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2019年11月08日 07時02分 JST

「メディアは残るが、ニュースメディアは危機的」。BuzzFeed Japan創刊編集長を務めた古田大輔さんが警告

「PVの収入だけで規模の大きなニュースメディアを運営することは、そもそも不可能です」

ジャーナリストの古田大輔さんは朝日新聞の記者からニュースメディア「BuzzFeed日本版」創刊編集長に転身。3年あまり経った今年5月に退任した。

独立後は、メディア間のコラボレーションを加速させる活動を進めてきた。その背景には、ニュースメディアが存続する上での強い危機感があるという。

「ハフポスト日本版」のオフィスで、古田さんに話を聞いた。

KAZUHIRO SEKINE/HUFFPOST
古田大輔さん

 

■作り手の考えに固執していたことに気がついた

――そもそもですが、なぜ新聞社を離れてウェブメディアに移ったのでしょうか。

朝日新聞を辞めたのは2015年です。理由は色々あります。

もともと、日本社会の停滞の理由のひとつは、労働市場の流動性が少ないことにあると感じていました。企業間の壁をなくして、人の交流や知見の共有が進んだ方が、イノベーションが起きると思っていました。そんな意見を持っている人間が、ずっと1社で働いているって矛盾しているじゃないですか。だから、いずれは辞めなければいけないと思っていました。新入社員のあいさつでは「3年で辞めます」と言っていましたが、結局13年間、朝日新聞にいました。

仕事は面白かったし、やりがいはありました。ただ、みんなが情報を入手するプラットフォームは明らかにインターネットになっていました。欧米や東南アジアで進んでいるようなネットでの情報発信に比べて、日本は遅れていると感じていたんですよね。

朝日新聞での最後の2年半はデジタル編集部で、デジタル上でのコンテンツ発信をしていました。でも、当時の組織体制は紙にまず特化されていて、付け足しとしてのデジタル、という位置づけでした。もっとインターネットの力をフルに使ったような情報発信をやってみたい、という気持ちが強くなっていたとき、たまたま知り合ったのがBuzzFeedでした。

彼らに話を聞く中で、自分がまだまだ作り手側の考え方に固執していることに気がつきました。コンテンツを作ったらおしまいで、どう人に届けるか、受け取った人はどんな感情になり、どんな行動を取るのか、全然考えられていなかったと気づいたんです。次のステージに行くためには、外に出た方が良いと思いました。

もうひとつは、「ポジティブなインパクトを広げていこう」「自分たちのコンテンツで人と人をつなげていこう」という理念にも共感しました。

KAZUHIRO SEKINE/HUFFPOST
古田大輔さん

――今年5月にBuzzFeed日本版創刊編集長を退任しました。理由は何だったんでしょうか。

もともと、2020年くらいまでには離れると社内のみんなにも言っていました。それ以降は自分一人でやりたいことがありました。それが少し早まった感じです。

色々な理由がありますが、そのうちのひとつとしてあるのが、昨年、編集部を「ニュース」「動画」「オリジナル」の3グループに分けました。「オリジナル」は、ライフスタイルからエンターテインメントまで幅広いコンテンツを出すグループです。動画やオリジナルのグループは、コンテンツのマネタイズに関わります。例えば動画シリーズの販売、などです。

ただ、ニュースに関しては、ニュースがビジネスと密接になると、編集権の独立という一番センシティブな問題に関わってくる。ここは切り離すことを明確にして、それぞれのグループに3人のトップを立てました。

僕の立場は3人をさらに統括する立場でした。そうすると、創刊編集長として僕がどこまでマネタイズやビジネスに口を出すべきか、出さないべきか、とても難しく、センシティブな問題となります。3グループがきちんと動き始めた段階で、3人の編集長に引き継ぐことにしました。

