学校では教えてくれなかった「英語を読むコツ」 this+名詞に注目すると、こんなに見方が変わる

毎朝のサバイバル英文読解 その3

学生の頃と違って忙しい社会人の皆さんにとって、英語を読むことは「目的」ではなく「手段」ではないでしょうか。英文から有益な情報を引き出すための手段として英語に接するのならば、学生のときのように単語をコツコツ覚えて1文1文精読するのではなく、ある程度の単語力で英文の意図を効率的に把握する力が必要です。

難しいことに思えるかもしれませんが、じつはちょっとしたコツを知っているだけで、皆さんの英文読解力は劇的に向上します。そのコツとは「英語の文章の定石を知る」ということ。定石ですから、急場しのぎではなく、一生使えるツールです。学校では教えてくれなかった、でもとても重要な「英語を読むコツ」を、実際に問題を解いてもらいながらお教えしましょう。

【問題】

Q 1文目の内容がまったくわからないとき、どの部分を手がかりにすれば、この文の意味をつかめるでしょうか。

I was complimented on the trueness of my ear. This praise made me very happy.

【解説】

「まとめ」のサインがわかれば話の流れを逃さない!

英文を読んでいる途中にわからない箇所が出てきて流れを見失ってしまったとき、真面目な人ほどはじめからもう一度読み返してしまいがちです。繰り返し読めばなんとなく内容がわかってくることもあるかもしれませんが、残念ながら時間がかかりすぎます。

しかし、わからない表現や意味の取りづらい段落に遭遇したとき、その部分をリカバリーしながら、着実に文章の意図をつかむコツがあるのです。

そのコツとして今回注目したいのは、「文章がまとめに入るサイン」です。「ここからがまとめだ!」と判断できれば、前段の内容がわかりづらいときや、話の筋を見失ってしまったとき、まとめ部分を重点的に読むことで、前段の内容を推測することができます。このまとめさえ見抜ければ、それまでの部分をある意味無視することさえできるのです。

では、そのサインとは何か。

今回の英文の中でも使われているのですが、おわかりになったでしょうか。

ではさっそく答え合わせをしていきましょう。

ここで使われているのは、「this+名詞」という形です。聞いたことがある、という人は少ないかもしれませんが、this+名詞とは「それまでの内容のまとめに入るサイン」です。主に何かの説明をしているとき、次の話題を展開する前に、そこまでの内容を一旦整理するためにthis+名詞が使われることが実に多いのです。ですからThisの後ろにくる名詞は、それまでの内容を1語にギュッと凝縮したものが使われます。

this+名詞に注目すると、こんなに見方が変わる!

英文を見ていきましょう。

1文目のcomplimentedというのはなかなか難しい単語です。この部分がわからない場合、手かがりは後半のtrueness of my ear(私の耳の正確さ)しかありません。しかもこの文では前後の文脈がわからないので、この部分さえ今ひとつはっきりしません。

そこで、次の文のthis+名詞に注目してみます。This+名詞は「それまでの内容のまとめ」になるわけですから、ここにthis praise(この賞賛、この褒め言葉)があるということは、1文目は必ず「褒められた」という内容になります。そう考えると、前文にmy earとあるので、何かしら「自分の耳について褒められた」のだろうとわかります。ですからこの英文は、「私は耳の正確さを褒めてもらった。この褒め言葉でとても嬉しくなった」という意味です。

従来の考え方では、1文目の意味がとれないのは「語彙力不足」の一言で片付けられてしまっていたかもしれません。それはそれでひとつの改善点ですが、いざ英文を目の前にしたときに、自分の語彙力不足を嘆いても何ひとつ解決しません。その場で即座に理解を要求されるビジネスの場面や英語の資格試験であればなおさらでしょう。そんなときに実践的な解決の糸口を与えてくれるのが、this+名詞なのです。

ちなみに、英語にはなぜこうした定石があるのでしょうか。complimentとpraiseは似た意味なのですから、今回の英文もI was complimented~という文のあとに、This compliment made me happy. としたほうがシンプルなようにも思えます。

しかし、ネイティブにとっては、それでは「芸がない」わけですね。英語ネイティブは、とくに長文になればなるほど、同じ単語を何度も使うのではなく、別の言葉に置き換えていくという発想があります。I was complimentedを使ったあとに、This praiseを使うことこそ、知的なネイティブの言語感覚なのです。

読んでいるうちに前の内容を忘れてしまわないためにも有効

this+名詞は「何かしらの説明をした後で、さらにその話を展開していきたいときに使われる」と説明しました。これはつまり、一旦話をまとめて、「ここまでの話はこういうことでした。次の展開に進んでもいいでしょうか?」という意味合いを持つ、ということです。

ですから私たちは、その書き手の呼吸に合わせるかのように、ここで頭を整理して、次の展開に備える必要があります。今回の文ひとつとってみても、1文目で「耳が褒められた」という「事実」をあげて、2文目で「その褒められたことで、私はとても嬉しかった」という「感情」の説明へと展開しています。

英語を勉強している方のよくある悩みに、「英文を読んでいると、前に書いてあることをすぐに忘れてしまう」というものがあります。それに対して「段落ごとにメモを取れ」なんていうアドバイスが多くなされますが、これは記憶力の補助としての対策でしかなく、根本的な英語の読解力の改善にはなりません(また、TOEICのようにメモ禁止の試験や、ネット記事をスマホで読んでいれば、メモを取ること自体ができません)。

その意味でも、this+名詞という「定石」に注目することは実践的です。this+名詞を見るたびに、読み進めるのを一旦止めて「ここまでの内容をまとめると、こういうことなのね」と頭を整理するほうが、英文の流れに沿って内容を理解できますし、はるかに効率的に読み進められるでしょう。

裏を返せば、「前の内容を忘れてしまう」と悩む人は、this+名詞という英文の定石を無視して読んでいたのではないでしょうか。書き手がせっかくまとめてくれているものを無視すれば、話の流れ・内容を見失ってしまうのは当然ですよね。これからはthis+名詞に注目するだけで、内容の頭への定着度が格段に変わるはずです。

【問題】

Q この文は新聞記事の一部抜粋で、実際にはこのあとに10の段落が続く、その冒頭の文章です。この文の後にどういった展開がなされるか予想してみましょう。

Hillary Clinton got closer than any American woman to the nation's top job, but her loss has thrown a spotlight back onto the question: Why has the United States lagged behind so many countries around the world in choosing a female leader?

