小川彩佳さん、ずっと悩んでいた「両立」。妊娠を発表した今、伝えたいことがある

『NEWS23』メインキャスターの小川彩佳さんは、「働きながら子どもを育てることを願っている女性の多くが、共通で抱えているものがあると思う」と語る。
国際女性デーの象徴とされるミモザを手にする小川彩佳さん
国際女性デーの象徴とされるミモザを手にする小川彩佳さん
JUNICHI SHIBUYA

『NEWS23』メインキャスターの小川彩佳さんは2月に、2020年夏に出産予定であることを発表しました。

実は、20代の頃から、キャリアを築きながら子育てをすることについて悩み続けていたといいます。そして、『NEWS23』からオファーがあった時に頭をよぎったのも「出産」のことだったと…。

その小川さんは今、夜のニュース番組のキャスターを務めながら子育てをするという「挑戦」に踏み出そうとしています。

意思決定層に男性が多いテレビ界で「風穴を開ける」ことへの強い思いや、女性たちが「それぞれの道の形に窮屈さを覚えることなく、胸を張って堂々と生きられるような世の中」を作っていきたいという考えを聞きました。

小川彩佳/おがわ・あやか

報道番組『NEWS23』(TBS系 月〜木曜・夜11時、金曜・夜11時30分)メインキャスター。1985年生まれ。大学卒業後、2007年にテレビ朝日に入社。『サンデープロジェクト』の司会、『報道ステーション』のサブキャスター、インターネットテレビ局『AbemaTV』のニュース番組『AbemaPrime』のメインキャスターなどを担当した。フリーアナウンサーに転身後、2019年6月より現職。

「メインキャスターのお話をいただいた時、最初に頭をよぎったのが出産のことでした」

小川彩佳さん
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JUNICHI SHIBUYA

小川さんは2月28日、NEWS23の公式Twitterで2020年夏に出産予定であることを発表した。出産前後には番組を休み、体調と相談して復帰するとしている。

「子どもを授かれたら」というのはずっと願っていたことで、昔からの夢の1つでした。でも一般的に、「仕事を一生懸命やりたい」という時期と、妊娠、出産はタイミング的に重なりがちです。大学を卒業して入社した時から、「本当に難しいことだな」と、上の世代の苦労や苦悩を見ながら感じていました。

20代前半の時、メディア業界の一線で活躍されているある女性から「本当は子どもが欲しかったけど、とてもじゃないけど考えられる状況じゃなかった」と聞きました。憧れている方からそういうお話を伺って衝撃でしたし、そこから「自分にとって大切なことは何か」を考えるようになりました。

そんな風に独身時代、仕事にがむしゃらに向き合いながらも、自分の今後に思いを馳せたとき、常に心の片隅に重しのように存在していたことだっただけに、『NEWS23』からメインキャスターのお話をいただいた時、最初に頭をよぎったのが出産のことでした。

子どもについては、周りに不妊治療をされている方や、友人や親族で子どもができるまでに時間がかかって苦しい時期を過ごした方もいます。30代半ばに差し掛かっていたということもあり、そういったことで悩んできたということを、番組側に伝えました。

その時に、『NEWS23』のプロデューサーが、「小川さんがもし子を授かって、番組に帰ってきてくれるとしたら、それは新しい視野や視点を身につけて、より強くなって帰ってきてくれるということ。それは番組にとってプラスのことだと思う」と言ってくださった。

その言葉が私にとってとても大きくて。「こういう上司のいる職場だったら頑張れるかもしれないな」と思ったのが、番組のオファーをお受けする最後のプッシュになりました。

妊娠発表への反応で「意識の壁」を実感した

小川彩佳さん
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JUNICHI SHIBUYA

女性であれ、男性であれ、「仕事で頑張り時」と脂が乗ってきた時期と、妊娠、出産、子育ての時期が重なってくる部分があります。これまでは、女性がどこか二者択一を迫られていたものが、現在は「仕事と両立させていこうよ」という空気になっている。でも、やっぱり社会の意識や環境の中では、まだ変わってない部分もあると思います。

今回、妊娠を発表させていただいたところ、インターネット上で様々な反応に触れました。女性が責任のある立場にありながら、出産のために仕事を休むことについて否定的な意見も見かけました。想定はしていたことでしたが、仕事をしながら子どもを育てることに、覚悟を持って向き合っているのでモヤモヤしましたし、そういう「意識の壁」みたいなものがまだ存在するのは確かだと実感しました。

