米朝会談「成功」に頭をかかえる米国リベラル層

リベラル寄り米国メディアには今回の会談に手厳しいものもあります。

史上初の米朝首脳会談。SNSでの投稿を見ていると日本のリベラル層の多くの方が「この第一歩を歓迎したい」と考えていらっしゃる様子。一方で、リベラル寄り米国メディアには今回の会談に手厳しいものもあります。例えば、私の住むワシントンD.C.でもワシントンポストが"Reporters thought this video was North Korea propaganda. It came from the White House.(Published 1:19 pm, Tuesday, June 12, 2018)"という記事を掲載しています。

実は私もアメリカの政治状況を考えると大変に評価が難しいと感じていた1人で、日米のリベラル層の温度差に少し戸惑っています。というのも、この米朝会談の成功は北朝鮮の体制維持だけでなく、トランプ政権の維持にも一役買いそうだからです。

現在、アメリカで最も大きな政治的関心事は今年11月の米議会中間選挙に向けた各州の情勢です。トランプ大統領の低支持率を背景に民主党有利と言われていたものが、ここにきての大統領の支持率上昇で民主党側は厳しい戦いに。堅調な景気に加え、支持率上昇の要因の1つがこの北朝鮮情勢だと言います。日本のメディアでも、先週日経新聞が「米中間選挙、8州で予備選 大票田のカリフォルニア州が焦点 (2018/6/6 7:27)」という記事で下記のように書いています。

堅調な景気や初の米朝首脳会談への期待などを背景にトランプ大統領の支持低迷には歯止めがかかってきた。与党・共和党の追い上げで野党・民主党の優位は揺らぎつつあり、選挙戦は今後一層白熱しそうだ。

冒頭紹介した記事も、「何でもトランプ批判のワシントンポストだから」とお感じになる方も多いでしょうが、批判の背景にはこうした政治状況があるわけです。

ここにきてニューズウィーク日本版でも、批判的記事が出てきています。"「何も決めない」米朝首脳会談を生んだトランプ外交(2018年06月13日(水)16時00分)"と題された記事の冒頭には<史上初の米朝首脳会談は成功だった。非核化の詳細など揉めそうなことにはすべて蓋をして、トランプの手柄ありきの外交ショーだったからだ>、写真のキャプションには「朝鮮戦争以来の敵だった米朝首脳会談は嘘のように軽かった」と書かれています。

さらには、最後の方にリベラル層の懸念がしっかりと書かれていました。

世界中のメディアがシンガポールに詰めかけた米朝首脳会談そのものが、トランプ大統領にとって自分の成果を喧伝する機会になったことは間違いない。「とにかく動かなかったものが動き始めた」ことを最大限に強調することは、中間選挙を控えたアメリカ国内で、有権者に向けてのアピールとなる。

高所得者や企業優遇の税制改革、住宅・福祉・医療・教育等暮らしに関わる重要課題の予算カット、ヒスパニック系住民や女性への蔑視、移民・難民への対応など人権問題と、トランプ政権への怒り心頭の米国リベラル層は、実質的にはまだ中身を伴わない米朝「外交ショー」に頭を抱えているようです。

※この記事は、筆者のブログ「鈴木晶子の若者困窮者支援日記」"米朝会談「成功」に頭をかかえる米国リベラル層"を改変したものです。

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