ウーマン村本大輔、アメリカ進出を宣言 日本のお笑いに「限界」を感じた理由

「どうもこの国のお笑いは、多種多様じゃない感じがする」
ウーマンラッシュアワー・村本大輔
ウーマンラッシュアワー・村本大輔
撮影:西田香織

お笑いコンビ、ウーマンラッシュアワーの村本大輔が、日本の芸能界を飛び出し、アメリカでデビューすることを準備している。2020年度中の渡米を目指し、相方の中川パラダイスや吉本興業と話し合いを進めている。

アメリカで挑戦するのは、舞台の上に立ちながら、一人喋りで笑わせる「スタンドアップコメディ」。タブーを恐れず時事ネタをまくし立てる、日本での村本の芸風が生かせるスタイルだ。

「僕がやっていることは『お笑いじゃない』とか『活動家だ』とか、よく言われます。でも、どうも日本のお笑いは多種多様じゃない感じがする。いろんなお笑いがあっていいはずなんですよ。それを探しにいきたい」と村本は言う。

なぜアメリカに挑戦するのか。“異端”扱いされても、嫌われても、なぜ、彼は喋ることをやめないのか。そして、日本のお笑いのどこに限界を感じたのか。思いを聞いた。

「安倍政権」とか口にしたら、客がバーっと引いていく

《インタビューは、1月某日、新宿にある「ルミネtheよしもと」の控え室で行われた。

出番を終えたウーマンラッシュアワーは、吉本興業の闇営業問題や、安倍晋三首相主催の「桜を見る会」をめぐる問題を盛り込んだネタをステージで披露したばかりだった。

自虐と社会風刺を混ぜたトークは、観客の爆笑をかっさらったが、出演者の中でも群を抜いて際立っていた。アメリカの話を聞こうと思ったが、村本は終えたばかりの舞台について、マシンガンのように話し始めた。》

(村本)今日も「桜を見る会」のネタをやりましたけど、僕はそれをやってる方がすごくスリリングで、いいなと思うんです。

パッと見たらわかるんですけど、お笑いを見に来てくれる人は女の人が多くて。やっぱり、社会問題に触れた途端に生理的に引いてしまう、みたいな反応が返ってくるわけですよ。

「公文書」って口にしたら、おっさんはニヤニヤするのに対して、若い女性はこのワード1個で嫌悪感というか。ちょっと引いてしまう、みたいな感覚があるんです。

「安倍政権」とか口にしたらもっと引く。でも、気にせず沖縄の基地問題なんかの話を喋りますよね。そうすると、もうバーって引いていくわけですよ。

そうやって、引いて引いて引いていった先にドーンと笑いを取った時の跳ね返り方が、僕は興奮するわけです。

そもそも、なぜお笑いで「政治」の話をするのか

《コンビの政治ネタが一躍注目を集めるようになったのは、2017年ごろだ。年末特番『THE MANZAI』で沖縄の米軍基地問題を風刺するネタを披露し、視聴者に強烈なインパクトを残した。

村本自身は、もともと政治への関心は低かったという。

情報バラエティー番組『ワイドナショー』に出たい一心で勉強を始め、AbemaTVのニュース番組『AbemaPrime』でレギュラーを務めるうち、政治の話を積極的にするようになった。》

僕はもともとサッカー選手になりたかったんですけど、実力がなかったから17歳くらいの時に諦めて。福井の田舎で、テレビでお笑いを見ながら、「あの中に行きたい」と思って芸人を目指しました。そこを目指して大阪に行って、漫才をやりつづけて、テレビにも出るようになった。

その中で、年をとっていくにつれてどんどん人との繋がりが増えて、沖縄に行って米軍基地の話をしたり、福島に行ったりするようにもなって。自分が求めたのか引き寄せたのかはわからないんですけど。

そうすると、自分の中で『言いたいこと』が出てくるんですよ。そして、僕はやっぱりそれを笑いで伝えたいと思った。

お笑いやる時に思ってもいないことを喋るのが昔から苦手だったし、1度の出番で10分くらいしか喋れないんだから、ほんなら全部言いたいことを言おうと。

「野球選手になりたいと思っている。ちょっとやってみてくれ」みたいに、コンビで架空の設定をもとに笑いを進めていくものはやりたくないと思ったわけです。野球選手になりたいとは思ってないし、舞台で嘘をついてもしょうがないと。それが政治の話をしている理由です。

