オードリー・タンに聞いた「分断なくせる?」→「全ての人がマイノリティ」 【インタビュー全文:その③】

全4回にわたってお伝えしている台湾のデジタル担当大臣オードリー・タンさんのハフポストLIVE 。台湾でトランスジェンダーを公表した初の閣僚のタンさんは、「みんながマイノリティーになりうるという感覚を」と語ります
仕事をするオードリー・タンデジタル担当大臣。側にティーカップが置かれている
仕事をするオードリー・タンデジタル担当大臣。側にティーカップが置かれている
本人提供

台湾でトランスジェンダーを公表した初の閣僚のオードリー・タンさん。多様性を尊重する社会のあり方について「みんながマイノリティーになりうるという感覚を」と訴える。そして「既存の文化と新しい文化の両方に目を向け、その二つの間を探る。このトランスカルチュラリズムこそが、ジレンマを解決する鍵だ」と語った。

ダイバーシティとのバランスを取るのが難しい……。

―― ダイバーシティインクルージョンは大切だと思いますが、企業や組織、国や社会に団結が必要な時は、チームワークと多様性をどのようにバランスをとった方がいいでしょうか?

ハフライブの第3部で、ダイバーシティーについてやりとりするオードリー・タンさん(左)と竹下隆一郎編集長(右)
ハフライブの第3部で、ダイバーシティーについてやりとりするオードリー・タンさん(左)と竹下隆一郎編集長(右)
Huffpost Japan

タン:まず最初に、私の経験をシェアさせてください。

私は13〜14歳だった1993年で男性の思春期を経験し、その後2005〜2006年に女性の思春期をむかえました。

2回の思春期を経験した私は、自分を一つの側から別の側へと移ったトランスジェンダーではなく、両方を経験したトランスジェンダーだと思っています。

ダイバーシティにもインクルージョンがあるものとないものがあり、私の心の中で、この2つには違いがあります。

インクルージョンのあるダイバーシティは、人々がお互いを受け入れます。時には努力も必要ですが、それは必ず可能です。

次にそれが実際にはどういうものかという話をしましょう。

台湾で、ピンクのマスクしかなかった男の子が、ピンクのマスクをつけていると学校でいじめられる、と言って学校に行きたがらなかったことが話題になりました。

その翌日、鉄人大臣と呼ばれる中央感染症指揮センターの陳時中指揮官が、幹部とともにピンクのマスクをつけて記者会見をしたのです。

その男の子は、突然人気者になりました。彼だけが、ヒーローがつけられるピンクのマスクを持っていたからです。

陳氏は記者会見で、ピンクパンサーが自分の子どもの時のロールモデルだったという話もしました。

この話にはトランスジェンダーの権利も含まれています。陳時中氏と彼のチームが、突然トランスジェンダーのアイコンにもなったというわけではありません。

彼らは、ピンクのマスクを数日間着用し続ける事で、ジェンダーの主流はあっても、皆が同じである必要はない、むしろ人々は新しい可能性を一緒に楽しめると示したのです。それこそが、インクルージョンの鍵です。

――平時と非常時のバランスはどうでしょうか。新型コロナウイルスのような危機的な状況で、多様性を受け入れるのは難しくないでしょうか?

タン:私は、何よりも大切なのは他人への共感だと思います。

人はみな様々ですが、お互いの違いを認め相手を大切にしていく社会では、最も多様な価値観を持った人たちが、まるで“偵察者”のように未知の前線へと送られます。

彼らは社会とのつながりを持ったまま前線に出向き、新しい社会の形を偵察します。そして自分たちが目にしたものを、社会に戻ってきて共有します。

社会全体が前線に出向く必要はありません。偵察者と社会との間に信頼関係があれば、社会は状況を理解し、自らにとって何が必要かを考えられると思います。

私はこれこそが社会だと思います。社会とは自分たちの利益を追い求めながらも、自分たちの文化が持っていた共通の価値をシェアすることです。

自分の文化と新しい文化の両方に目を向け、その二つの間を探り、二つの間でコミュニケーションを取る。このトランスカルチュラリズムこそが、ジレンマを解決する鍵だと私は思います。

女性がデジタル業界で活躍するために、何ができるでしょうか?

「ハフポストLIVE」配信の様子
「ハフポストLIVE」配信の様子
Huffpost Japan

――女性がデジタル業界に進出するために、何ができるでしょうか?

タン:私は子どもの頃にプログラミングを学びましたが、台湾ではプログラミングは「ソフトウェアエンジニアリング」ではなく、意図的に「プログラムデザイン」と呼ばれていました。そのことがプログラミングに対する社会の捉えかたを変えました。

デザインという言葉が使われていたため、私はプログラムデザインをデザインシンキングの観点で捉え、ファッションデザイナーやビジュアルデザイナー、空間デザイナーと同じ感覚で受け止めました。

その結果、プログラミングのクラスは男の子より女の子の方が多かった。デザインという言葉はジェンダーニュートラルですが、女の子の方がよりやる気になったのです。その一方で、エンジニアリングという言葉には、強いジェンダーステレオタイプがありますよね?

