「レジュメ採用しませんでした」。最高に元気になれる映画ブックスマートで、オリヴィア・ワイルド監督が突きつけた挑戦状

テイラー・スウィフトもお勧めのティーンコメディ『ブックスマート』が、多くの人を魅了するのはなぜ?
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一流大学への進学が人生の成功への道と信じ、高校生活を勉学に捧げたモリーと親友のエイミー。

しかし卒業式前日にトイレで知った事実に、守り続けてきた価値観が砕け散っていく……。

テイラー・スウィフトが映画館に見に行ってと呼びかけ、オバマ前大統領がお勧めの1本に選んだ映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』。

高校卒業までの2日間を描いた同作を監督したのは、俳優としても活躍するオリヴィア・ワイルド氏だ。

オリヴィア・ワイルド監督
オリヴィア・ワイルド監督
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俳優のキャリアを重ねながら、約10年かけて監督への一歩を踏み出したというワイルド監督。

ブックスマートは、若い頃に自分を映画の世界に魅了した『ブレックファスト・クラブ』などの青春映画へのオマージュだという。

その一方で、これまでの映画に「挑戦状を突きつけたかった」とも話す。

初めての長編監督となる同作で挑んだこととは、何なのだろう?

「レジュメ採用」への挑戦――より平等な場ができた!

『ブックスマート』は、女性のパワーが炸裂しているコメディーだ。

モリーとエイミーにとって重要なのは、お互いの友情と、自分が主役になって人生を生きること。“自分らしさ”は大切だけれど、世間が求める“女性らしさ”など、どこ吹く風だ。

強く自由な女性がいきいきと描かれているのは、女性クリエイターが多いからかもしれない。

ブックスマートは、監督だけでなく脚本家も全員女性。白人男性が多数を占めるハリウッドで、ワイルド監督は全ての人を同等に考慮する人選をしたかったと話す。

「そのためにレジュメをベースにした判断をしないことにしました。レジュメで判断してしまうと、白人の男性が支配しているシステムを続けてしまうことになりますから」

例えば『7本映画に携わってきてアカデミー賞にもノミネートされた』という人がいても、それだけで判断はしなかったという。

経歴がない人は、そういう仕事へのアクセスが今までなかっただけかもしれない、とワイルド監督は続ける。

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レジュメに変わって重視したのは、作品に対する情熱やアイディアだ。

過去の実績だけではなく、一緒にいた時の様子や作品への反応、リアルさへの貢献、アイディアを基準に起用を決めたと話す。

「その結果、アイディアを持っている人を集めると、より平等な場がつくれるということがわかりました。レジュメに価値があるのだという考え方を捨て去らなければいけないですよね……!」

「性を話すのは恥ずかしい」への挑戦――正直に描く物語が足りてない!

性の描かれ方も女性が主役だ。女性のマスターベーションやセックスが、ポジティブで自然、勉強をするのと同じくらい重要なものに位置付けられている。

この描き方を「性に抱かれがちな、恥ずかしいという気持ちを取り除きたかった」とワイルド監督は説明する。

「恥ずかしいと思う背景には、正直に人生を描く物語が足りていないこともあると思うんです。人間が正直でいられて、思春期やセクシュアリティが歓迎され、マスターベーションや体や性的欲望について話せる環境があれば、恥ずかしいという気持ちはなくなりますよね?」

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特に女性は性の話題を口にすると咎められる、と話すワイルド監督。それは若い女性を守りたいという理由からかもしれないが、実際には女性を制限し、孤独にしてしまっていると感じている。

「だから本作では、恥ずかしさと孤独感を取り除き、皆がこうで自分もその一部なんだと感じて欲しかったんです」

「決めつけ」への挑戦――みんなを肯定してみたら?

ブックスマートを見る時に特に注目して欲しいのは、キャラクターの見せ方だという。

登場人物は最初、ガリ勉や人気者、御曹司など、わざと型にはまったキャラクターとして描かれる。

そんなキャラクターの一人一人を「まずは過小評価して見て欲しい」とワイルド監督は語る。

「型にはまったキャラクターを見て、観客は意図的にレッテルを貼り、『こういう人だ』と裁く。一度はそういう風に判断してしまっても、映画が終わる時までに『どのキャラクターも思っていた人とは実は違った』という体験をして欲しいんです」

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意地悪だなと思っていたキャラクターが見せる、思いがけない一面。その描き方の裏側にあるのは「人を決めつけなかったらどうなるだろう」という監督の問いかけだ。

「私たちは、例えばクールなキッズは親切で優しくて、理解できない相手は意地悪……と思い込んでしまうところがあるんじゃないかな」

「でも実はみんな優しく親切な一面があるんじゃないかと思えば、全てが変わるんじゃないかとも思うんです」

これまでの青春映画で強調されてきた「高校生活は戦争でサバイバル」という見せ方に挑戦状を突きつけられたら――そんな気持ちがあったと監督は言う。

「制限」への挑戦――セクシュアリティはグラデーションの一つ

キャラクターの描き方でもう一つ注目して欲しいのは、一人一人によりニュアンスを持たせていること。

例えばレズビアンであるエイミーの性的指向は、彼女の全てではなくグラデーションの一つとして捉えられている。

「エイミーはクィアだけど、この映画は彼女のカミングアウトの話ではないし、2人の友情がそれによって重荷になったり、ぎこちなくなったり、友情を定義づけたりはしません」

Francois Duhamel

若い世代のセクシュアリティに対する姿勢に、インスピレーションを受けていると監督は話す。

「彼らは、セクシャルアイデンティティを厳しくこうだと決め込まず、その人の一部という感じ方をしていると感じます。それらは彼らを制限するものでも定義づけるものでもなく、友情の幅を制限するものでもありません」

クィアのキャラクターが登場する映画の多くでは、苦労が描かれることが多い。ただそればかりでは、観客はクィアであることとの痛みや大変さばかりを結びつけてしまうのではないか、見たい世界をスクリーンで描くことこそ、ストーリーテラーにとって大事なのでは――キャラクターの描き方には、監督のそんな思いが込められている。

若い人へのラブレター、年上の人へのノスタルジー

フェミニズムやLGBTQ、そして性の自由などの新しい価値観を、笑いとともに肯定する『ブックスマート』。

「皆それぞれ違うキャラクターを描きたいし、それが決してその人たちを定義づけないものにしたいんです」とワイルド監督は話す。

映画からもらったワクワク感をで観客に返したいと言う気持ちを形にした、と監督が言う同作は、若い人と年上の人それぞれへの思いが込められている。

「この映画は若い方へのラブレターです。そして年上の方には、こういう関係があったから今の自分があるんだなあと、ノスタルジーを感じながら観てもらえるような作品じゃないかな」

Courtesy of Annapurna Pictures

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

8月21日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

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