表現のこれから
2019年11月01日 14時59分 JST | 更新 2019年11月01日 16時14分 JST

是枝監督「公益と国益は区別して考えるべき」。補助金不交付を受けて独立映画鍋が緊急集会を開催。

あいちトリエンナーレ補助金不交付問題を受けて、映画人らも緊急集会を開催。

HIROKO YUASA/HUFFPOST
NPO法人独立映画鍋は「【緊急集会】なぜ芸術に公的支援は必要か?みんなで考えるニッポンの文化〜あいちトリエンナーレ補助金不交付問題を受けて~」を開催。土屋豊監督(左)、深田晃司監督(右)。

10月23日(水)、主に映画制作の関係者らで構成されるNPO法人独立映画鍋は「【緊急集会】なぜ芸術に公的支援は必要か?みんなで考えるニッポンの文化〜あいちトリエンナーレ補助金不交付問題を受けて~」を開催。是枝裕和監督、諏訪敦彦監督をはじめとする映画関係者らが下北沢アレイホールに集まった。

NPO法人独立映画鍋は、映画を通じて、すべての人が世界の多様性に触れられる、民主的な社会の実現を目指して活動している団体だ。

文化庁が9月26日に決定した「あいちトリエンナーレ2019」への補助金不交付を受けて、NPO法人独立映画鍋は10月10日、文化庁に対して抗議声明を出している。

集会の冒頭で、独立映画鍋の代表理事・土屋豊監督は、「抗議声明の文面を考える過程で、映画に関わる人たちの声があまり出てこなかった。映画に関わる人たちは率直にどう考えているのか?SNSではなく生の声を聞きたい」と開催趣旨を説明した。

これを受けて参加者たちは、「芸術に税金を使うということはどういうことなのか?」「表現の自由と検閲」「公益性とは?」「今後の文化庁との向き合い方」などのテーマについて議論を重ねた。

芸術に税金は使われるべきか?

独立映画鍋の共同代表・深田晃司監督は、「芸術は自分の金でやれ」という声がネットなどで上がっていることに対して、「自腹でやればいいとなった時にそれができる人は限られている。文化の多様性を守る上では障壁となる考え方だ。一般の人からそういう意見が出るのはまだわかるが、文化芸術に携わる人たちからもそういう意見が出ている。そこまで戻って話さなければいけないのかという気持ち」と述べた。

また、ゴッホの作品が、死後に評価された例を出し、「芸術文化の価値は、その時の市場原理の評価だけでは測りきれないものがある」とし、芸術に公的な補助金が投下されることの意義を説明した。

自主映画を制作しているという参加者からは、「映画にお金が必要なのは当たり前。返済する必要のないお金があれば、色々なジャンルの映画が作れる」との考えも出たが、土屋監督は「『必要だから税金で賄う』では、映画に興味のない納税者は説得できないと思う」と述べた。

土屋監督によると、実際に文化庁の関係者からは、「もっと映画人たちから納税者に対して説得力のある説明や言葉がほしい」との声もあがっているといい、「文化庁も我々も、もっと納税者に対して説明をしていく努力が必要だと思う」と話した。

他にも参加者からは、「芸術に対して国民の関心を十分に集められていないと思う」といった声や「そもそも芸術家は国にとって良いものなのか。独裁国家からすれば邪魔なはず。日本はどうなのか?」などといった疑問も寄せられた。

芸術に公的な補助金が出されることについて、出席した是枝裕和監督は、次のように語った。

Mondadori Portfolio via Getty Images
Kore-eda Hirokazu at Rome Film Fest 2019. Rome (Italy), October 19th, 2019 (photo by Marilla Sicilia/Archivio Marilla Sicilia/Mondadori Portfolio via Getty Images)

問題なのは、公益と言われているものと、国益と言われているもの、その区別が付いていないということ。本来、文化を巡って語られる公益というのは、公共の福祉に繋がっていくもので、社会を豊かにしていくもの。でも、文化庁が使おうとしている公益というのは、法の秩序という言葉と同義になってしまっている。

そうすると、国益に反する人間に公的な助成が出るのはいかがなものかという意見が出てくる。国益と公益が区別できない人にとってそれは当然の意見となる。ここ20年で、公共・公益という言葉の価値が、全部国益に回収されてきている。それは映画だけではなくて教育でもそうだし、文化全体も、価値観が一元化されてきている。そういう流れの中で、今回のあいちトリエンナーレの問題が起きたんじゃないかという認識でいる」

また、「もちろん作り手に対する助成は必要だと思うが、フランスで聞いた話では、高校生たちが映画を見る時に国からお小遣いが出る。見る側の環境を充実させていくために税金を使えば、公益性について反対する人は少ないと思う。そういうことも大切なのかもしれない」と話した。

