ブラックフライデーを「放棄する」企業、何が起きているのか?その皮肉な現実

1年で最も買い物客が多い日、自らそのチャンスを放棄する企業がある。しかし実際は...
ブラックフライデーのニューヨークのデパート 2018年
ブラックフライデーのニューヨークのデパート 2018年
Stephanie Keith via Getty Images

アメリカのサンクスギビングデーの翌日に開催される大セール、「ブラックフライデー」。2019年では11月29日にあたる。

日本でも近年取り入れている企業も増えているが、海外では逆にこの大セールをボイコットする企業の動きもあるようだ。

人気コスメブランド「ジ・オーディナリー」を所有するデシエムは、ブラックフライデー当日は全店舗を閉店し、Webサイトも終日閉鎖する。同社によると、目的は過剰な購買に反対するためだ。

「過剰な大量消費は地球にとって最大の脅威の一つです」とデシエムはInstagramで声明を発表した。「フラッシュセールでは、売り切れのおそれに駆られて急いで購入を決断することがよくあります。私たちはブラックフライデーが地球や消費者に優しいイベントだとはもはや感じません」同社の広報担当者によると、 従業員にはその日も給料が支払われるという。

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1年で最も買い物客の多い日を見過ごす企業は珍しいように見えるが、デシエムは特異ではない。 過去5年間、アウトドア小売業者REIはブラックフライデーに店を閉め、1万4000人のスタッフに外で一日を過ごすよう促している(給料も支払われる)。

一方、フランスでは「金曜日を再びグリーンに (Make Friday Green Again)」という理念の下に組織された200のブランドの集まりが、当日の一切の割引を避け、代わりに売上の10%を非営利団体に寄付することに同意した。 「目的はブラックフライデーとその背後にあるものを非難することです。 消費者により良い消費について教育することです」と、参加しているブランドの1つ、ドリームアクトの共同設立者であるダイアン・シェママ氏は述べた。

これらの動きは、社会的そして環境的な問題に対して明確な立場を取ることを考える企業の傾向に合っている。企業は速度を緩めて、消費について慎重に考えよう、買う物が本当に必要かどうかをよく考えようと伝えている。REIの場合、 家族と自然の中での時間を優先しようという。 それをするのにブラックフライデーよりもふさわしい時があるだろうか。

伝統的に1年で最大のショッピングデーであるブラックフライデーは、衣類から掃除機器、長期休暇の旅行にいたるまで、限定バーゲンを巡って人々を狂乱状態に追い込む。

店の前の人々の行列は、時にはサンクスギビングデーの夕方という早い時間から始まり、暴力、さらには死に至ることさえある。世界中のブラックフライデーの負傷者と暴力の追跡に特化したウェブサイトでは、2010年以来、12人の死者と117人の負傷者を記録している。銃撃や刺傷などが起こっており、中にはベルトを鞭として使った買い物客もいた。

環境への多大な影響がますます明らかになっているにもかかわらず、この日は私たちの飽くなき物欲の代名詞となっている。私たちは、ファストファッション産業が巨大な汚染者で、労働者を搾取しており、より多くの購入を促すことを目的とするビジネスモデルを持っていることを知りながらも、彼らの商品を購入し、 電子製品が世界で最も急速に成長する廃棄物の流れを構成しているという事実にもかかわらず、新しいハイテク機器を手に入れる。

従業員への負担も大きいブラックフライデー

だから、煽ることから一歩下がって、人々にもっと責任を持って購入するように伝える企業は、倫理的で明らかに良いのではないか?

「それはあなたの評価基準によります」とマサチューセッツ州にあるクラーク大学の環境科学と政策のハリーナ・ゼインヴァルド・ブラウン教授は述べた。彼女は、労働者の権利や処遇などの社会的目標に貢献するための責任ある消費は効果をもたらし得ると述べた。

ブラックフライデーは、最近では片方がサンクスギビングデーに、もう一方がサイバーマンデーとつながる傾向があるが、従業員にとっては非常に困難だ。 低賃金労働者は多くの場合、サンクスギビングデーのテーブルにつくことなく店や梱包倉庫に向かう。ストレスが多くプレッシャーがかかり、肉体的にも疲れる仕事をしても特別手当はもらえないことが多い。