2021年に渡米へ スタンドアップコメディに挑むわけ

村本大輔さんマネージャー提供

《そんな村本が注目しているのが、アメリカのスタンドアップコメディだ。コメディアンが1人でマイクの前に立ち、話術のみで笑いを取るアメリカで主流のジャンルのこと。

政治や宗教、人種差別、性、時事問題などタブー視される題材を扱い、内容は日本のお笑いと比べると“過激”だ。

村本は、本場のスタンドアップコメディに挑戦するため、2021年春を目標にアメリカ進出を目指すという。

2021年の1月から3月くらいに、ニューヨークかロスに行きたいと思ってます。スタンドアップでマイクを持って喋ることに挑戦したい。

スタンドアップとの出会いは…日本でたまたま僕らの漫才を見た外国人が、「ジョージ・カーリンを思い出した」ってTwitterに書いてて、「誰だろう」と気になりました。アメリカのコメディの創始者、レジェンドみたいな人なんですけど。

それから、彼について知って、その後も海外のコメディアンを調べたりドキュメンタリーを見たりして、「(日本のお笑いと)全然違うやんけ」って衝撃を受けたんですよ。

「全然違う」と言っても、どっちがいいか悪いか、じゃないですよ。「違う」んです。それで、僕はどっちかって言ったら「こっち(アメリカ)の方が面白い」と思ったわけです。

面白いと思う方に飛び込んでみたいから、アメリカに行きたいんです。

日本の芸人といったら、売れるとどうしても漫才やネタをつくることから離れてしまって、テレビのタレントになってしまう感じがありますよね。でも、テレビ局がつくった「笑い屋」の笑いに囲まれてたら、テレビの外側、お茶の間の声なんて聞こえるわけがない。

海外の芸人は、「生の笑い声がなかったら、俺が俺でなくなる」というようなことを言うんですよ。それで、たった1人で数万人の客を集める。海外の芸人からコメディアンの姿勢を感じたんです。

たとえば、ホワイトハウスの晩餐会にミシェル・ウルフという女芸人が呼ばれて、そこで彼女はトランプ大統領をディスりまくるわけですよ。ブーイングが起きて、トランプが「もう二度と芸人は出さない」って怒るくらい。

当時、ミシェル・ウルフはトランプ政権擁護派の人たちから叩かれまくった。あれはやりすぎだと。今まではある程度ジョークで笑いにしてたけど、グイグイいきすぎてるんじゃないか、みたいに。

でもミシェル・ウルフは、そこで謝罪するんじゃなくて、「本当、臆病な大統領ね」みたいなことを言うんです。

そういう姿勢です。コメディを用いて、社会、世界、政治を監視してる感じがする。あと、本質的で、構造的な話をする。表面的にニュースを茶化すんじゃなくて、構造から説明して、理不尽なところを鋭く突くんです。

僕はその姿勢が大事だと思うし、興味があるんです。

桜を見る会は、もう、真逆じゃないですか。芸人は太鼓持ちであそこに行っている。安倍さんがどんな人で、いま何をしているかということは、多分そこまで自覚していない。ただのアイコンなんですよね。「総理大臣」という有名人。その人とただ写真を撮りたいだけなんですよ。

そこに安倍政権の支持者がきて、「芸能人を呼べる安倍さんはすごい」と彼らは思う。芸能人が「総理大臣」というアイコンに集まって、「芸能人」というアイコンに支持者が集まっている構図ですよね。そこに実がないような気がするんです。

「どうもこの国のお笑いは、多種多様じゃない感じがする」

《芸人としての村本大輔の存在は、異彩を放っている。

言論人と積極的に会話し、Twitterでも、沖縄や原発、憲法、韓国、北朝鮮などの問題について、歯に衣着せない発信をつづける。最近では、「大麻合法化」を唱えたツイートが凄まじい批判を巻き起こした。

村本の主張に強く反論する人もいる。「お笑いに政治を持ち込むな」と怒ったり、「これはお笑いじゃない」と不快感をもって切り捨てたりする人もいる。

あるいは、「見てはいけないものを見てしまった」かのように、ざわざわとした気持ちにさせられる人もいるかもしれない。》

2019年のM-1グランプリの後も「誰も傷つけないお笑いブーム」とか言われましたけど、それってコンビニで売ってる清涼飲料水とか、バファリンみたいな安全な薬のようなもので。

でも、ちょっと人を傷つけるお笑いというのは、僕は必要だなと思っているんです。僕がやりたいのは副作用がある「劇薬」みたいな笑いで、人を傷つけてしまう可能性があるけど、だからこそ効く、みたいな笑いです。

ミルクボーイのようなお笑いも、もちろん、面白い。

僕が言いたいのは、いろんなお笑いがあっていい、ということなんですよ。ミルクボーイのようなお笑いがあっていいし、その他、いろんなお笑いがあっていいはずなんです。

それなのに、どうもこの国のお笑いは1本すぎる感じがして。多種多様じゃない感じがする。アメリカなんかすげえ馬鹿馬鹿しいものもあれば、それこそ痛烈なメッセージもあって、様々あるわけですよ。でも、日本は「お笑いとはこうだ」という決めつけが強すぎる。

