熱帯林保全に向けたAPRIL社の誓約 またも実現されず

自然の熱帯林を破壊し、紙の生産を行なってきたAPRIL社の原料調達のあり方は、多くの環境・社会問題に取り組んできたNGOや、国際的な組織、企業などによって問題視されてきました。

インドネシアのスマトラ島を中心に自然の熱帯林を破壊し、紙の生産を行なってきたAPRIL社の原料調達のあり方は、多くの環境・社会問題に取り組んできたNGOや、国際的な組織、企業などによって問題視されてきました。同社は、2014年1月には「持続可能な森林管理方針」を発表するも、その後も自らの誓約とさらにはインドネシアの法律にも反して、自然の熱帯林を破壊し続けていることが、現地NGOの調査によって明らかになっています。誓約の発表から1年が経過し、多くのNGOが改めてAPRIL社に対して破壊活動の停止を求めました。

熱帯林破壊に伴う多くの弊害

かつて豊かな自然の熱帯林に覆われ、多種多様な動植物が生息していたインドネシアのスマトラ島。

世界でも稀にみる生物多様性の宝庫とも言えるこの島の森林は、特に1980年代以降、紙やパームオイルを生産するためのプランテーションとして利用するために急激に減少しています。

自然の森の減少は、その森に住む野生生物の生息地を奪い、生存を脅かすだけはありません。

現地では、森やその周辺で、伝統的に森を利用し、自然の恵みを受けながら生きてきた先住民族や地域住民と企業との争いも深刻化しています。

また、「泥炭地」と呼ばれ、インドネシアに多く存在する、地中に大量の炭素を含む湿地を開発し、その上にある森を皆伐することは、膨大な量の温室効果ガスの排出の要因にもなります。

さらに、こうして開発され、乾燥した泥炭地で起こる火災は、温室効果ガスの排出を加速させ、周辺地域への煙害をもたらしています。

こうした問題の原因となってきた、スマトラ島の製紙産業においては、これまで約200万ヘクタールにもおよぶ自然の熱帯林を、製紙原料や植林地として利用するために破壊してきたAPP社、そして同じく約100万ヘクタールを破壊してきたAPRIL社が、その非持続可能で無秩序な原料調達のあり方をめぐり、多くのNGOや国際機関、企業などに問題視されてきました。

繰り返される「誓約」の真価は?

多くの批判を受け、2013年2月にはAPP社が「森林保護方針」を、2014年2月にはAPRIL社が「持続可能な森林管理方針」を発表し、それぞれの原料調達のあり方を改善させることを誓約しました。

また管理する植林地と同等の面積の土地を保全、森林を回復することも発表。

企業活動の方向性を大きく転換することを約束しました。

しかし、過去にも同様の誓約を発表しては、それを自ら反故にしてきた歴史のあるこの2社が、本当に森の現場において誓約を実行し、具体的な変化をもたらすかどうかについては、今回も疑問視されてきました。

その取り組みを注視してきたWWFをはじめとする現地のNGOは、APRIL社の誓約発表から1年が経った2015年1月29日、同社の取り組みには、なんの変化も認められなかったことを改めて指摘。懸念と見解を示しました。

下記は、方針の発表から1年を経たAPRIL社に対するWWFインドネシアの見解です。

WWFインドネシア:記者発表資料 2015年1月29日

APRIL社の方針発表から1年、実質的な成果はなしとNGOが表明

APRIL社が「持続可能な森林管理方針」を表明してから1年が経過し、インドネシアで森林のモニタリングを行うNGOやその連合体、アイズ・オン・ザ・フォレスト、GAPETAボルネオ、RPHKは、同社に対して自然林皆伐と泥炭地からの排水と木材運搬のための運河開発を即刻中止するように求めた。

アイズ・オン・ザ・フォレストのメンバーで現地NGOジカラハリのコーディネーター、ムスリム・ラシド氏は次のように述べる。「方針表明から1年が経ったが、APRIL社の方針の意義はまったくみられない。誓約と実際の行動は一致せず、これまで通りの操業を続けているだけだ。2011年の時点ですでにAPRIL社は、政府に対し、同社のパルプ工場の生産能力の拡大計画に関して、2014年1月末までに自然の熱帯林に由来する原料を使用しないと伝えている。同社は純粋にこの計画を遂行すればよい」

またWWFインドネシアのアディティヤ・バユナンダは「APRIL社の方針が実行されたとしても実質的な保全効果があるのかは疑問がある。同社が構築した保護価値の高い森林の保護プロセスには依然として欠陥があり、複数のNGOがAPRIL社の自然林皆伐と運河開発は、HCVリソース・ネットワークによる査読付きのアセスメントなしに行われていることを確認している」と言う。

APRIL社は、2011年の環境影響評価に基づいて同社の工場、RAPPのパルプ生産能力を拡大する許可を政府から得ている。この評価報告書には、年間生産能力は、270万トンにまで拡大されるとある。

ラシド氏は「熱帯の自然林に由来する原料の使用をなくす目標年を2019年にまで先延ばしすることは、APRIL社が法的に許可される以上のパルプを生産しているか、同社の製紙用植林地が十分に機能していないことを示唆している。全面的な情報開示が必要だ」とも語る。

加えて、社会的問題についても進捗がみられない。「APRIL社は、長年続くミュニティとの紛争を解消するという誓約を行動に移していない。現地コミュニティによる反対運動は、いくつもの地域で続き、最近も村民15人が、同社が自分たちの土地を開発したことに反対したために投獄されている」と現地NGOのワルヒ・リアウのエグゼクティブ・ディレクター、リコ・クルニアワン氏は言う。

問題を指摘するNGOは、APRIL社が森林を回復させるという誓約をどのように履行するのかが明確になっていなく、ステークホルダーとの協議も行われていないと主張する。同社が宣言した保全プロジェクト、カンパール・ロジェクトとプラウ・パダンプロジェクトについては、未解答の質問も多くある。バユナンダは「APRIL社に対し、50万ヘクタールの森林回復目標に、既に法的保護が義務付けられている地域を含めないよう再度求める。同社は、法で求められる以上に自らが生み出してきた破壊という負の遺産を解消するための対策を取らなければならない」と述べる。

RPHKのシャムスル・ルスディは「APRIL社による『ステークホルダーとの対話』には失望している。東カリマンタンにある同社のサプライヤー、 Adindo Hutani Lestari社が森林破壊を続けている件では、APRIL社は5月に一度、我々と共同の現地検証を行ったが、それで対話は終わってしまった。このサプライヤーは、現在でも政府の規制およびAPRIL社の方針に反して泥炭地にある自然林の皆伐を続けている。しかもここではHCVリソース・ネットワークによる査読付きアセスメントも実施されていない」と述べている。

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