ワクチン格差、財政破綻、気候変動。G20財務相会合は3つの点で連帯を試されている。【グテーレス国連事務総長 寄稿】

新型コロナウイルスのパンデミックに苦しんだ私たち。世界的な復興を成し遂げ、格差のない社会にするためにどのように連帯しなければならないのか。

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)が始まって以来、数多くの世界的連帯が呼びかけられてきました。

しかし残念ながら、呼びかけるだけではパンデミックを終わらせることも、気候危機の影響を回避することもできません。

今こそ、連帯を実践で示すべき時です。

イタリア・ベネチアで開かれるG20財務大臣・中央銀行総裁会議は、3つの点で連帯を試される重要な場となります。その3つとは、ワクチン、開発途上国への経済支援、そして気候問題です。

ワクチン格差は人類を危険にさらす

まずは1つ目のワクチンから始めましょう。世界のワクチン格差は、私たちすべてを危険にさらします。ワクチン未接種の人たちに感染が広がる間に、新型コロナウイルスは感染力か致死率がより高い、もしくはその両方が高い変異株へと変異を繰り返します。

私たちは今、ワクチンと変異株の競争の中にいます。もし変異株が勝利すれば、パンデミックでさらに何百万もの人々が死亡し、世界的な回復が何年も遅れる可能性があります。

一部の先進国で70%の人々がワクチン接種を済ませている一方で、低所得国ではその数値は1%未満です。連帯とは、全ての人が迅速にワクチンを受けられるようにすることを意味します。

欧州委員会委員長とベルギー・ブリュッセルのEU本部で記者会見をするグテーレス事務総長(2021年6月23日)
欧州委員会委員長とベルギー・ブリュッセルのEU本部で記者会見をするグテーレス事務総長(2021年6月23日)
KENZO TRIBOUILLARD via Getty Images

ワクチン提供と資金提供での公約は、歓迎すべきことです。しかし現実に目を向けてみて下さい。世界人口の70%がワクチンを接種してパンデミックを終わらせるためには、10億回ではなく、少なくとも110億回分のワクチンが必要なのです。寄付や善意では実現しません。

必要なのは、歴史上最大となる世界的な公衆衛生の努力です。

G20に求められるのは、主要なワクチン製造国と国際金融機関の支持を取り付け、全ての人、全ての場所に届く世界的なワクチン接種計画を早急に実施することです。

財政破綻の危機に直面している国に支援を

2つ目は、債務不履行の危機に瀕している国々への経済支援です。

富裕国は、新型コロナウイルス危機を乗り越えるためにGDP28%相当を費やしてきました。しかしその数字は中所得国で6.5%にとどまり、後発開発途上国では2%未満です。

今、多くの開発途上国は債務返済のコストで大打撃を被っています。同時に国内予算は抑えられ、徴税も難しくなっています。

パンデミックで、新たに世界の約12000万人が極度の貧困に陥ろうとしていますが、そのうちの4分の3は中所得国で暮らす人々です。

そういった国々は、財政破綻を免れ、力強い回復に投資するための助けを必要としています。

国際通貨基金(IMFは、財政難に苦しむ国々に資金を増額する最も効果的な方策である「特別引出権(SDR)」を通じて介入し、6500億ドルを配分しました。富裕国は、その未使用分を低所得国や中所得国に割り当てるべきです。そうすることで意味ある連帯の方策となります。

G20がこれまでに、債務支払猶予イニシアチブ(DSSI)や債務措置に係る共通枠組などに取り組んできたことを、私は歓迎します。しかしそれでは不十分です。

必要とする全ての中所得国の債務を救済し、民間貸付業者も同等の支援を行うべきです。

気候変動問題で10年前の約束を守る

3つ目の連帯は気候変動に関してです。ほとんどの主要国は、パリ協定が掲げた気温上昇を1.5度に抑えるという目標にそって、今世紀半ばまでに二酸化炭素排出量を実質ゼロにすると約束しています。

もしグラスゴーで開かれるCOP26がターニングポイントになるとすれば、全てのG20諸国、そして開発途上国にも同じ約束をすることが求められます。

しかし開発途上国がその野心的な目標を満たすためには、経済的そして技術的な支援の約束が必要です。それには、先進国が10年前に約束した、開発途上国への年間1000億ドルの気候変動対策支援も含まれます。

この期待は非常に合理的なものです。カリブ海から太平洋に至る開発途上国は、自分たちが関わっていない1世紀に及ぶ温室効果ガス排出が理由で巨額のインフラのための支出が必要になっています。

連帯は1000億ドルの支援から始まります。そして全ての気候変動関連資金について、50%がレジリエントハウジング(災害に強い建物)や、高架道路、嵐や干ばつやその他の気候災害に耐えられる効果的な早期警戒システムを含む適応策に配分されるべきです。

自国優先主義は破滅への道

全ての国がパンデミックに苦しんできました。しかしワクチンや持続可能性、気候変動対策など、世界的な公共財で自国を優先する方針は人類を破滅へと導きます。

そうではなく、G20は私たちを復興の軌道に乗せることができます。世界的連帯が単なる約束ではなく意味ある行動になるかどうかは、この先の6カ月で示されます。

G20のリーダーたちは、この極めて重要な3つの試練において、政治的な意志と信念に基づくリーダーシップを示すことで、パンデミックを終わらせ、世界経済の基盤を強め、気候の破滅を防ぐことができるのです。

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