身の危険がある状況で、どう「表現の自由」を守っていくべきか

現在上映している映画『解放区』の太田信吾監督は、大阪・西成の街を舞台にした同作品を巡り、「大阪市の助成金を受けながら制作したものの、上映する段階になって修正指示が来て、最終的には助成金を返還することを選択した」という自らの経験を語った。

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緊急集会に参加した映画『解放区』の太田信吾監督

「大きくあげると、覚せい剤の描写や西成という街が特定されるところ、統合失調症という病気であるとか、『どん底』というセリフなど、差別を助長するということで、10箇所くらい修正指示が来ました」 

集会には、あいちトリエンナーレでキュレーターを務めた相馬千秋さんもスカイプで参加。 

「公共の文化事業における検閲については、身をもって体験している」という相馬さんは、太田監督の事例について「表現することで差別を助長するという論理だと思うが、それは内容的な検閲になる」と話した。

また、「あいちトリエンナーレでは、日本でいう”検閲”と、海外アーティストの捉えている”検閲”という言葉にはズレがあった」という。

「あいちトリエンナーレでは、大村さんや津田さんが『リスクマネジメントとして中止した』という趣旨の説明をしているが、ボイコットした海外アーティストたちは、リスクマネジメントをすること自体が検閲だと考えている。だから全く納得してくれなかった。

ここが今後考えるべきポイントではないかと思う。確かに身の危険を感じる状況ではあった。そういう中でも表現の自由を守らなければならないとなった時に、どういうプライオリティで実施していくのか。今後問われていくと思います

ドキュメンタリーのプロデューサーとして活動しているという参加者は、日本と海外の検閲の状況について話した。

「アジア人の映画人が集まってまず何を話すかというと、検閲の話。マレーシアもシンガポールも韓国も中国も検閲がある。一方で助成金もある。日本は自己検閲。日本では、政府から『これ以上は上映するな』と言われることはない。助成金のあるなしと、検閲があるなしは、別の問題」

また別の参加者からは、「日本は検閲自体はあまりないと思っている。過去に漫画の中に警視庁のワンカットを入れたら削ってと言われたことがあるが、最終的には交渉することで入れることができた。結局は上を見て勝手に動いている人たちがいるだけなんじゃないか」との意見も出た。

社会の文化芸術に対する理解は?

議論は、文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(以下、芸文振)が、本年度の助成金支援を決めていた映画『宮本から君へ』について、7月に交付内定を取り消していた問題にも及んだ。

深田監督は、「『宮本から君へ』については、あいちトリエンナーレとは別の文脈で考えた方がいい。文化庁がやめろと口出しをしたのではなくて、文化庁の所管で独立した機関である芸文振が決定したことが深刻な問題だと思う。なぜ国から独立しているはずの機関が国の立場を慮らないといけないのか?」と疑問を呈した。

東京芸術大学で教授を務める諏訪敦彦監督は、あいちトリエンナーレと『宮本から君へ』を巡る問題について以下のように語った。

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緊急集会に参加した諏訪敦彦監督

「これは教育の問題だと思う。社会の文化芸術に対する理解について、僕たちがこれまでかんでこなかった。

特にあいちトリエンナーレでは、『天皇を侮辱するのがアートなんですか?』『こんなのにお金を出すんですか?』という意見が出たが、それは同調しますよね。いくら『いや、これは表現の自由ですよ』と言ってまともに議論をしても、出口はない。『不快だ』ということにどう対抗するのか?むしろ『だから助成金が必要なんだ』ということが前提として共有できていなかった。

″快”か”不快”か?というのは、アートかどうか?とは別の価値基準。一見筋が通っているように見えるが、アートに対する理解は全くできていない」

また、舞台に携わっているという参加者は、「一番の脅威は、芸術活動への無関心だと思う」とした上で、「直接的に好んで芸術を見るということだけではなくて、こういう芸術活動が社会にあるということを、みんながどう捉えるか、肯定的に捉えていけるか、そこの価値を高めていく必要があると思う」と意見を述べた。

独立映画鍋は、11月4日に文化庁が開催するシンポジウム「国際共同制作の今を語る」で企画協力をしている。

独立映画鍋の共同代表・深田晃司監督は、今後も文化庁と協力していく方針を明らかにした。

「まず抗議声明を出すか出さないかで議論があった。出すことによって文化庁との関係が絶たれるのではないか?、11月4日のシンポジウムもボイコットした方が良いのではないか?という意見もあった。でも、対話の道は閉ざすべきではない。協力してやっていきたい」

代表理事・土屋豊監督は、「映画鍋としては、今後も文化庁とは繋がっていたい。映画鍋が現場の声を伝える役割を果たしたい。逆に文化庁の声も現場に伝えていきたい」と話した。