炬燵と床暖房で考える法人実効税率―日本全体を暖める方法は何か?

久しぶりに炬燵でミカンを食べていると、祖父の家を思い出すとともに法人実効税率を連想した。

朝夕の冷え込みは続いているが、寒さは峠を越えたのではないだろうか。街を歩けば、花粉症と思しきマスク姿が増えてきている(筆者もその一人である)。

関東地方にも雪が舞った今月初旬に知人の家を訪ねたら、居間に掘り炬燵があり非常に懐かしく感じた。子どもの頃を振り返ると、暖房の主役は炬燵や石油ストーブだったが、いつの間にかエアコンや床暖房に代わったように思う。

我が家の主な暖房は床暖房なので、久しぶりに炬燵でミカンを食べていると、祖父の家を思い出すとともに法人実効税率を連想した。

専門分野ではないので聞きかじりではあるが、少し暖房について述べたい。

暖房の方法は、大きく分けて全体暖房と部分暖房の2種類がある。全体暖房とは、床暖房やエアコン、ファンヒーターなどにより部屋全体を暖める方法である。部屋だけでなく家全体を暖めるセントラルヒーティングも、全体暖房である。また、石造りなどの断熱性能の高い住居が多い欧米では、暖炉などによる全体暖房が主流となっている。デメリットは速暖性が低いことなどである。

部分暖房とは、先に挙げた炬燵のほか、電気ストーブやホットカーペットなどで、人の体を直接温める方法である。旧来の日本家屋は断熱性能が高くなかったため、全体暖房ではなく部分暖房が主流であった。時代劇で見る火鉢に手をかざすシーンを思い出せばよいだろう。

部分暖房が中心であった日本の暖房方法は、住環境の変化により全体暖房が増えてきている。新に供給される住宅の多くは、従来よりも断熱性能の優れた鉄筋コンクリートのマンションや戸建住宅である。これが、日本において全体暖房が普及してきた一因だろう。前提条件の違いが、暖房方法の変化をもたらした。

日本は、長く続いた景気低迷とデフレの厳しい状況から、ようやく脱しようとしている。先日発表された10-12月期の実質GDPは、+2.2%(前期比年率)と3四半期ぶりのプラスとなった。また、好調な株価が示すように、大企業・輸出企業を中心に企業業績の拡大傾向も続いている。

このように、大きな流れでは経済成長しているものの、その足取りは緩やかで、また全国に十分に波及しているとは言い難いだろう。

炬燵の中で連想した法人実効税率は、来年度からの引き下げが見込まれる。これは、経済成長の温もりを日本全国に全体暖房のように拡げる方法の一つではないだろうか。

今回の法人実効税率の引き下げは、研究開発減税や設備投資減税などの租税特別措置の見直し、外形標準課税の拡大、繰越欠損金の控除の見直しなどの代替財源はあるものの、実質減税が先行する。

暖房に例えるなら、研究開発減税や設備投資減税は温もりが実感できる業種などが限られる部分暖房と考えられないか。

これを見直して、法人実効税率の引き下げという全体暖房に切り替えるとイメージする。セントラルヒーティングの光熱費を全利用者で均すように、法人実効税率の引き下げという全体暖房の費用を、外形標準課税の拡大により多くの法人で賄うイメージではどうか。

以下の図表で日本の産業別の就業者の割合を見ると、製造業や建設業などの就業者の割合が低下する一方で、医療・福祉などの割合が上昇している。時代の要請や環境変化、技術革新などによる産業構造の変化の影響を受けている。このような変化のスピードは年々早まっており、租税特別措置のような方法での適時適切な対応は容易でなかろう。

それよりも、法人実効税率の引き下げの方が、(1)企業収益の増加、(2)増収の恩恵を賃金により従業員に還元、(3)消費が拡大して企業業績が更に伸びる ― との景気の好循環を生み出し、全体暖房のように機能して経済成長による温もりを全国に波及させる効果が期待できるのではないか。

但し、法人実効税率を引き下げるだけで全てが上手くいく訳ではない。日本の住宅の場合を振り返ると、全体暖房の普及の要因の一つは断熱性能の高い住宅が増えたこと、つまり環境の変化に強い構造となることが全体暖房を導入する前提であった。

同じことは、日本経済についても言える。アベノミクスの第1の矢(大胆な金融政策)、第2の矢(機動的な財政政策)に頼ることは限界に達しつつある。強い経済構造となれるかは、第3の矢(民間投資を喚起する成長戦略)が鍵である。

法人実効税率の引き下げ、農協改革、TPPなどは進みつつあるが、地方創生や雇用などの岩盤規制の改革、女性活躍の推進、ガバナンスの向上などの多くの課題が残されている。いずれも効果が表れるまでに時間がかかるため、着実な進展が必要である。

断熱性能が低いままで安易に炬燵から床暖房に代えると、体も心も冷えてミカンどころではない。床暖房で心地よく冬を過ごすには、相応の準備が必須だ。

(2015年2月18日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 主任研究員

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