ビジネスが作る未来
2019年10月07日 06時55分 JST

「日本製品は中国で売れる」では“スタートラインにすら立てない”。御社の商品、“立ち位置”ズレていませんか?

「双十一(ダブル・イレブン)」は売り手にとって明暗が分かれる祭典。勝ち組を目指すには「あれ」の蓄積が欠かせないとマーケティングの専門家は指摘する。

売れはした。だが困っていた。

ファンケルの姉妹ブランド、「アテニア」の堂下亮・取締役は悩んでいた。2019年8月に、現地のネット通販プラットフォームで中国向けに自社ブランドの製品を出品した。スタートは好調だった。

だが同時に、アテニアが対中国マーケティングの「落とし穴」にハマる可能性を危惧していたーーー。

Fumiya Takahashi
アテニア・堂下取締役

■「なぜ売れているのか...」

アテニアはエイジングケアに強みを持つ化粧品ブランド。2019年8月5日から、アリババの運営するEC(電子商取引)プラットフォーム「天猫(T-mall)」などに自社製品20品目を出品した。

出品直後は「まずは運用構築で、2週間くらいのテストマーケティング期間」とみて、大規模なプロモーションは控えた。それでも蓋を開けてみたら、初月の売上は計画の3倍にも上った。

天猫のアテニア旗艦店

売れないよりは、売れる方がいいに決まっている。しかし堂下氏にとってこの売り上げは、「奇妙」なものに他ならない。

まず、売れ筋の商品が特定のものに偏っている。中国の消費者に人気を博したのは、メイクを落とすためのオイル。アンチエイジング効果を謳った商品ではあるものの、20品目中、2商品に売り上げが集中している。アンチエイジング製品の需要にハマったのならば、化粧水などももっと売れていい筈だ。

そもそも、予想よりも売れたとはいえ、「そんなに高い売り上げではない」(堂下氏)。具体的な販売数は公表していないものの、天猫側が表示する「過去1か月に売れた数」は9月末時点で5000本余りだ。

Fumiya Takahashi
売り上げの集中した商品

何よりも一番の問題は、「なぜ売れたのか」が分からないことにある。ファンケル本体には、中国にも多くのファンがいる。その姉妹ブランドだから買われたのは想像に難くない。一方で、どういった客層が、何を好んで、なぜオイルばかりを買っていったのかが判然としない。

堂下氏曰く、アテニアは「ダイレクトマーケティングをやってきた会社」だ。

「どういうお客様が商品のどこに満足して、どこを物足りなく感じているのか。ニーズにお答えして、ファンになっていただくことで本当の意味でのお客様になっていただける。話題を作って売るより、そういうことを重視してきた。まだ自分たちは、誰がどういう理由で買っているのか、消費者実態が見えていない」

話題性で一時は売れるが、すぐに埋もれていく。堂下氏は、アテニアというブランドの存在自体が一過性のものになる可能性があると危惧している。

アテニアには苦い経験もある。一度中国市場へ挑戦したものの、撤退するという憂き目に遭っているのだ。

進出したのは2010年。実店舗を構えた上海は、若い女性を中心に美容意識が特に高い地域。日本製品全般への評価も良かった。

条件は整っているように見えた。しかし、3年半後に店を畳んだ。

撤退に追い込まれた具体的な原因について聞かれると、堂下氏は考え込む。

「なんといったら良いのでしょうか...社内事情もありますし、あとはお店を持つことの初期投資が重かったのはあると思います」

それでも、中国の化粧品市場の伸びに期待し、ECという形での再挑戦を決めた。失敗から得た教訓。それは消費者の動向をより繊細につかむことだ。

■リポDは「頑張る女性の飲料」

化粧品は、「日本製」の中でも、特に中国で人気があるジャンルだ。それでも、ただ「高品質」とか「手作り」を謳って市場に出すだけで、必ず成功するほど簡単ではない。

SNSを利用した対中国マーケティングを手がけるトレンドEXPRESS(東京都千代田区)の濱野智成代表は、商品が中国でどのような「立ち位置」に置かれているかを把握することの重要性を訴える。

トレンドEXPRESSの濱野代表

この会社では、中国のSNSに溢れる膨大な口コミを抽出し、特定の商品がどのような評価を受けているかを分析している。

驚くのは、そうした商品が、しばしば日本とは違った立ち位置に置かれることだ。

例えば「リポビタンD」。ケイン・コスギさんなど、屈強な男たちが爽やかに汗を飛ばしながら「ファイト!イッパーツ!」と叫ぶおなじみのCMから分かるように、日本では男性ビジネスパーソンが飲む印象が強い。