ちょっと違うことをやると、いろんな名前を付けられます。「あれはお笑いじゃない」とか、「あれは活動家だ」とか。アメリカだとトップカルチャーなものが、こっちだったらお笑いじゃない扱いをされるわけですよ。独演会のチケットはいつも完売で、いっぱい人が来て、笑ってる人がいるのに…。

こういうことを言うと、「そんなに日本が嫌いだったら…」という発想になると思うんですけど、そうじゃなくて。「違いは面白い」って言ってるんですよ。

「僕は、誰かを楽に、生きやすくしてる感じがする」

《扱うネタの内容ゆえか、村本の姿をテレビで見ることは少なくなった。

しかし、日本各地で開かれる独演会の反響は好調だ。原発問題で揺れる福島や、熊本などの被災地、沖縄、韓国、朝鮮学校。これまで、様々な場所で独演会と呼ばれる一人でのお笑いライブを開いてきた。

3月上旬には、東京と大阪で「渡米までラスト1年」と題した『大独演会』を開催する。》

この前、弟に言われたんです。「お兄ちゃんの独演会にくる人って“病んでる”人ばっかりでしょ」って。

いやいや、病んでることって、ある種、いいことで。

病んでるってことは、「知ってる」ってことですよ。何かを知って、感じて、考えてる。税金こんなに払ってるのに福利厚生に使われず、オリンピックに使われるんだ。まだ被災地に仮設住宅もあるけど、それでもオリンピックやるんですか、とかね。

被災地とか沖縄とか、差別とか、いろんな問題を知ってるからこそ、病むんですよ。一生懸命知って、真面目に考えようとしてるからこそ病むわけで。「病んでる」ってことは僕にとっては、すごい褒め言葉です。

病んでるからこそ、劇薬のような笑いを脳天にぶち込みたいんです。そうしたら、感じたことないような、湧き上がるような笑いが、ブワッとくるわけですよ。

独演会が終わったあと、おっさんが「原発とか、みんなが社会の中で向き合っていることだから笑える。よく言ってくれた」って声をかけてくれるんです。その時に「必要とされてるな」と感じられる。

この前は、独演会に在日コリアンのお母さんたちが5人くらい来てくれて、「ハーイ」って手をあげて自分たちは在日コリアンだと言うんですよ。他の場所だったら言えないことでも、僕の前だったら言いやすいのかな。

そういう空気や空間を作ることで、僕は誰かを楽に、生きやすくしてる感じがしていて。エゴですけれども。そのときに、お笑いとしての役目を果たしているというか、小さな行動にはなってるかなと思うんです。

《筆者も都内の公演に足を運んだことがあるが、客との距離感が近く、会場の熱量に驚かされた。

現地の生の声を聞き、感じた率直な思いを笑いに昇華する。

“お笑い界の異端児”と称されようとも、嫌われようとも、「言いたいことを言う」を信念に芸を追求する村本の姿勢は、極めてまっすぐで誠実だ。》

「スタンドアップコメディがやりたい」と宣言していますけど、1番の目標は自分自身のアップデートというか、変化がほしいんです。

僕は中学、高校と芸人になれるわけないやつだった。

吉本の養成所に入った時も、ずっとすべり続けて。勉強も全くできない、知識もない、スポーツもできない。ただ、そんな僕でも「THE MANZAI」という大会で千鳥やNON STYLEに勝って、日本一になれた。

やりたいことをやっていたら、坂本龍一さんが声掛けてくれて、ラジオに出てくれと呼んでくれて、「大晦日に一緒に飯食おう」と誘ってくれた。坂本さんと奥さんと3人で飯食って、すごく話が楽しかったわけです。

だから、なんと言うか、ニワトリが空飛べたんだから、下手したら宇宙行けんじゃないかみたいな。夢がまた出てきたみたいな、そんな感じです。

自分自身がどう変化するのか。そのための手段が、たまたまスタンドアップコメディだっただけ。スタンドアップコメディっていう正義が自分の中にはあって、自分が何者かになるために、夢叶えるためにやってみたい、そういうことです。

(聞き手:毛谷村真木生田綾 撮影:西田香織)

ウーマンラッシュアワー / 村本大輔

村本大輔と中川パラダイスにより、 2008年9月に結成。2013年、『THE MANZAI』優勝。劇場を主な活動の場にするほか、村本さんは積極的に全国で独演会を開催。3月に「ウーマンラッシュアワー村本の独演~おれは小刻みに震える中指を社会に強く突きつける~in渡米までラスト1年、大独演会」を東京は日本青年館ホール、大阪はなんばグランド花月で開催。

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