10連休明けの憂鬱な気分を解消する「過去の本」読書術

昔買った本を「再訪」し、その本を買った当時の自分の「心の動き」を思い出してみましょう。
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連休明けはブルーになりやすい

今回の10連休は長すぎました。「あんなに連休中の計画を立てていたのに、ダラダラとしてしまった…」。うまく休日を過ごせなかった人もいると思います。

カレンダー通りに休めた人にとって、もうすぐ仕事が始まります。毎年この時期は「ゴールデンウィーク明けブルー」になる人もいるそうです。

今回は、平成から令和に変わるタイミング。Twitterを見ていると新しい時代に合わせて野心的な目標を立て、「決意表明」をしているSNS著名人もいます。そういう投稿を見るとますます焦ってしまうものです。

連休明けの憂鬱な気分を変えて、順調に「職場復帰」するための対策はいくつかあります。その中で私が最もオススメする方法は本棚を整理しながら、「過去に買った本」を再読することです。

令和だからといって、「新しいこと」をする必要はない。昔の本と再び向き合い、買った当時の自分の「心の動き」を思い出す。休み前のやる気があった頃の「自分」に出会う。それだけで、モチベーションが沸いて来るのです。

本棚から3冊の本を選ぶ

やり方は簡単です。まず、自分の本棚を整理しながら3冊の本を選びます。本を入れ替えたり、綺麗に並べたりして、できるだけ多くの本を手に取りながら、次の3つのポイントに気をつけて選んでみてください。パッと3冊を決めるのではなく、本棚を整理しながら、じっくりと行うと良いです。

①最近買った本ではなく、少なくとも1ヵ月以上前に買った本を選ぶ。

②仕事や進路、働き方や生き方などに関する本を選ぶ。

③ 早めの午前中や夜など、できるだけ静かな時間帯に選ぶ。部屋のドアをしめて、「シーン」となる環境を作る。

本は買ってしばらくたつと購入理由を忘れてしまうものです。

・人に勧められた。

・書店でカバーを気に入ってジャケ買いした。

・興味があるテーマだった…。

いろいろ理由はあると思いますが、その時の「様々な感情」を振り返って今の自分の心の状態と比べることに意味があるので、でお伝えしたように「1ヵ月以上前に買った本」にするのがオススメ。

今回は、連休明けの「仕事」をうまくスタートさせるための「本棚整理」なので、のように、目的に合ったテーマに絞ることも大事。さらに、多くの本を手に取りながらじっくりと考えることがポイントなので、のように静かな環境にも気を遣うと良いです。

私は、朝早く起きて、本棚を綺麗にしたり古本屋に売るための要らない本を選んだりしつつ、計3冊を選びました。そのうちの1冊は1年ほど前に手に入れた、楠木新「左遷論」(中公新書)です。

選んだ本は、読破する必要はありません。たとえ未読であっても、「さあ全部読もう」と思わない方がいいです。仕事が本格的に始まる前に、新しいタスクが増えてしまっては更に憂鬱になりますよね。本の表紙、帯、目次などを眺めるだけで十分。ネットで検索して書評を読むだけでもOKです。

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左遷について考える

私が選んだ、楠木新「左遷論」(中公新書)。自分の希望とは違う部署に”飛ばされる”ことを意味する、あの「左遷」についての本です。ちなみに昔の私が「なぜ買ったのか」はこの本棚整理を機に思い出したので、あとで書きます。

買ったけど読む時間がなくて未読のままにしてあったため、ほとんど新品。帯は付いたままでした。本の内容が短い文章で書いてありました。

「左遷という言葉は『低い役職・地位に落とすこと』の意味で広く用いられる。当人にとって不本意で、理不尽と思える人事も、組織の論理からすれば筋が通っている場合は少なくない。」

