アパマン爆発で話題の「除菌スプレー」 費用の負担は義務なのか? (及川修平 司法書士)

部屋を借りる際の諸費用について考えたい。

先日、不動産賃貸仲介大手のアパマンショップで、爆発事故が発生した。札幌の店舗で消臭用スプレー缶120本ほどを室内で噴射したことが原因とされている。

信じがたい原因で発生した爆発事故だったこともあり、連日大きく報道されている。除菌の売り上げノルマがあったことや、除菌費用を徴収しているのに作業していない物件もあったと報じられ、契約問題まで発展している。

賃貸契約の際には様々な名目でお金をとられることも珍しく無いが、入居者は、除菌のようなオプションを断ることはできるのだろうか。部屋を借りる際の諸費用について考えたい。

■初期費用として記載されているが......

賃貸住宅の契約をする際は多くの書類にサインを求められ、多くの書類を受領する。

書類のなかには入居前に支払いを要する費用の明細書があり、敷金や礼金、仲介手数料などとあわせ、問題の「除菌費用」が含まれている。

契約時のあわただしいときに大量の書類をもらうので、細かい部分は見落としがちだ。明細に当然のように含まれていると支払い義務があると思われがちだが、契約内容をしっかり確認することが必要だ。

■除菌費用の負担は入居者の義務か

除菌費用の負担が義務であるかどうかは、これが契約に含まれているかで決まる。

これまで私は司法書士として数多くの賃貸住宅のトラブル解決にあたっており様々な契約書を見る機会があった。しかし、入居時の除菌費用の負担が契約上の義務とされている契約書面は見たことがない。つまり契約上、何も根拠のない費用徴収なのだ。

このことから、賃貸住宅の契約をする方から相談があった場合「除菌費用については不要ですと断ってみたらどうですか」とアドバイスすることもある。

不動産会社の社員から話を聞くと「除菌と言いつつバルサンたくだけですよ」などと話す人も多い。不動産仲介業あるあるだ。

今回のアパマンショップの件はこれが明るみに出てきただけということだ。

これから賃貸住宅の契約を検討している人は、契約内容をしっかり確認して、義務となっていないのであれば、仲介会社と交渉をして断ってみるといいだろう。

除菌費用のほかにも、契約の時点で請求される費用のなかには、本当に負担する必要があるのか疑問に思うものも多い。

■鍵の交換費用は?

たびたび質問をされることで「鍵の交換費用は負担しないといけないですか?」というものがある。

これは本来、家主が負担するべきものではある。賃貸住宅の契約は、家主からすれば住宅用として家を提供することで家賃という対価を得る契約だ。つまり、家主としては入居者が安心して住むことができる住宅を提供することが前提となっているので、そのためには家主が新しく鍵を取り替える必要があるわけだ。

原則はこうなのだが、契約上、鍵の交換費用は入居者の負担とする特約を設定することは認められている。こうなると、契約上の義務として鍵の交換費用の負担せざるを得なくなってしまう。

■家賃保証会社の利用が求められるケースが多くなっている

家賃保証会社の利用に関する質問も多い。以前は、賃貸住宅の契約をする際は、保証人を一人用意するように言われ、多くは親族が保証人を引き受けてくれるケースが多かった。しかし近年では家賃保証会社の利用を求められるケースが増えている。

家賃保証会社とは、賃貸住宅の契約の保証人を引き受けてくれる会社だ。保証人を引き受ける親族がいない場合、保証人を引き受けてくれるから便利ですなどと言われることもある。しかし実際には、家賃保証会社が保証人を引き受ける際「家賃保証会社のための保証人」を準備してくださいと言われることも少なくない。

例えば入居者が家賃を滞納し、家賃保証会社が家主に立て替えて支払った場合、入居者は家賃保証会社に支払いをすることになる。その支払いを保証する人が必要というわけだ。

これでは何のための家賃保証会社か......と言いたくなるが、家主からすると入居者の家賃不払い等のリスクを軽減できるため、入居契約の義務としているケースが多くなってきている。

■更新事務手数料は?

賃貸住宅の契約は1年更新や2年更新であることが多いが、更新の際に不動産業者に対し「更新事務手数料」の支払いを求められることがある。

入居者はあくまで家主との間で賃貸契約をしてはいるが、不動産会社とは何も契約関係にない。不動産の管理と管理委託契約をしているのはあくまで家主だ。

契約更新時に契約書を再作成する必要があって、管理を委託している不動産業者にその作成をさせるのであれば、家主が事務手数料を負担すべきようにも思う。しかしなぜか契約関係にない入居者が負担させられている例は多い。

この契約事務手数料は地域差もあるが1万円や2万円程度と金額が小さいこともあり、冒頭で触れた除菌費用と同様、裁判にまで発展したケースは少ない。

契約条件の見直しがあり変更内容を契約書類にする必要があればまだわからなくもないが、自動更新をして契約書の再作成さえしないにもかかわらず、更新事務手数料だけしっかり徴収している例もある。

賃貸住宅の契約をめぐっては、家賃のほかに様々な名目での費用が発生する。今回のアパマンショップの件ではその一端が問題となったわけだが、入居者としては自分の支払うべき費用について、今一度確認してみる必要があるだろう。

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及川修平 司法書士

【プロフィール】

福岡市内に事務所を構える司法書士。住宅に関するトラブル相談を中心にこれまで専門家の支援を受けにくかった少額の事件に取り組む。そのほか地域で暮らす高齢者の支援も積極的に行っている。

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