■表現技法はデバイスとテクノロジーによってがらっと変わる

――新聞とウェブメディア両方を経験したことで、大きな違いはどこにあると思いましたか。

たくさんあります。情報発信は、デバイスやテクノロジーに規定されるんですよね。象形文字の時代から始まり、活版印刷ができ、製本技術が生まれ、大量生産ができるようになった。ラジオで一方的にマスに伝える技術が発達し、テレビが生まれ……というような流れがある。テクノロジーとデバイスの進化によって、表現方法は変わってきました。それを踏まえると、新聞紙で表現することと、インターネットで表現することは全然違います。

例えば、新聞記事は書ける行数が限られています。新聞で言う長行は、ネットでは短行です。ネットでは短い動画をはめこんだり、音声を入れたりできます。日本のメディアは表現技法が海外のスピードほどは発展していないと感じます。

あと、新聞社のように組織が統制されていて、チーム取材ができることは素晴らしい強みだと思います。だからこそ、政治部、経済部でがっちり分かれているから、野球のような戦い方になります。ファーストはファースト、セカンドはセカンドで、自分の担当分野はきっちり守ることができます。でも、新しい分野のボールが飛んできたとき、「え、どっちがやる?」みたいなことになりがちです。

ネットの世界では「はい、自分がやります」と言えば、やることもできる。本当は新聞社の方が経験を積んだ人が山ほどいるのに、時々するっとネットメディアに持って行かれるというのはそういう場合です。 

Fedor Kozyr via Getty Images
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■「メディア」は残るが、ニュースメディアは危機的

――退任後は、どんなことをしているんでしょうか。

色んな団体の活動に参加しています。例えば、「ONA Japan」(ジャーナリストやメディア関係者が集うデジタルジャーナリズム団体)のオーガナイザーをしています。その立場で、Googleが取り組むニュースメディアをサポートする活動「Googleニュースイニシアティブ」と協力して、イベントを開きました。日本中のメディアやフリーランスの人たちを集めて報道のイノベーションのためにみんなの知見を共有する会議のオーガナイザーをしました。

また、「インターネットメディア協会」の理事でもあるので、メディア全体がより健全な方向に向かっていくための議論に参加しています。

 

――ニュースメディアを取り巻く現状をどう見ていますか。

「メディア」は残りますが、「ニュースメディア」は危機的な状況です。理由は、収入の問題です。メディアと言っても、色んなメディアがあり、規模感も様々です。人は情報を必要としているから、絶対に生き残る。あと、個々のライターたちにとっては、色んな形で情報発信ができ、生き残りやすい時代になっています。

ニュースメディアはそういうわけにはいきません。ある程度の人数や資金力がないと、なかなか「突破する取材」は難しい。一方で、そういったものが必ずしも多くの人に読まれるわけではない。もしかしたら裁判沙汰になるかもしれないようなものに、喜んでスポンサーになる人はあまりいません。どう考えても、ニュースメディアはきつい。それは、日本だけではなく世界的にも同じです。世界中で生き残りをかけた真剣な議論をしています。

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古田大輔さん

――時間や人手をかけて深く取材した記事は、当然コストがかかります。しかし、必ずしもPV(ページビュー)という形では結果に表れません。収益を考えれば、PVを得ることは大事だと思います。ジャーナリズムとビジネスとの両立を、どのように整理していましたか。

「ニュースはジャーナリズムで、PVが取れない。エンターテインメントはPVが取れるもので、バズフィードはそこでバランスを取ろうとしていたのではないか」という誤解を受けがちでした。問題はそうシンプルではありません。

なぜなら、ニュースでもPVが取れるものもあれば、取れないものもある。エンターテインメントでも取れるものもあれば、取れないものもあるわけですよね。

新聞記者時代から、社会的に意義の高いニュースを深く取材し、世の中に知られていない新たな事実や切り口を提示しなくてはいけない、という思いはあります。確かにそういうものって、かけたコストに見合うだけの結果、PVだけに限らず、インパクトを得られるとは限らないですよね。びっくりするくらい、全然読まれないこともある。PVは、たくさん取れたとしてもそれほど大きな収入にはならない。PVばかりにこだわっていると、そもそも組織運営ってできないんですよね。

