『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』 ― フードトラックと金融緩和とピケティ/宿輪純一のシネマ経済学(72)

本作は、楽しめる要素が盛り沢山で、観終わった後の爽快感が最高で、心もお腹も満たされる映画、といいたいが、逆にお腹は減った(笑)。
MIAMI, FL - APRIL 25: General view of the 'Chef' the movie private screening at O Cinema on April 25, 2014 in Miami, Florida. (Photo by Alexander Tamargo/Getty Images for Open Road Films)
Alexander Tamargo via Getty Images
MIAMI, FL - APRIL 25: General view of the 'Chef' the movie private screening at O Cinema on April 25, 2014 in Miami, Florida. (Photo by Alexander Tamargo/Getty Images for Open Road Films)

(CHEF /2014)<2月28日公開>

本作は、楽しめる要素が盛り沢山で、観終わった後の爽快感が最高で、心もお腹も満たされる映画、といいたいが、逆にお腹は減った(笑)。

まず、ストーリーだが、元一流レストランのシェフがオーナーと喧嘩して、仕方なくフードトラックでサンドイッチを売りながら、旅をして自分の人生を取り戻していくという話。映画の中でも、SNSで盛り上げるが、それはなくても良かったかな。

一流レストランの優秀な料理人カール・キャスパー(ジョン・ファヴロー)は、お約束であるが、経営者的視点のオーナー(ダスティン・ホフマン)と衝突する。オーナーは創造性に欠ける料理を要求するがそれを拒み、さらに店で評論家とも喧嘩して、衝動的に店を辞める。

その後、仕方なくマイアミに行った料理人カールは、とてもおいしいキューバサンドイッチと出会い、これで食っていこうとする。きれいな元妻(ソフィア・ベルガラ)や思いやりのある友人(ジョン・レグイザモ)、可愛い息子(エムジェイ・アンソニー)らとフードトラックでサンドイッチの移動販売を始める。これが苦労しながらも、当たる。

筆者はそもそもロードムービーが好きであるが、車がフードトラックなので、まさに「料理ロードムービー」。もちろん、ジューシーな料理の数々も、さらにご機嫌なラテン音楽、旅行気分を味わえる風景もご機嫌満点。

また、主演と監督が、なんと『アイアンマン』シリーズなどの"監督"でもある俳優のジョン・ファヴロー。彼は今回の様にメガネがあったほうがカッコいいな。共演には、ダスティン・ホフマン、ロバート・ダウニー・Jr、ガールフレンド役のスカーレット・ヨハンソンといった、豪華キャストが集結。監督の人望で集まったウルトラ・キャストである。

ちなみに筆者も「ABCクッキング」で料理を習って、料理をするのが大好きな料理家でもあるが、ジョン・ファヴローの包丁さばきはすごい。実際に料理をしているのが分かった。

さて、筆者もそうであるが、最近日本でも流行ってきた「フードトラック」や、屋台、あるいは立ち飲みのような簡易な料理店(飲み屋)は大好きである。筆者がそのような店が好きなのは、下町系の育ちであることと、お金持ちでないことである。

とくにアベノミクスに基づく量的金融緩和が始まってからは、経済格差は拡大しているのではないか。お金持ち(資産所有者)はよりお金持ちになって、労働者はお給料も上がらず、物価が上がって生活は苦しくなっている。

これは先進国(成熟国)の経済では起こることである。日本では、産業やサービスなどの実体経済では、成長力が落ちているために、資金を必要としていない。実際に、すべての銀行の貸し出しも、預金に対して約6割程度とのことである。このように実体経済が資金を必要としていないので、当然、無理な量的金融緩和の資金は資産に流れ込んで、資産価格は上昇し、バブルのリスクも高まっている。しかも、給料の上昇に結び付く経済成長ではなくて、物価上昇を目標としているので、庶民の生活は苦しくなるというわけである。この成熟国の金融緩和で資産が上昇するというメカニズムは、ピケティ博士がいっていることとベースは一緒である。

でも、この映画の特徴だが、本作に出演している人は皆、良い人ばかり。しかし、本当の世の中はそうではない。ひどいことをする人もいるものである。

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