「意識の壁」変えるために…。

小川彩佳さん
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JUNICHI SHIBUYA

私だけじゃないと思うんです。妊娠、出産を前に、悩んだり、苦しんだり、いろいろ人生設計の時期を計算したり、それでも不安になったり、出産後も復帰できるか怯えたり……。これは働きながら子どもを育てることを願っている女性の多くが、共通で抱えているものなのかなと思うんですよね。

こういうことに、もがいたり、苦しんだりせず、卑屈にならず、堂々としていられるような意識や環境ができて初めて、今盛んに言われている「女性活躍」が現実のものとなると思います。

夜のニュース番組を担う女性キャスターが産休を経て復帰するという前例はほとんどありません。今回の私の選択は、自分が願う将来のためかもしれませんが、その先にはこの「挑戦」によって「社会の『意識の壁』を変える一助になれたら」という思いが強くあります。

「生理」の企画に教えられた。「風穴を開けていかなければ」

小川彩佳さん
小川彩佳さん
JUNICHI SHIBUYA

女性スタッフたちとの会話をきっかけに、『NEWS23』で「生理」についての企画を放送したことがありました。

放送のラインナップを決める立場にいる上司に、いかに女性にとって生理に関するニュースへの関心が高いかを女性スタッフたちから説明をし、企画は採用されました。

放送後、この動画をインターネットで公開したところ、大変大きな反響をいただいて、番組の男性スタッフたちは驚いていました。

私自身も、貴重な経験となりました。「もしかしたら女性しか理解できないかもしれない。でも、男性にも知っていただきたい大切なこと」を放送するのは、決して王道を外れたことではない、ニッチなことではないということを、改めて教えられた経験でした。

テレビ局は、上の世代にいくほど男性が多く、意思決定に携わる立場の方々も男性の比率が高いのですが、発信するテーマを敏感にキャッチし続けて、ちょっとずつこういうふうに風穴を開けていかなければ、と痛切に思っています。

「女子アナ」? 女性も男性も「アナウンサー」で良いと思う

小川彩佳さん
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JUNICHI SHIBUYA

1月、TBS NEWSの公式Twitterに小川さんが「女子アナ」という言葉について話す動画が公開され、注目を集めた。その中で小川さんは、「男性中心の社会においての、若い女性に求めるものをギュッと凝縮させたような存在が、割と『女子アナ』だったりもしたと思うんですよね」などと話した。

自身も、「女子アナ」としての「役割」を求められてきたのだろうか?

新人時代に「サンデープロジェクト」でジャーナリストの田原総一朗さんにご指導いただきました。田原さんは、年齢や性別を問わずに人を見てくださる方です。当時、番組の打ち合わせメンバーの3分の1ぐらいが女性だったと記憶していますし、田原さんは新人の私に対して「自分の視点」での言葉を求めてくださったので、それに答えようと努力しました。そんな環境でスタートしたこともあり、私自身が「“女子アナ”の役割」を求められていると感じる機会は少なかったです。

一方で、周りを見渡した時に、感じてきたことはあります。女性アナウンサーに、過度なタレント性や可愛らしさ、従順であることが求められる場面に遭遇し、「プロである部分を正面から見てもらえない」という苦しさを抱える同僚の姿も見てきました。ここ10年で随分変わってきたという実感はありますが、今も窮屈さを感じている方もいると思います。

私としては、わざわざ「女子」とつける使い方はしません。女性も男性も「アナウンサー」で良いと思うんですけどね。

女性が胸を張って堂々と生きられる世の中、一緒に作っていきたい。

小川彩佳さん
小川彩佳さん
JUNICHI SHIBUYA

最後に、国際女性デーによせて、女性たちへのメッセージを聞いた。

「女性活躍」と言われながら、一方で、「女性なんだから」「女性なのに」などと言われることもある狭間で、まだまだ悩むこともある時代です。

私は子どもを産もうという選択を今していますが、結婚する人もしない人も、仕事と子育ての両立をする人も、専業主婦になる人も、子どもを産まずに生きていく人も、それぞれの道の形に窮屈さを覚えることなく、胸を張って堂々と生きられるような世の中になってほしい。それを一緒に作っていけたらと強く思っています。

私も新しい挑戦をしながら、大きく変化が起きている時代に見える景色を、しっかり一つ一つ心に留めていきたいです。それがより明るく、より希望に満ちたものであることを願っています。

国際女性デー

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