サイボウズ式:「園で預かる」だけじゃない!──企業や家族と「こどもの未来をつくる」保育士の新しい働き方

厚生労働省の調査によると「賃金が希望と合わない」「他職種への興味」「責任の重さ」といった理由から、資格を有していても保育士としての就業を希望しない人も多いそうです。

保育士不足がさけばれているなか、問題となっているのが保育士の待遇や労働環境。厚生労働省の調査によると「賃金が希望と合わない」「他職種への興味」「責任の重さ」といった理由から、資格を有していても保育士としての就業を希望しない人も多いそうです。

そんななか、フリーランス保育士の小竹めぐみさんとこどもみらいプロデューサーの小笠原舞さんは、「保育士は保育園以外でも活躍できる!」と既成概念を打ち破り、合同会社こどもみらい探求社を2013年に設立。保育士の専門性を生かした新たな活動に取り組んでいます。

保育の現場で課題を感じ、子どもたちとオトナの架け橋となるべく活動を始めたおふたりに、活動内容やそこにかける思いについてたっぷりお話をうかがいました。

保育士視点で企業活動をプロデュース

―お二人の活動について教えていただけますか?

小竹:こどもみらい探求社では、「保育士が専門性を生かしながら社会に出たらどうなるんだろう?」ということの実験をしています。さまざまな企業とのコラボレーションを軸にして、今の時代に合った、子どもにとっていい「モノ・コト・ヒト」をデザインしたい、というのが私たちの大きなミッションになっています。

―どのようなコラボレーションですか?

小竹:例えば東急電鉄さん・CANVASさんとのコラボ企画で、二子玉川の駅を使った、親子で楽しめるイベントを行ったり、フェリシモさんとは「ワンダーチルドレン」という新しい取り組みで商品PRのお手伝いをさせてもらっています。

小笠原舞さん 合同会社こどもみらい探求社共同代表、asobi基地代表。法政大学現代福祉学部現代福祉学科卒。こどもの存在そのものに魅了され大学在学中に独学にて保育士国家資格を取得。社会人経験を経て保育現場へ。すべての家族に平等な子育て支援をするために、また保育士の社会的地位を向上させるために「こどもみらいプロデューサー」という仕事をつくる。2012年にはこどもの自由な表現の場として"大人も子どもも平等な場"として子育て支援コミュニティ「asobi基地」を立ち上げる。

小笠原:結婚相談事業のツヴァイさんとは、シングルパパ・ママ向けの出会いの場のサポートをしたり、中小機構さんと「遊び心を生かしてクリエイティブ力を上げる」という研修をしたりしました。

―様々な業種があるのですね。

卒園後も個性を大切にしてもらえるのだろうか?

―お二人が活動をはじめたきっかけは?

小竹:私は保育士として現場で約6年間働いていました。そのとき、保育士が子どもを見られるのは卒園まで、という概念があったんです。卒園した後、自分はもう何もできないのかと思ったらすごく悲しい気持ちになって。もちろん卒園は嬉しいし、「行ってらっしゃい」と思うんだけれども、「この子たちの個性を、大切にしてくれる大人や教育と出会えるだろうか......」と、すごく不安になったんです。

そのときに、不安だからって「今の社会って全然ダメだよね」とは言いたくなくて。だったら、自分がその社会をつくることに関わっていきたいと思ったんです。

これまでは目の前の子どもたちだけを見て、社会のことを考えられていなかったかもしれない、と反省もしました。保育園から社会へ矢印が向くような仕事をしていたけど、社会から子どもたちに矢印が向くような、そういう新しい環境を生み出せたらいいなと思って活動を始めました。

小竹めぐみさん 合同会社こどもみらい探求社共同代表、NPO法人オトナノセナカ代表理事。聖徳大学短期大学部専攻科 保育専攻卒業。保育士をする傍ら、家族の多様性を学ぶため世界の家々を巡る1人旅を重ねる。特に砂漠とアマゾン川の暮らしに活動のヒントを得て、2006年より講演会等を通して【違いこそがギフトである】と発信を始める。幼稚園・保育園などで勤務した後、こどもがよりよく育つための"環境づくり"を生業にしようと決意し、園に属さず自由に動くフリーランス保育士の肩書で独立。

―小笠原さんはどうでしたか?

小笠原:私は真逆で、3年間の会社員経験を経て保育士になったんです。そこで子どもたちと接したときに、現場が想像していた以上に課題があるなと感じて......。

―どんな課題ですか?

小笠原:マンションの何階に住んでいるかとか、車は何に乗っているかとか、塾はどこが偉いかなどの問いを、5歳児に初対面で聞かれたんです。それはすごくショックでしたね。まわりの大人だって悪気があって子どもたちに教えたわけではきっとないだろうし、もちろん子どもたちが悪いわけでもない。誰も責められないなって思って。

今の社会がそういう価値基準を決めているから、そういう発言が子どもたちから出てくるんだな、と。「じゃあ、私はどうしたらいいんだろう?」と考えたときに、そこで自分の中に「社会」というキーワードが出てきたんです。「社会を変えていきたい」と。

―社会を変革したい思いが共通していたのですね。おふたりはどのようにして出会われたのですか?

