと。

感染を抑制するためには、積極的な早期検査や感染経路の追跡に加えて、隔離や治療、初期対応を行う方々の安全の確保、さらに人の移動や接触を制限するための措置が求められます。

こうした措置は(社会に)混乱を引き起こすかもしれませんが、治療法とワクチンが見つかるまで継続する必要があります。

重要なのは、この徹底した取り組みと協力が、国連システム内の機関である「世界保健機関(WHO)」主導の元で行われるということです。独自の行動をとる国(当然、自国民のためには尽くすべきですが)では、全ての人のための成果を得られません。

2つ目は、COVID-19あるいは新型コロナウイルス感染症がもたらす、社会的および経済的な打撃に対処することです。

ウイルスの感染は、山火事のような速さで広がっています。今後は開発途上国の国々にも、あっという間に感染が拡大するでしょう。

こうした国々では、医療システムに限界があり、人々はより脆弱な立場に置かれているうえ、何百万もの人たちが、人口が密集したスラム地域や、難民や国内避難民がひしめき合う居住地で暮らしています。

こうした環境では、ウイルスが開発途上国を壊滅させ、一度感染を抑えた地域での再流行を招く可能性があります。

相互につながり合う私たちの世界においては、私たち全体の強さは、最も弱い医療制度の水準で、決まってしまうことを意味します。

人類のためにウイルスと闘わないといけないことは明らかです。人々、特に、最も影響を受けやすい女性、高齢者、若者、低所得者、中小企業、インフォーマル・セクター(非公式経済)、脆弱な立場に置かれている人々を中心として取り組む必要があります。

コンゴ民主共和国北キブ州にあるエボラ治療センターを訪れ、元患者や医療スタッフと交流するグテーレス氏(2019年9月1日)
コンゴ民主共和国北キブ州にあるエボラ治療センターを訪れ、元患者や医療スタッフと交流するグテーレス氏(2019年9月1日)
ALEXIS HUGUET via Getty Images

「2009年の世界」以上の景気後退?

国連は先日、急速に拡大する伝染病が経済に与える影響を記した報告書や、この危機に対応するために必要な資金に関する報告を発表しました。

国際通貨基金(IMF)は、世界が2009年(編集部注:リーマンショックを契機とした金融危機)と同じくらい、もしくはそれ以上の景気後退に入ったと宣言しました。

私たちには、世界のGDPの10%の割合にあたる規模の、広範囲で多国間的な対策が必要です。

先進国は、自国の力で対応できますし、既に実際にそうしている国もあります。

しかしながら、開発途上国の支援策を圧倒的に増やす必要があります。SDR(特別引出権)の発行などによって、IMFやその他の国際金融機関の危機に対する能力を増強して、必要とする国に素早く援助を届けることができます。

各国の国内支出が記録的な規模で増大している時期に、このことが困難を伴うことであることは理解しています。しかし、ウイルスを抑制しない限り、その支出は無駄になってしまうのです。

各国の中央銀行が協調して行う通貨スワップも、新興経済国に資金の流動性をもたらすでしょう。2020年の利払い即時免除も含めた、債務の軽減も優先されるべきです。

オンライン記者会見を開き、「世界は今、ウイルスとの戦いに専念すべきだ」と述べ全世界での即時停戦を呼びかけた(2020年4月3日)
オンライン記者会見を開き、「世界は今、ウイルスとの戦いに専念すべきだ」と述べ全世界での即時停戦を呼びかけた(2020年4月3日)
Xinhua News Agency via Getty Images

「原状回復」だけでは足りない

そして3番目は、かつてより良い状態にまで、復興することです。

COVID-19あるいは新型コロナウイルス感染症が襲ってくる前の、危機に対して脆弱な世界に単に戻るわけにはいきません。

医療システム、社会的保護あるいは社会保障、公共サービスが脆弱であれば、私たちが多くの代償を支払わなければならないことを、このパンデミックは極めて明確に示しています。

さらに、今回のパンデミックによって、世界の不平等、とりわけジェンダー間の不平等が浮き彫りになりました。(COVID-19あるいは新型コロナウイルス感染症以前の)かつてのフォーマル(公式)経済は、可視化されず、無給で育児や介護、看護をしてきた人たちに支えられてきたこともさらけ出しています。

女性に対する偏見や暴力を含めた今日の人権問題も同様に、あぶり出されました。

パンデミック、気候変動およびその他のグローバルな課題に対してもより強靭な「包摂的」で「持続可能」な経済と社会を作るために、これまで以上の努力を私たちはいまこそ行う必要があります。

復興にむけた取り組みは、新しい経済システムの構築へと繋がらなくてはいけません。引き続き、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と「持続可能な開発目標(SDGs)」の実現を目指すことにも変わりありません。

異例の事態には、異なる手段が必要

国連システムは総動員体制で、各国の対応を支援し、国連が保有するサプライチェーンを世界が自由に使えるようにし、そして世界のあらゆる場所での停戦を呼びかけます。

世界各地でパンデミックを終わらせることは、道義的な義務であると同時に「良識のある自己利益(enlightned self-interest )」のためです。

この異例の事態に対して、いつもと同じ方法で立ち向かうわけにはいきません。異常事態には、通常の手段を使うことはそもそも不可能だからです。

私たちが直面しているのは巨大な試練ですーーその試練に立ち向かうためには、全ての人による全ての人のための、決定的、協調的、革新的な行動が必要なのです。

(英ガーディアン紙にも掲載された。翻訳:ハフポスト日本版)

ハフポスト日本版と国連広報センターは6月28日(日)13時から配信するインターネット番組「『世界平和』のために、私は何ができる?」を生配信します。EXIT兼近大樹さん、ブルゾンちえみを”卒業”した藤原しおりさんも共演し、新型コロナの問題も話し合う予定です。

【視聴方法】

6月28日(日)13時〜
ハフポスト日本版のTwitter、Facebook、YouTubeアカウントにてライブ配信。以下のURLで、時間になったら自動で配信が始まります。視聴は無料です。

▼配信URLはこちら

≪Twitter≫

https://twitter.com/i/broadcasts/1mrGmEpVQNqGy

≪YouTube≫

https://www.youtube.com/watch?v=VlHqUYumLfE

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番組では、国連が実施しているUN75「1分間アンケート」についても、兼近さん、藤原さんと話し合います。
国連が創設75周年を記念して、世界中の人々の「声」を集めている以下のアンケート。ぜひ、番組のご視聴前に回答してみてください。

▼アンケートはこちら

https://un75.online/?lang=jpn

▼国連創設75周年(UN75)特設ページはこちら

https://www.unic.or.jp/activities/international_observances/un75/

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