ところが、中国のネットでは違った。SNSでは、キャリアウーマンや女子学生など、女性を中心に「残業や勉強を頑張る時に飲むもの」と認識している人が多かったのだ。これは競合相手の「レッドブル」や、中国の国産栄養ドリンクが男性に支持されているのと比べても顕著な違いを示していた。

時事通信社
リポビタンDを持つケイン・コスギさん(2002年)

こんな例もある。家に湧くゴキブリ対策は、中国では毒エサが主流。しかしペットブームの高まりに合わせて、愛犬などが誤って口にしてしまうリスクが増えた。

そこで、日本の会社が発売していた、粘着シートに貼り付けるタイプのトラップが、ペットを飼う家庭の間でホットアイテムと化したという。

このような、中国で立ち位置が「ズレる」現象は、販売元の会社も調べて初めて分かるものだった。濱野代表は「日本ではこれだけCMをやっているので、買ってもらいたい人に対してブランド訴求されている。一方で、中国ではそれができているブランドが少なく、消費者が勝手にそういったマインドセットで使っていくのではないか」と分析している。

立ち位置を把握すれば、それに応じたブランディングを行っていく。狙った層に商品を体感してもらい、ネット空間に口コミを蓄積させていくのだ。濱野代表は、中国人の消費動向は、この口コミの貯まり具合によって左右されると考えている。

「消費者は口コミを必ず調べます。くまなく調べます。最初に一次認知をとって『この商品は本当に人気なのか?』と検索したとき、口コミがない商品は『なんだただの広告じゃん』となります。

逆に、いい口コミがたくさんあると理解度が高まるので、そこで初めて購入動機が増えていく。口コミの蓄積が前提にないと、どんなに広告しても売れない状況です」

口コミ分析の重要さを訴える

■「日本の企業、気づいていない」

2015年の流行語にもなった中国人観光客の爆買いから、「日本製品は売れる」という認識が広まった。自治体や企業などが中国のECサイトに進出する例も相次いだ。しかしその後、目立った成果が出ていないものも多い。

濱野代表は、「日本製=売れる」という認識から、マーケティングに相応のコストを負担する考えにシフトするべきだと指摘する。

「最低限の資本がないと、口コミの蓄積ができません。つまり、一定の投資がないとそもそもスタートラインに立てないということを、一部の日本企業は気づいていないのではないでしょうか。

日本で1億円を投資したのに中国には1000万円しか投資しないのだと、それは(マーケットを)取れないですよね、と言う話です。

10倍市場を取るためには10倍投資する覚悟が必要です。もっと言うと、競争が激しいので、10倍以上の投資をしないと(中国で)狙った市場を取るのは難しいかなと思います」

■必要に応じて“キャラ変”も

アテニアも、口コミを元にしたマーケティング戦略を導入する。これまでに売れた製品の口コミを分析し、PRターゲットとブランドのキャラ付けを決めていくことにしている。

中国の化粧品市場は、内陸部の所得上昇などに伴って今後も拡大する見込みだ。しかし、そこは中国国内の企業に加え、すでに欧米や韓国などのブランドもしのぎを削るレッド・オーシャンだ。

中国市場では、20〜30代の女性に対し事前予防としてのエイジングケアを推奨する戦略を描くアテニア。一方で、現在、SNSの世界でどういった立ち位置になっているのかはまだ分からない。

堂下取締役は、エイジングケアという軸は残しつつも、必要に応じてブランドのキャラクターを柔軟に変えていく構えだ。

「我々は、新参者・弱小ブランドなので、一人一人のお客様のインサイトを掴んで、プロダクト優先にならずに、マーケットイン視点でやっていくことが大事。ターゲットと提供価値を尖らせていくことで、お客様に支持をいただく、シェアを奪っていくのができるのではないでしょうか」

見据えるのは「双十一(ダブル・イレブン)」だ。毎年11月11日は中国の「独身の日」とされ、ECサイトは大規模なバーゲンセールを打つのが習慣になっている。2018年の天猫の総流通額は日本円にして約3兆5000億円。この“お祭り”に便乗しようとする日本企業は多い。

時事通信社
2018年の「双十一」イベント

双十一は「大量に売れるところと、肩透かしを食らうブランドとで勝ち負けがはっきりしている」とトレンドEXPRESSの濱野代表は言う。

8月ローンチのアテニアは圧倒的な後発だ。勝ち組に入れるよう、現在も急ピッチでブランド化を進める。巨人の財布を開かせることができるか。結果はまもなく明かされる。