小笠原:共通の知人を介してです。私は「何とかしたい!」と思っていたけど、その「何とか」がまったく決まっていないまま動き始めていたところにその知人に会って、その場ですぐ小竹に電話をしてくださったんです。

小竹:私はそのとき、子ども時代がいかに大事かを伝える講演活動をしていたんですが、ひとりでの活動に限界を感じていた頃だったんです。もっと他のやり方ができないかなと思っていたんですよね。

小笠原:会ってすぐに意気投合。3時間後にはもう一緒にやることを決めていました。

―すごい!

小竹:保育業界の中で、こうして飛び出していく人って、今は少し出てきていますけど、当時(2010年)は全然いなかったんですよ。保育士で何かしようとしているということだけで共鳴しましたね。ゴールが一緒だったので、感動的でした。

保育園がなくても保育はできる

小笠原:そこから実際にやってみて、保育士のポテンシャルや可能性の広さに改めて気づきました。

保育園がなくても保育はできます。現在、こどもみらい探求社の自主事業として「おやこ保育園」を運営しています。親と保育士が一緒に子どもを観る保育園で、街全部が園庭なんです。

asobi基地」という子育てコミュニティを作った時、最初はカフェで活動していたんですが、人がたくさん来るようになって、じゃあ公園でやろうって。モノとか場所にとらわれなくても、いろんなことができるんだなという新しい気づきがありました。

―親が参加するというのも新しいですね。

「おやこ保育園」の様子(こどもみらい探求社提供)

小竹:午前中はこどもが遊びをとおして探求する様子を観察します。午後は、自分らしさってなんだろう? いい夫婦ってなんだろう? といった問いを親同士で対話し、自分なりの解決策を考え出せる機会をつくっています。深い話になるので、参加した方同士がどんどん仲良くなります。

小笠原:子育ての選択肢が「保育園に預ける/預けない」の2つに偏っていますが、それ以外の選択肢があっていいと思うのです。

子どもを自分の側において"子育て"も"仕事"もしたいという第三の選択肢を必要とする親達のために「こそだてビレッジ」という親子で集えるシェアオフィスのプロデュースもしています。

―保育士の社会的な地位向上についてはどうお考えですか?

小笠原:今すぐには難しいかもしれないけど、私たちが活動を広げていくことで、保育園以外の雇用が生まれて、助かる親が増えれば子どもたちもハッピーになる。そんな循環ができれば、結果的に保育士の地位って上がっていくんだと思います。

小竹:私は保育士自身がもっと自分たちの専門性や仕事の能力に対して自信や誇りを持ってほしいって思っています。保育士と話すと、よく「私、保育しかできないから」って言うんですけど、「いやいや、保育ができるってすごいことだよ!」って思うんです。

自分の力でその子らしく育っていくために

―今後の展望をお聞かせください。

小笠原:私たちの活動って、子どもたちに直接何かを教えようとするのではなく、自分の力でその子らしく育っていくために、まわりの土を良くするみたいなイメージなんです。土壌を作って、子どものいい芽を引き出すような取り組みを、これからもっと家族や企業と一緒にやっていきたいと思っています。

小笠原:いま、家族の在り方ってさまざまですよね。男性が育休を取得するとか、お母さんがどれくらい働くかとか......答えがないと思うんですよね。一言で夫婦と言っても、いろんな子育ての仕方や考え方があってそのバランスをそれぞれが考えていく時代なのかなって。その家族にあった生き方を、みんなで探求していきたい。試行錯誤しながらこれからもチャレンジしていければいいなって思います。

小竹:この先どんどん活動の幅を広げて、いろいろな人と組んでいきたいですね。会社として雇用してメンバーを増やすというよりは、プロジェクト単位で柔軟にやっていきたいと考えています。いろんな人たちと手をつなぐイメージですね。

家族は社会の最少単位だから、家族を大事にする時代が日本に来るといいなという単純な願いのもと、これからも活動していきます。それぞれの大事な人を大事にし合う 、そういう小さな社会がどんどん増えていけば、やがて社会全体も良いものになるに違いない、と信じて。

小笠原:ほんと、それに尽きますね。一番大事な人を大事にできなければ、自分自身が崩れてしまったりする。子どもたちは幼いながらに本当に大事なことを知っているし、それを大人たちに教えてくれています。

子どもたちが生きている世界を大人たちが大事にしていけたら、きっといろんな気付きがあって、いろんなことが変わっていく。それを伝えるための活動を広めていきたいです。

―ありがとうございました。

文:尾越まり恵 撮影:橋本直己 聞き手・編集:渡辺清美

注目記事