なるほど、なるほど。筋が通っている…のか。

さらに文章は続きます。

「人は誰しも自分を高めに評価し、客観視は難しいという側面もある。本書では左遷のメカニズムを、長期安定雇用、年次別一括管理、年功的な人事評価といった日本独自の雇用慣行から分析。組織で働く個人がどう対処するべきかも具体的に提言する。」

ここまで読むのに1分とかかりませんでしたが、「左遷」という言葉の定義、さらにそれが「日本的な組織」に特有な側面があることが分かります。

「左遷」とまではいかないにしても、これを読んでいる人の中には、現在の仕事のポジションに満足していない人もいるかもしれませんが、「個人としての対処法」までが本に書いてあることが、パッと把握できます。

本を買った当時の気持ちを思い出す

帯を読み終えると、「買ったときの記憶」が蘇ってきました。本を買ったのは、1年ほど前。あるイベントに登壇するとき、自分のプロフィールについて聞かれて、相手の言葉にモヤッとしたことがキッカケです。

私は記者としてキャリアをスタートしたとき、宮崎や佐賀など九州を転々としました。そこで妻と知り合いましたし、私にとっては「第2の故郷」です。そのことを当時、登壇するイベントのスタッフに伝えたら「結構飛ばされてたんですね…」と言われました。一瞬何を言っているか分からなかったのですが、彼にしたら「地方勤務=左遷」というイメージがあったのかもしれません。

イベントが終わったあと、モヤモヤしていたので、駅の書店でこの本を買ったのです。その時は忙しくてこの本を読まなかったのですが、改めて当時の「感情」を思い出すことが出来ました。

自分の過去の感情を思い出して興味を持てたので、読書を続けました。この時点で買った理由が思い出せなかったり、興味を持てなかったりすることもあると思います。

もし15分ほどページをめくって当時の自分の気持ちが全く思い出せなければ、別の本を選びましょう。次々に本を手に取り、昔の自分がどんなことを考えていたのかを知る旅にでてみるのもいいかもしれません。

「左遷論」をパラパラめくっていると、菅原道真や森鴎外が九州勤務を命じられた話が書いてありました。二人とも「失意の左遷」だったらしいのですが、日本では歴史的に、働く人の勤務地や地位は人生を揺るがす一大事であったことが改めて分かります。繰り返しですが、全部を読もうとせず、興味があるページだけで良いです。

「あとがき」も読んでみます。

「左遷は、人生を輝かすために地中に埋められた原石のようなものだ。(中略)。自分自身に正面から向き合うことが求められる。それらを通して、左遷をチャンスに転換できる余地が生まれる。」

ここまでかかった読書時間は20分ぐらいです。

左遷は、自分と向き合い、会社組織の構造を「中心の外から見つめる」ことができる利点があるように思えて来ます。「地方勤務」や「左遷」を未だにマイナスに考えるイベントのスタッフの発言から感じたモヤモヤが、1年ほどの長い時を経て、少し解消されました。

ここまで来ると、どうでしょう?連休でボーッとしていた頭が活性化されて来ませんでしょうか?私は、自分のこれまでのキャリアを振り返ったり、自分の仕事観と改めて向き合ったりすることができました。

コンテンツがネットで手に入り、無料であることが多いのこの時代において、1000-3000円前後のお金を払って本を買うことは、ちょっとした「アクション」だと思います。昔の自分が問題意識を持ったこと、興味を持ったこと、やる気を出していたこと。本を買ったときの気持ちを思い出すと、改めて自分のフレッシュな感情と向き合うことができ、「憂鬱な気持ち」が少し消えていきます。

経団連の中西宏明会長
時事通信社
経団連の中西宏明会長

そもそも「左遷」とは——思考をどんどん飛ばして「自分」を呼び戻す

最後にもう少しだけ、左遷論を読んだとき、どんな思考のフローだったかをご説明してこの記事を書き終えたいと思います。

「左遷論」は上記のように、パラパラと「飛ばし読み」をしただけで勉強になりました。ただ「なるほど」と思うと同時に、「左遷という言葉はあまり好きではないな」とも思いました。

