パンデミック中にソウルでK-POPコンサートに行った。大声禁止の会場内は、驚くほど静かだった。

ライブで叫べないというのは、私たちにとって新たに経験する苦痛だった。かっこいいダンスナンバーが終わっても、ファンの拍手しか聞こえない。まるでK-POPのライブではなく、クラシックのコンサートにいるみたいだ。
NCT 127のメンバーがパフォーマンスする様子(2022年1月27日韓国・ソウル)
NCT 127のメンバーがパフォーマンスする様子(2022年1月27日韓国・ソウル)
Han Myung-Gu via Getty Images

【このエッセイは、新型コロナウイルスの感染が拡大してから2年経った今、生活にどんな変化があったかを人々が綴ったハフポストのグローバル特集「コロナ禍で私は」の1つです。これはハフポスト韓国版の記事の英訳を、翻訳・編集したものです】

新型コロナウイルスが韓国の私たちの生活に激震を与えてから、2年が経った。多くの人が、パンデミック以前は楽しく有意義だった生活の一部を失った。

K-POPグループNCT 127の大ファンである私にとって、それは対面でのライブコンサートだ。ライブや海外ツアーが中止となり、対面でのイベントはオンラインに切り替わった。そのせいで、大好きなK-POPグループを画面越しでしか見ることができなくなってしまった。

私のようなファンは生で見るパフォーマンスを切望していた。

そして2021年11月、韓国政府は少しづつ平常な日常を取り戻すために、「ウィズコロナ」政策を実施した。それまで禁止されていたコンサートは、ワクチン接種を終えている500人未満の観客であれば開催でき、大規模な公演でも文化体育観光部の許可を得れば実施できるようになった。

エンターテイメント業界は、この機会を逃すまいと多くの主催者が急いでコンサートを企画し始めた。


どうにか手に入れたチケット

NCT 127のコンサートを切望していた私に、ソウルの高尺スカイドームで3日間のコンサートがあるという情報が舞い込んだ。この会場は通常2万人ほどの観客を収容できるが、新型コロナ対策の規約により、各コンサートのチケットは5000枚に限られた。ファンは大喜びした。だって、NCT 127の韓国での対面コンサートは、2019年1月以来だったのだから。

コンサートの開催が発表されるとすぐに、多くのファンがチケットのためなら何でもする、と言った。パフォーマンスを見るためだったらスカイドームの天井からぶら下がったっていいというほどだ。

私たちは皆、K-POPが恋しかった。しかし復活した今、チケット入手の競争率の高さや、次にコンサートが開催されるまでどれくらいかかるのかが不明なため、ファンはストレスを抱えていた。

私はどうにか最初のライブチケットを手に入れることができた。新型コロナの感染者数が私の興奮と同じくらい高まり、コンサートが中止になるのではないかと心配になった。新型コロナ陽性者と接触して、ライブを見に行けなくなっては嫌だと、チケットを購入してからライブまで、家に留まることにした。

2021年12月17日、ついにNCT 127の対面ライブ初日を迎えた。500人以上の観客が入るイベントでは政府の「ワクチンパス」ルールが適用されるため、コンサートスタッフは入場時に、観客全員のワクチン接種証明書と、PCR検査の陰性結果を確認した。座席は指定席で、他の観客との間には空席が設けてあった。そしてライブ中はマスク着用が義務つけられていた。

「叫ばない。立たない。歩き回らない」ライブ

身分証明書とワクチン接種証明書の確認を受けた後、緊張しながら会場に足を踏み入れた。ファンには「3つの禁止事項」に気をつけるよう指示があった。「叫ばない。立たない。歩き回らない」だ。多くのファン同様、普段ライブで歌ったり叫んだりすることに慣れている私は、無意識のうちにいずれかの禁止事項をやってしまうのではないかと心配になった。

声援を送る代わりに、唯一出せる音は拍手音だった。NCT 127がついにステージに登場した時には、彼らが本当に存在するということを実感し、嬉しくなった。思わず叫びそうになったが、マスクに手を当ててどうにかそれを抑えた。

NCT 127のライブで観客に叫ばないよう呼びかけるサイン
NCT 127のライブで観客に叫ばないよう呼びかけるサイン
Huffpost Korea

「みんな、準備はいいですか?」という彼らの問いかけに、私はライトスティックを勢いよく振ることしかできなかった。そこには約5000人の興奮したファンがいたが、アリーナは驚くほど静かだった。

大声を出すことができないので、拍手の大きさを比べて、どのパフォーマンスが1番人気か判断した。ジョニーがシャツを脱いでダンスを始めた途端、拍手が大きく沸き起こった。中には、感情が抑えきれず啜り泣くような声も聞こえた。腿を叩いたり、髪を引っ張ったりするファンもいたが、大声を出す人はいなかった。

ライブで叫べないというのは、私たちにとって新たに経験する苦痛だった。かっこいいダンスナンバーが終わっても、ファンの拍手しか聞こえない。まるでK-POPのライブではなく、クラシックのコンサートにいるみたいだ。

平常な日常の大切さ

ショーの最後、ヘチャンが「夢の中でみんなに会えて嬉しかったです。次は、もっと幸せな夢を見ましょう」と言った時には、泣きそうになった。冗談抜きで、本当に泣いた。

この対面ライブが本当に実現するのか、不安になったことが何度もあった。もちろん、こうしたイベントが恋しかったのはファンだけでなく、アーティストたちもステージに戻ってファンと繋がるのを心待ちにしていた。

グループの1人、マークはこう言葉にした。「こうしてライブの準備をしたり、ファンの皆さんがパフォーマンスを見に来てくれるのは、これまでごく普通のことでした。でも、そんな当たり前のことができなかったからこそ、平常な日々がどれだけ大切か学べたと思います。こんな喜びをまた感じられる機会をくれて、本当にありがとうございます」

NCT 127が表彰式に参加する様子(2022年11月3日スペイン・セビージャ)
NCT 127が表彰式に参加する様子(2022年11月3日スペイン・セビージャ)
Europa Press Entertainment via Getty Images

新型コロナの感染者数は、コンサートが開催される週には1日7000人に達した。ライブ2日目の12月18日、政府は臨時コンサート会場の営業時間の短縮や、観客数の引き下げなど、より厳しい検疫措置を開始した。

幸い、NCT 127のコンサートは文化体育観光部の許可を得ていたため、変更なく予定通り行われた。

コンサートが終わった後、私は短くも甘い夢から覚めたような気分だった。

次に行く時には、手が痛くなるまで手拍子するのではなく、声が枯れるまで叫びたい。その日こそ、K-POPファンとアーティストが「より幸せな夢」を見られる時だろう。

注目記事