「若い世代ほど、違和感や抵抗がない」甲子園のラジオ実況したNHK女性アナが振り返る

NHK澤田彩香アナ「『頑張ってしゃべってるのを聞いて勇気もらいました』という手紙をもらったのは、嬉しかったですね」
Rio Hamada / Huffpost

2018年夏の甲子園。NHK名古屋放送局の澤田彩香アナウンサーは、中高校生のころから観戦で通った憧れの地で、念願のラジオ実況を務めた。

目の前で起きるワンプレー、ワンプレーを正確に伝えるスポーツ実況は、高い描写技術や競技の知識が求められ、育成にたくさんの時間と現場経験を必要とする。

テレビ局の中には、ハフポスト日本版の取材に「女性アナウンサーは、キャスターなど幅広い業務を担当することが多いため、スポーツ実況に費やす時間を確保するのが難しい」と説明する社もある

澤田アナは、そんな状況を熱意と実力で覆した。 自ら「甲子園実況がしたい」と志願し、実践経験やトレーニングを積み重ね、先輩の藤井彩子アナ以来19年ぶりとなる大役を務め上げた。

「嬉しさと幸せ、もう半分は悔しさだった」

澤田アナに、担当した3試合の甲子園実況やそこまでの道のり、反響などを振り返ってもらった。

Rio Hamada / Huffpost Japan

「一言で表せないけど、とても幸せ」

―ご自身で強く希望され、2018年夏の甲子園ラジオ実況を務められました。スポーツ実況はまだまだ男性の分野と思われがちですが、目指そうと思った経緯を教えてください

もともと高校野球・甲子園がすごく好きでした。

スポーツ志望ではなかったのですが、最初に沖縄局に赴任して、NHKのアナウンサーはニュースからスポーツ、地元の芸能の話題まで何でもやります。

高校野球の毎年放送があるので、当初は、アルプスリポーターとして関わりたいと希望していました。沖縄大会で実際に担当させてもらい、甲子園にもいつかアルプスリポーターとして行きたいと思っていました。

その後、入社2年目の春の高校野球選抜大会で、初めて甲子園に行くチャンスをもらいました。

アルプスリポーターは、ラジオディレクターの役割もするのですが、その時に横でラジオ実況する先輩を間近で見て「かっこいいな」と思ったんです。NHKの地方局は、女性が実況するチャンスもあるので、私もやってみたいと思ったのがきっかけです。

ずっと練習を積み重ねて、3年目の夏に沖縄大会でラジオ4試合と、テレビ1試合をしゃべらせてもらいました。すごい下手くそでしたけど、もちろんやりがいや楽しさを感じました。沖縄は高校野球がすごく人気なので、たくさんの反響もありました。

甲子園はずっと前から好きだったので、いつかあの舞台で実況できたらどれだけ幸せだろうと考えるようになって、目指したいという気持ちが出てきました。

3年目の終りの名古屋局への異動では、「実況をやりたい」と伝えて転勤しました。プロ野球・スポーツ実況でトップレベルの竹林宏アナウンサーに指導してもらえることになって、アドバイスをもらいながら2018年夏の甲子園に向けて練習を積み、実況デビューが決まりました。

―沖縄大会での経験はありましたが、甲子園実況は初めてのチャレンジでした。実際に実況してみてどんな気持ちでしょうか

もちろん一言では表せないですけど、すごく幸せでした。最初の試合はしゃべるのに必死だったので、半分ぐらい記憶がないのですが...。

かなりアドレナリンが出た状態でした。球場は毎日ほぼ満員で、選手たちも練習を重ねて県予選を勝ち上がってきて、観客席も一生懸命応援しています。

その姿を自分の言葉で切り取って伝えられたというのは、すごく充実感があって嬉しかったです。

それと同時に、緊張でできなかったことや、自分の実況を聞き返して「下手くそだな」と思うこともたくさんあったので、嬉しさと幸せ、あと悔しさ半分みたいな感じでした。

時事通信社

―3試合を実況して、自分の中で変化を感じることはありましたか

すぐには変わらないですけど、やっぱり、最初の試合が一番緊張して、すごく変な感覚でした。ホームランが出たのですが、その場面を描写して「ホームラーン!」と叫んでいる自分を俯瞰しながら、「私、甲子園でホームラン」って叫んでるみたいな(笑)

自分としては、2試合目が一番落ち着いていました。試合展開はロースコアで、結構ピッチャーとバッターの駆け引きがあったので、解説の方としっかり(試合を)見ることができました。

では、3試合目はもっと落ち着いてできると思ったのですが、その年の夏は甲子園がとても暑かったんです。

アルプスリポーター時代は、基本ずっと外に出ずっぱりなのですが、リポート自体は短いので、ガっと集中すればなんとかなっていました。

ところが実況は2、3時間の長丁場なので、一瞬集中すればいいというものではもちろんなくて、そこに向けたコンディションづくりが初めてでした。

先輩アナウンサーは、自分の担当があるときないときのオンオフを切り替えます。私はそれがうまくできなくて、できるだけ甲子園で生で試合を見たいと思って外にいたら、実況3試合目には疲れが溜まってしまい、体力的に厳しかったという印象でした。