REIのブラックフライデーに閉店するという決断は、元々従業員への懸念から下された、と同社の副社長兼最高顧客責任者、ベン・スティール氏は述べた。「その日のことを本当に考えたとき、サンクスギビングとブラックフライデーの両方で私たちが従業員のために作り出している環境について考え、決めました」

しかし、環境への影響に関するメッセージについては、より複雑だ。企業は責任ある消費のメッセージを発信しているように見えるが、同時にもっと買うように誘惑している。

皮肉な現実

REIの反ブラックフライデーのマーケティングは消費と気候変動に関するメッセージを取り入れている。 今年は「行動することを選ぼう(Opt to Act)」と呼ばれるキャンペーンを始め、従業員と顧客が環境への影響を減らすための簡単な行動をとるように促した。 一方、デシエムの共同設立者兼CEOのニコラ・キルナー氏は「私たちの行動のより大きな影響を考慮したことを居心地よく感じる」必要があると語る。

しかし、これらの企業はいずれも完全にセールを放棄していない。 デシエムは(閉店中を除いて)1カ月間ずっと23%の割引を提供している。一方、REIは11月15日から25日までの間、最大30%の割引を提供する。どちらも、急いで購入の決断を迫ることなく顧客に価値を提供するもの、と主張する。

しかし、誰もが口にしない重要な問題は、倫理的なラインに歩調を合わせるために尽力する企業にとってさえも、成長を前提とするビジネスモデルの究極の目的は、常に人々にもっと多くのものを買わせることだ。それはより多くを生産し、より多くの資源を採取することを意味し、世界にはより多くの物があふれる。

人々が衝動買いしないようにビジネスモデルを多少変更することについて、ブラウン教授は「それは素晴らしいアイデアで賛成しますが、企業の成功の概念を根本的に変えることはありません」と述べた。

それは有名なアウトドア企業パタゴニアのキャンペーンが完璧なまでに象徴する葛藤だ。 同社は、2011年のブラックフライデーにニューヨークタイムズで全面広告を出した。ジャケットの写真に、広告コピーは「このジャケットを購入するな」と叫ぶものだった。

同社はキャンペーンについて「消費者主義に問題提起し、真剣に取り組むべき時が来た」とウェブサイトで説明した。問題は、ブラックフライデーの売上が30%増加したことだ。

皮肉な見方をすると、企業が倫理的な小売業者としてのスペースを開拓しようとすることが、純粋なマーケティング策略とも取られる、とブラウン教授は述べた。 また、もっと寛大に見ると、企業は顧客に仕えたいと考えており、顧客がおそらくブラックフライデーの寒い夜明けに大型量販店の外に並んでいる人々ではないことを理解している、と付け加えた。

どちらの解釈でも、「利益の減少はなく、消費の減少もありません」と彼女は言った。

「これらのブランドの多くがブラックフライデーに反対していることは理にかなっています」と、オランダのエラスムス大学ロッテルダム経営大学院のアミット・バタチャルジー助教授は述べた。「彼らにとって賢明であり、彼らの誠実な信念と相容れないという意味ではありません」。

人々は購入するものについて道徳上良いと感じることを望んでおり、これらの企業はそれをする方法を見つける。 しかし、バタチャルジー助教授は「ここで多くの倫理的消費への皮肉があります」と警告した。自分の主義のためにプレミアムを支払う余裕がある人は、より多くの物事をするライフスタイルを持つことが多い裕福な人である傾向がある。 もっと買い、より大きな家に住み、もっと飛行機を利用する。「彼らの二酸化炭素排出量がすでに、このような種類の製品にプレミアムを払っていない人々よりもかなり上回っている可能性があります」。

足るを知る

ブラウン教授は、消費社会をひっくり返す深い文化的および経済的変化でもない限り、「倫理的消費」は幻想だと述べた。 しかし、彼女はより良い生活の方法があると信じている。

「必要な消費があり、それから人生と贅沢を楽しむための消費があります。そして、私たちのような消費社会でかなり蔓延している衝動的な消費があります。 それらはすべて環境に有害ですが、一部には正当化しやすいものもあります」と彼女は言った。

彼女によると、消費レベルのベースラインは常に上方修正されているが、直面する多くの環境危機から抜け出すことはできない。 今のところ、影響を与える最善の方法は、充足の倫理について考えることだという。

「あなたが健康に、充実した人生を生きるのに十分なものとは何かを理解することです。しかし、それは非常に深い概念です。 一体何人の人が自分自身にその問いかけをするでしょうか」

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集・加筆しました。

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