どうやって男の子にプログラムデザインに興味を持ち続けてもらえるかという逆のチャレンジがありましたが、デザインのクラスにしたことは、台湾にとって大変幸運だったと思います。

また、機械学習のおかげで、人のために働きたいと思うことがよりプログラマーになりやすい環境になっています。

特にディープラーニングはそうですが、プログラマーに今一番必要とされている技術は、機械と会話することではありません。今は、機械同士が会話をし、機械が機械を監視します。機械による監視は多くの場合、人間の監視よりずっと良い結果を生みます。

プラグラミングはますます、人と人とが話し、人が何を望んでいるのかを見つけ、人とのやりとりをデザインする方向に変わってきています。そうして見つけたものを、人々はアシスティブ・インテリジェンスにすぐにフィードバックできます。

単なるプロダクトデザインから、サービスデザインインタラクションデザイン、そしてシステムデザインなど、次々と広がっています。

ですから私は、人々全体を受け入れる言葉を使うことをお勧めします。そういった言葉を使った社会で、女性は間違いなく活躍できるだろうと思います。

どうすれば、マイノリティの分断を避けられますか?

台湾の立法院(国会に相当)は2019年、同性婚を認める法案を可決。アジアの国で初めて同性婚が可能になった
台湾の立法院(国会に相当)は2019年、同性婚を認める法案を可決。アジアの国で初めて同性婚が可能になった
Tyrone Siu / Reuters

――ダイバーシティを推進する中で、これは女性の問題、これはLGBTQの問題…と分断が起きることがあります。どうすれば、この分断を無くせるでしょうか?

タン: インターセクショナリティ、つまり全ての人がマイノリティだという考えが大事だと思います。

全ての人がマイノリティであれば、それは少数の人だけの問題ではなく、全ての人にとっての問題です。自分たちの弱い部分をお互いに共有することで、より良い社会にできます。もちろん、差別と闘わなければなりません。

例えば、私が小学校に入った7歳の時、周りの子どもたちはみんな右手で鉛筆を握って書いていましたが、私は左手でした。

今ではもちろん、左利きは問題ではありません。今はみんながタイピングしますが、タイピングには両方の手を使います。しかし当時、左利きは問題でした。

周りの人たちに「左手で描き続けたら、紙の上のインクが汚れるよ」となどと言われたので、私は右手で書くことを覚えなければなりませんでした。左手で書いても何も問題はなかったのに、両手で書けるようにならなければいけなかったのです。

今は私は両方の手で書けます。むしろ右手の方がうまく書けるくらいです。しかし当時、私がもし左手で書いても構わないということを伝えられていたら、他のクラスメートができなかったユニークで新しい視点を提供できたでしょう。

これこそ、インターセクショナリティの機会だと思います。LGBTIQ+のケースに限ったことではなく、左利きなどの様々なトピックにおいて、人々とともにユニバーサルデザインについて考える機会です。

多くの異なる視点を持ち込むことで、もっと全体的でインクルーシブなデザインを作れますし、考え方や態度を変化させることができます。

いつもそう考えられたなら、「これはこのマイノリティの問題、これは別のマイノリティの問題」とは捉えないでしょう。

私はこれを、ソーシャルイノベーションラボでやっています。

――それを法律にするのは難しくはないでしょうか?台湾は2019年に、アジアで最初に平等な婚姻を実現しました。 法律を変えるぐらいのムーブメントは、どうしたら起こせますか?

タン:台湾はアジアで初めて、法律で結婚を当人同士のもので、姻戚関係を含まないとしました。

日本でもそうであるように、結婚は当事者2人だけではなく家族にも関係が及びます。いわば家族の結婚であり、家族が拡大します。これは東アジアの固有の状況であり、アメリカやヨーロッパやアフリカの考え方とは異なります。

一方台湾では、同性同士で婚姻した人たちの場合、同じ権利や責任は生じますが、義理の父や義理の母などの姻族関係は発生しません。私は家族同士が結婚するより、良いデザインだと思います。結婚した相手とのみリンクするため「ハイパーリンク法」というニックネームがつけられています。

台湾では、2008年より前は結婚には公開の儀式が必要でした。結婚は2つの家族を結びつける社会的なもので、政府は関係ないと考えられていました。

政府は平等な婚姻を法制化した時にも、結婚を当人同士の事として扱いました。この戦略はうまくいきました。平等な婚姻の法制化から1年たった今、支持率はさらに10%上がったと思います。

台湾の多様性について

――多様性を大切にする台湾の文化。この成り立ちを中国大陸と比べてどう捉えますか?

タン:台湾では、SMSで地震警報を送るということはお話ししたと思いますが、 私たちはこのSMSをいつも受信します。

台湾は、ユーラシアプレートとフィリピン海プレートのぶつかる場所にあるため、しょっちゅう地震が発生するのです。

地震から、私たちは2つのことを学ぶことができます。1つ目は、立ち直る強さがあり、そしてオープンデータなどを使って事前に土砂崩れの危険がある場所がわかれば、私たちは協力してより革新的な社会を作れるということです。

2つ目ですが、台湾で最も高い玉山は、地震のために今でも毎年2〜3センチ成長しています。これはあることを象徴しています。

それは、台湾が左側にあるユーラシアプレートに寄るわけでも、右側にあるフィリピン海プレートに寄るわけなく、上側に向かって進んでいるということです。

それは、姻族関係を含まない個人同士の婚姻を法制化するといったイノベーションなどを意味します。

特定の方向を犠牲にすることなく、共通の価値観をさらに進めるソーシャルイノベーションを進める、それこそが台湾だと思います。

(英語訳・執筆:安田聡子 中国語訳:高橋史弥・月川雄 編集:井上未雪 協力:坪池順)

▶︎番組はアーカイブでハフポストLIVEのYouTubeチャンネルから視聴できます

URL:https://youtu.be/l3H0ZmUNlQ

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