米中の中央銀行間での政策協調の欠如が世界株安の原因だ

米中両国の中央銀行が日頃から緊密に連絡を取りあい、政策協調する気配は、一向に感じられません。

9月17日の連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラルファンズ・レートが利上げされるかどうかに注目が集まっています。

そもそもなぜ利上げというものが必要なのでしょうか?

投資銀行時代にこの質問をエコノミストにぶつけたら、「それは経済のちょうど良い状態を、なるべく持続させるためだ」という説明が返って来ました。

ユルユルの金融政策を長期に渡って続ければ、事業主や投資家がだんだん横着になり、無節操なリスクテーキング、借金しすぎ、インフレーションなどを誘発します。それを未然に防ごうとするのが利上げというわけです。

米国連邦準備制度理事会(FRB)は、米国経済のちょうど良い状態を、大体、次のように考えています:

1.失業率は5.2%

2.インフレ率は2%

3.政策金利は3.5%

これらはいずれも、おおまかな目安です。過去35年間の米国のGDP成長率の平均は2.7%でした。

全体として、米国経済はこのちょうど良い状態に接近しつつあります。しかし政策金利だけは現在0~0.25%なので、大きく後れを取っているわけです。

そろそろ利上げした方が良いという考え方は、このような枠組みの中で論じられているわけです。

しかし、世界に目を転じると必ずしも外国の置かれた立場は米国のそれと同じではありません。

とりわけ中国は既に無節操なリスクテーキング、借金のしすぎなどを一通り経験しました。

それらを必死で抑えるために金融引締めをした結果として、いま景気が下向きになってしまったのです。急いで緩和しているのはそのためです。つまりサイクル的には米国と全く逆の位相に位置しているわけです。

これまでは米国経済が世界のチャンピオンであり、米国はワガママに自分の事だけを心配していれば、それでOKでした。

しかし中国経済の存在感が大きくなっているので、昔のような「FRBは、米国のことだけを心配していれば良いのだ」という頑固な考え方は、もう現実的ではありません。

なるほど米国の機関投資家は殆ど中国の株式を保有していないし、債券も持っていません。米国の銀行の中国に対する融資も少ないです。だから「中国で金融危機が起きても直接の影響は少ない」と論じるエコノミストが多いです。

しかし実体経済の面では中国は世界中と手広くビジネスしているので、中国経済の減速は世界中のビジネスマンが実感しています。コモディティの価格を通じて、それは米国のインフレ率の予想にも影響を与えています。既に影響が出ているものを、まるでかすり傷ひとつおわなかったかのようにシカトする態度を見せるから、FRBの話に整合性がなくなりはじめているのです。

世界でNo.1とNo.2の経済である米国ならびに中国の金利政策が、真逆になってしまっているというのは不安定極まりない状態です。

しかも両国の中央銀行が日頃から緊密に連絡を取りあい、政策協調する気配は、一向に感じられません。

アップルの製品をひっくり返してみると「Designed in California, assembled in China」と書いてあります。これに象徴されるごとく、実業の世界では米国と中国は仲良くやっているし、お互いにお互いを必要としています。

冷戦時代じゃあるまいし、中央銀行だけがお互いの存在すら目に入らないと言わんばかりにシカトし合うというのは、時代錯誤甚だしいし、戦慄すべきことです。

(2015年9月5日「Market Hack」より転載)

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