手紙で「実況を聞いて勇気もらいました」

Rio Hamada / Huffpost Japan

―甲子園実況をされて、さまざまな反響があったと思います

私が実況すると伝えたら、ラジオのアプリで聞いてくれた友達がたくさんいて、「人によってすごい色がでる」と言ってくれたのは嬉しいニュースでした。

あと、会社に届いた声の中には、女性の実況だから違和感というか、聞きなれないといったようなものもあったことは聞いていて、それは仕方ないと思っています。そういう意見は絶対に来るからと上司と話して、覚悟の上で臨んだので、大丈夫でしたね。

手書きのお手紙もたくさんいただいて、私は「女性の実況」ということをそんなに意識していなかったのですが、「女性が頑張ってしゃべってるのを聞いて勇気もらいました」という年配の女性からの手紙をもらったのは、嬉しかったですね。

―藤井アナ以来19年ぶりの甲子園実況として注目され、反響を取り上げたスポーツ紙の記事では、好意的な声が多かったと伝えていました。「女性実況は違和感がある」というイメージを持っていた人も、実際に聞いたらそうではなかった、といった反応が広がった印象を受けました

私が考えていた以上にそう(好意的に)書かれていて、ありがたいです。違和感がいっぱいあって「もう澤田、次はない」と言われたら、女性の声というだけでそうなったら悲しいですよね。

でも、耳で聞くことは生理的な部分があるので、仕方ないとも思います。2〜3時間もしゃべりますから。そうならずに、「聞いてて違和感がなかった」という声はすごく嬉しかったです。

傾向として、若い世代ほど違和感や抵抗がないという意見が多かったと聞きました。でも上の世代の人はずっと男性の声で野球を聞いてきたので、慣れみたいなものはありますよね。

「技術の面を言ってもらえないの?」

―実況スキルを評価する声もありました

声のことを言われるより、その方が嬉しいですね。デビューしたてで、実況スキルはまだ全然ダメですけど、それでも褒めてもらえる部分があったのは、教えてもらったことをちゃんと出せたのかなと思います。

これまでも、沖縄時代から野球実況研修に参加して、最初の頃は「澤田の声だったら甲子園でしゃべれるかもしれない」と何回か言われたことがあります。

他の男性アナウンサーは、君の声だったら...みたいな話は出ないんですね。君の実況は...とすぐスキルの指導が入っていきます。

私はまず、澤田の声だったら...。そんなに高くないので、「2〜3時間しゃべっても大丈夫だろう」と言われて、最初はちょっと違和感があって、「技術の面を言ってもらえないの?」と思ったことはありました。

ただ現実的に、甲子園で、公共メディアの全国放送で喋らせるのは社の責任も問われるので、何十年もやってきたNHKとして、責任のある形で出していかないといけない。だからどうしても、最初はそういう観点から入ったのだと思います。

「アメフトの実況に勇気をもらった」

Rio Hamada / Huffpost Japan

―高い声は聞きづらいという意見はどう思われますか。男性アナの実況が多いので慣れていないだけなのか、それとも、そもそも声質的に聞きづらいと思われてしまうのか。ご自身が実況する中で、もしくは別の女性アナの実況を聞いて、もしお考えがあれば...

どうなんでしょう。私は「女性だな」とは思いますけど、声が聞きづらいと感じたことはないですね。むしろ「女性だから喋れたんだろ」ともし言われたら、すごく嫌です。

今回の甲子園は、たまたま第100回大会でした。だから、「記念で女性が喋ったんだ」となるのはすごく嫌で、本当にレベルが達してなかったらデビューをさせないと上司からも言われてました。

その言葉は、私もすごく嬉しくて、だから「女性だからあまり上手くないけど喋っているな」と思われないように、技術面をすごい頑張って練習しました。

スポーツ実況をしている女性もゼロではないですし、ちゃんと取材もされているので、私はそんなに違和感はないですね。

あと、アメリカ旅行に行ったときに、ホテルでテレビをつけたら、アメリカンフットボールリーグ(NFL)で女性がしゃべっていて、すごくびっくりしました。

NFLの実況は基本男性で、ピッチに立ってるリポーターが女性というパターンが多いのですが、たまたま実況も女性でした。

甲子園で実況デビューする約1年前、そこを目指そうと言っていたぐらいだったので、国は違いますけど、ちょっと勇気をもらいました。

―澤田アナの実況を聞いて、私も目指したいと思う人も出てくると思います

スポーツ実況をしたいという人は、男女問わず応援したいです。私もまだ頑張らないといけない立場なので、一緒に頑張りましょうという感じですね。

例えば、自分も頑張ろうと思ってくれる人がいたらすごく嬉しいことですけど、実況に限らずどの分野でも、「女性だから」「少ないから、多いから」というのがないことが一番いいですよね。

―今後、スポーツ実況で関わりたい競技や目標を教えてください

甲子園のラジオ実況デビューは、NHKスポーツ実況アナウンサーの中では登竜門で、最初の大きな一歩です。 私はまだまだラジオ実況で足りていないところもあるので、ラジオでもっと頑張るというのと、ゆくゆくはテレビで野球(実況)もできたらいいですね。

あとは、アーチェリーやフィギュアスケートなどにも関わらせてもらっていますし、今はオリンピックやパラリンピックでも何の競技でも担当する時代になっているので、少しでも幅広くいろんなスポーツに関われたらと思っています。

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