私にとって九州勤務は楽しく、中小企業や地方議会の取材など東京では出来ない仕事をたくさんしたからです。

そんなことをぼんやり考えていると、社員を地方や海外などに異動させる「転勤」という制度が今の時代に合わないな、とも改めて思いました。日本では「大企業型の終身雇用」がある程度のスタンダードだとされていた時代が長い。正社員は長期の雇用を保障されるのですが、その代わり、あっちこっちに異動させられることで、組織は維持されてきました。

一方、経団連の中西宏明会長が連休前の4月中旬、「経済界は終身雇用を守れないと思っている」と発言して話題になりました。また、ドイツ政府が2016年に「労働4.0」という報告書をまとめましたが、デジタル化によって働く時間も場所も世界レベルで柔軟になっていくことが分かります。たとえばドイツでは、残業した時間を銀行口座のように貯めておくことができ、あとで休暇などで相殺する「労働時間口座」があるそうです。

ここ数年言われていることですが、終身雇用型の働き方はますます衰退していきます。今後は働く場所を自分で選ぶ人が増えていくでしょうし、地方で働くことが「飛ばされた」というようには、必ずしもならないはずです。

「左遷論」を買った当時。私はイベントスタッフの発言だけでなく、「左遷」という言葉にも違和感を覚えたことを思い出しました。

欧米諸国と違って、日本では会社の「命令」によって、働く場所を不本意に決められることは「当たり前」とされていた面がありました。

転勤が日本からなくなったらどうなるんだろう? あるいは、海外の人が積極的に「日本」を選んで働きにきてもらうにはどうしたらいいだろう? 強制的に自分の見知らぬ土地に住む「転勤のメリット」もあるのではないか?などの問いが生まれました。

ハフポストはリモートワークや、地方と都市でのダブルワークなどについてこれまで記事にしてきましたが、「もっと頑張って働き方のコンテンツを出したい」という気持ちがより一層強くなってきました。社会に対する問いが生まれてくると、仕事のモチベーションも上がってきます。

「憂鬱な気持ち」とはたいてい、目の前に迫ってくる仕事や日常に嫌気がさすことから生まれるものです。そういうときは、自分がかつて社会や世の中に感じた違和感、疑問点、問題意識などの「激しい感情」を思い出すことが有効でもあります。

昔買った本を「再訪」することは、「初心にかえる」とも言えるでしょう。令和だからといって、新しい考えや新しい行動をしなくてもいいのです。「昔の自分」がやり残したことをやる。解決しないままに抱えていた感情をアップデートさせる。

「過去の本」読書術。うまくいくかもしれないし、あんまり「効かない」かもしれませんが、時間は30分もかからないので、ちょっとトライしてみる価値はあると思います。ぜひやってみてください。

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私は朝日新聞の記者として2002年にキャリアをスタートして、2016年にインターネットメディアのハフポスト日本版の編集長に就きました。

これまでたくさんの記事を書いてきましたし、今はテレビやイベントで大勢の人の前で話します。そのためのインプットとなる読書も続けてきました。

こうした「本棚術」など、自分なりの「知的生産術」を短い文章でハフポスト日本版で書いています。テーマは ①本棚術(読書術)②文章術 ③メモ術 ④スピーチ術 ⑤頭と心を休める術 ⑥イベント運営術などです。

もし良かったらちょっとした「スキマ時間」に読んでみてください。

<過去の記事>

ちなみに上記6点以外の「人脈(仕事のチームづくり)術」は書いたばかりの本「内向的な人のための スタンフォード流ピンポイント人脈術」(ハフポストブックス/ディスカヴァー・トゥエンティワン)に書いています。こちらもぜひ手に取ってみてください。

名刺交換のあとの雑談が苦手、立食パーティーが苦手…そんな内向的な人こそ、これからの時代は活躍できるということをお伝えした本です。SNS時代の「つながり方」について真剣に考えぬいた一冊です。

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