【解説】

この文章は2016年11月10日付の「ニューヨークタイムズ」から抜粋しています。先にヒントを言っておくと、問題の答えを解くカギは、「?」にあります。ここで使われている「?」こそが、英語ネイティブにとっての「定石」です。

まずは英文を見ていきましょう。

1文目前半は、本来get closer to ~ というカタマリでしたが、その間にthan ~ が割り込んだ形です。移動があっても意味そのものは変わりません。1文目の前半は「ヒラリー・クリントンは、他のどのアメリカ人女性よりも、同国の最高指導者の地位に近づいた」という意味です。

そして、1文目のbut以下、her loss has thrown a spotlight back onto the questionを直訳すると「彼女の失敗は、スポットライトを再びこの疑問の上に投げかけた」です。つまり、「失敗したので、またこの疑問が再燃した」ということですね。「この疑問」とは直後のWhy ~ です。

では、疑問文の意味を確認していきましょう。

Why has the United States lagged behind ~ で「なぜアメリカは~に遅れをとってしまったのか?」となります。

lagは「遅れる」という意味の動詞ですが、名詞で「遅れ」という意味もあります。日本語でも「タイムラグ」などと使われますね。動詞lagは今回のように、lag behind ~ (in ...)「(...において)~に遅れをとる」という形でよく使われます。

The United States has lagged behind so many countries around the world in ...

「...となると、アメリカは世界中の多くの国に遅れを取ってしまった」

この文が疑問文になってWhyがついたものが、本文での形です。

読み手に疑問を投げかける意図

さて、ここからが最大のポイントです。大事なのは「?」でしたね。

最後のWhy ~ が疑問文になっていて、まさに「?」が使われています。英文の中での疑問文の役割と、疑問文を見たときに何を念頭に置けばいいのか、ちょっと考えてみてください。

疑問文ということは、当然読み手に疑問を投げかけているわけです。

それはなぜか?

もちろん英文はクイズではないですから、読み手の知識を試しているわけではありません。書き手は疑問文を使うことで、「みなさん、これは大事な話なのでちょっと考えてみてください。ね、不思議ですよね? では今からそれについて私の考えを述べさせていただきます」ということを言いたいわけです。

これを一言でまとめれば、「疑問文はテーマを提示する」と言えます。つまり、疑問文はその英文全体(もしくは途中まで)の「お題」を提供する働きがあるのです。こうして日本語で説明すると「何を当たり前のことを」と思えるかもしれませんが、英文を読みながらこのことをしっかり意識できている人は、それなりに英語を学んできた人でも少ないものです。

そんなわけで、今回の英文の場合、「女性の国家最高指導者選出において、なぜアメリカは他国に遅れを取ったか?」がテーマだと考えられます。ですから、この後に続く段落では、その背景を説明したり、それに対する主張がなされたりするような内容が展開されるのではないかと予想できますね。

テーマに関して、主張はすぐに出てくるか?

「疑問文がテーマを提示する」とわかれば、後はそれを念頭に英文を読んでいけばいいわけですが、1つ気をつけなければいけないことがあります。

それは、英文のテーマに関して書き手の考えがすぐに出てくることは稀である、ということです。まずは一般論から入ったり、何かの背景を説明したり、それをまとめたり、といった具合に、大事なことは「出し惜しみ」される傾向にあります。一般論や背景を一生懸命読んでいるうちに、ついつい最も大事な「英文のテーマ」を忘れてしまうことは少なくありません。

今回の英文も同じです。文章の後には10もの段落が続いていると冒頭に記しましたが、実際の内容を簡単にまとめてみると、まず「スリランカ・インドなどを皮切りに今や70か国以上で女性指導者が生まれたこと」に触れています。やはりこの英文でも、テーマであるアメリカそのものにはすぐには触れていません。

次に続く内容は「アメリカ大統領は男性の仕事という見方や、いまだ女性が公平に扱われない社会背景や歴史など、実に様々な角度からの意見がある」ということを述べており、この記事では最後まで明確な答えは提示されません。

しかしそれだけに、テーマをしっかりと意識しておかないと、読んでいてグダグダになり、文から受け取る印象が散漫になって、「結局何が言いたいの?」となって終わってしまいます。

ここが重要なのです。テーマさえ意識していれば、「なぜ女性大統領が生まれないのか?」という主題に対して、「様々な要因があるので、ずばり1つの解答はない」という、この記事が言いたいことを理解できるわけですね。

今後は疑問文を見たら、「それが文章全体のテーマになるのではないか?」ということを念頭に置き、どんなに話が脱線しているように見えても、常にそのテーマに立ち戻って考える読み方をしていってください。英語の読み方が劇的に変わりますよ。

和訳

ヒラリー・クリントンは、他のどのアメリカ人女性よりも、同国の最高指導者の地位に近づいた。しかしその地位を獲得できなかったので、再びこの疑問が湧いてしまった。女性の国家最高指導者を選ぶことに関して、なぜアメリカは世界中の多くの国に遅れを取ってしまったのか、という疑問である。

関正生

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