最近、メディアのコンサルタントをしていて、新聞社の方から相談を受けることがあります。PVを気にしていますよね。データを気にすることは大事ですが、そこにとどまっていたらだめだと思います。それで新聞社が稼げるでしょうか。PVの収入だけで規模の大きなニュースメディアを運営することは、そもそも不可能です。そうではないビジネスモデルを築くことに議論を移さなければいけません。

Tero Vesalainen via Getty Images
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――そうした考えを記者個人にどのように落とし込み、組織の中に浸透させれば良いのでしょうか。

正直言って、そこは本当に難しいと思っています。どんな組織設計をすると一番良いのか、色々なメディアに話を聞いています。

データは読者との対話だと思っています。データを通じてどういう人がどんな記事に興味を持ってくれたかを知る指標なんですね。気にすることは大切だけど、変な方向に行ってはいけない。データは読者との対話だということを、常に言い続けるということではないかなといまは思っています。きれいごとかもしれないけど、きれいごとを毎日言うことが大切なんじゃないかなと思います。

 

■どこか1社だけ生き残れば良い、という話ではない

――直近まで身を置いていたウェブの世界だけでなく、ニュースメディア全体を盛り上げていかなければならないと思ったのはなぜでしょうか。

人が生きていく上で、世の中で起こっていることを知ることは、とても大切だと思っています。民主主義社会において、選挙によって国の方向性は決まっていくわけですよね。国民全員が、と言うのは難しいとしても、一定の数の人たちが世の中で起こっていることに関心を持ち、「この人に託した方が良い」という人に投票して、国は動いていくじゃないですか。だとしたら、世の中で何が起きているか伝えるニュースメディアやジャーナリズムはめちゃくちゃ重要だと思います。民主主義の要だと思います。新聞、テレビ、ラジオ、ネット。どこかの業界、どこかの一社だけ、誰か一人だけが生き残れば良いという話ではないです。 

KAZUHIRO SEKINE/HUFFPOST
古田大輔さん

――活動を始めてみて、どんな手応えを感じましたか。

改めて思うのは、みんな悩んでいるし苦しんでいる、ということです。まだ正解が見つかっていないので、悩んで苦しんでいるのは当たり前なんですよね。

例えば新聞社で言うと、紙からの収入は明らかに落ちていて、それ以外の収入をあげなくてはいけません。ただ、デジタルからの収入って、比較的成功しているところでも割合はまだまだ少ない。

地方紙だと、より深刻です。何から手を付けたら良いかわからない状況で、紙からの収入は毎年減っています。デジタルをやらなければいけないことはわかっている、でも、デジタルでは紙ほどは稼げないこともわかっている。その中で現状の収入の主流である紙からどれだけデジタルに人を振り向けるかというのは、高度な経営判断となります。難しいからと言って何もしなかったら、どんどん体力が削られてしまいます。

僕がすぐに答えを見つけ出せるわけではないかもしれませんが、外部の人間だから気づくことを指摘したり、議論を整理したりすることを一緒にサポートできたらいいなと思います。

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山口絵理子さんの著書名「Thirdway(第3の道)」というメッセージは、ハフポスト日本版が大切にしてきた理念と大変よく似ています。

これまで私たちは様々な人、企業、団体、世の中の出来事を取材してきました。多くの場合、そこには「対立」や「迷い」がありました。両方の立場や、いくつかの可能性を取材しつつ、どちらかに偏るわけでもなく、中途半端に妥協するわけでもなく、本気になって「新しい答え(道)」を探す。時には取材先の方と一緒に考えてきました。

ハフポストは「#私のThirdWay」という企画で、第3の道を歩もうとしている人や企業を取材します。ときどき本の抜粋を紹介したり、読者から寄せられた感想を掲載したりします。