ビジネスが作る未来
2020年01月27日 07時06分 JST

TRFの元マネジャーが新しい会社を作った。「小6長男ががんになって気づいた、エンタメの力を生かしたい」

少ない尿から、がん検査ができるという「N-NOSE」の普及を通して、「小児がんに苦しむ子どもがいない未来」を目指す。

HUFFPOST JAPAN
保屋松靖人さん

音楽などのエンタメビジネスの会社「エイベックス」に勤める保屋松靖人さん。1990年代の日本の音楽シーンをゼロから変えたダンスグループ「TRF」のマネジャーだった人だ。

そんな保屋松さんが、HIROTSUバイオサイエンス社代表の生物学者、広津崇亮さんと新しい会社「エイベックス  &ヒロツバイオ・エンパワー合同会社」をつくった。子どものがんの治療や検査などを支援する事業に乗り出す。

どうして、音楽業界のプロが「医療ビジネス」に?

きっかけは保屋松さんの長男が小学6年生のときに発覚した「小児がん」だった。

skaman306 via Getty Images
イメージ

エイベックスが出資した医療系の企業とは

新しくつくった会社は、エイベックスも出資する合同会社だ。設立は2018年1月。保屋松さんはエイベックスの社員のまま、同社の代表をつとめる。

会社のミッションは、新しいがん検査として注目されつつある「N-NOSE」の研究支援や普及活動。ちなみにNーNOSEとは、線虫と呼ばれる小さな生物の特性を生かしたがん早期発見のための検査だという。

同社によると、線虫はがん患者の尿に集まり、その他の尿からは逃げる。この特徴を生かし、検診をうける人の尿に対する線虫の反応を調べ、小児がんなどの早期発見を目指すという。

検査は一滴の尿から行うことができ、値段は9800円を目安としている。一般的ながん検診と比べても高額ではない印象だ。

小児がんは一般的に0歳〜14歳のがんをさす。

国立がん研究センターによると、1年間にがんと診断される小児は約2100例と推計される。発見が難しい面もあるものの、化学療法や放射線療法などの技術も進歩しており、決して「不治の病」ではない。そのため、がん検診などによる早めの発見がカギとなる。

小学校や中学校の健康診断の尿検査などにこのNーNOSE検査を採り入れ、「小児がんに苦しむ子どもを一人でも無くしていきたい」と保屋松さんは話している。

gorodenkoff via Getty Images
イメージ写真

小6長男が小児がんに。「頭が真っ白になった」

保屋松さんが、小児がんの治療を支援しようと思ったきっかけは、2013年のある出来事だ。

当時、小学校6年生の長男が「おしっこが出にくい」と訴えてきた。「膀胱炎かな?」と思って検査を受けたところ、横紋筋肉腫という小児がんだった。

「当時は『がん=死』というイメージがあった。頭が真っ白になった」。

おじいちゃんやおばあちゃんが、がんで亡くなったこともあり、病名を告げれば長男はその深刻さを分かってしまうだろう。本当のことを隠して、治療にあたった。

「アメリカでの治療」は高額だった

最先端の医療技術を持つアメリカで治療を受けることも考えたが、費用が高額でお金をかき集めても足りない。それでも諦めず、様々な医師に直接連絡を取ったり、インターネットや知人らを介して情報を集めたりした。

幸いなことに、アメリカの治療法を日本にいながらにして受けることができ、がんの進行はおさえられた。長男は現在18歳になり、元気な高校生活を送っている。

C. Lyttle via Getty Images
イメージ写真

小児がんの女児がアーティストの「色紙」で変わった。

長男が入院していた時期に、出会ったある女の子との出会いが、保屋松さん自身の「エンターテイメントに対する考え」を変えた。

この女の子は、小児がんにかかっていたが、抗がん剤治療が辛く、その度、泣いて嫌がっていた。

彼女は、あるアーティストの大ファン。たまたま保屋松さんが担当していたアーティストだったため、本人の直筆の励ましの言葉を入れた色紙を書いてもらって渡した。

「退院したら、コンサートを見に行ける」。色紙を受け取った女の子の表情がみるみる変わり、治療に対して前向きになった。後日、家族から感謝の手紙が来た。

TRFやAAAなど長年に渡って様々なアーティストのマネージメントを担当してきた保屋松さん。

「音楽の持つ力はずっと認識していたが、想像している以上のパワーがあることに改めて気づかされた」と話す。

HUFFPOST JAPAN
保屋松靖人さん

 日本のアーティストが「社会貢献」に関わる方法

日本はアメリカなどと違って、アーティストが社会貢献に関わることが、まだまだ少ないとされる。もちろん一概には言えないところもあるが、個人事業主のようなハリウッド俳優らと違い、日本のアーティストは芸能プロダクションや音楽会社の契約社員のような立場。普段の芸能活動以外のことをアーティスト個人の思いだけでは実現しにくい。

そんな中、保屋松さんは、アーティストの力を「小児がんの治療」の支援に生かす方法を考えていた。知人を通して、がん患者の尿のにおいに反応する線虫を研究している生物学者の広津さんと出会い、会社を設立することを思いついた。

保屋松さんが培ったマネージメント経験を生かし、広津さんのNーNOSEの技術を、アーティストの音楽ライブなどを通してPRをしたり、広津さんのような有力な研究者を、俳優や音楽家のように「世の中に送り出す」支援をしたりすることができるとも考えたからだ。マネージメントの技術が別の業界で生きるのだ。

VCG via Getty Images
アーティストのピコ太郎。チャリティーイベントにも積極的に関わる。TAIPEI, CHINA - SEPTEMBER 01: Photo by Visual China Group via Getty Images/Visual China Group via Getty Images)

ELT、倖田來未、ピコ太郎など多くのアーティストが賛同したチャリティーイベントとは

保屋松さんがつくった会社は、NーNOSEの支援や普及活動のほか、「 Empower Children 」という社団法人も運営している。

この社団法人は、2月15日に「LIVE EMPOWER CHILDREN 2020」 という小児がん治療支援のチャリティーイベントを東京・有楽町の東京国際フォーラムで開く。

Every Little Thing、倖田來未、ピコ太郎などエイベックス所属のアーティストがライブを行い、収益を小児がん治療の支援に回す。

ライブの様子は、国立成育医療研究センターでパブリックビューイングを行うことで、会場まで足を運べない子どもたちにも見てもらうという。

チャリティイベントは2020年2月15日午後6時開演(午後5時開場)。場所は東京国際フォーラム(ホールA)。座席指定7500円(税込み)。詳しい情報は、イベントページから。

zamrznutitonovi via Getty Images
イメージ写真

TRFのパワーが変えたこと

ところで、今はYouTubeやSpotifyを通してスマホで気軽に音楽が聴ける時代だ。

GoogleホームやAmazonアレクサなどのスマートスピーカーを使えば、「音楽をかけて」と一言呟くだけで、家の中で迫力のある演奏が聴ける。

それでも、生で音楽を楽しむライブには不思議な力がある。

TRFのマネジャー時代、保屋松さんにこんなことがあった。

あるファンの女性が、父親を連れてTRFのライブに来た。その父親は仕事がうまく行っていなく、会社の経営も傾いていた。落ち込む日々。

ところが、ライブでTRFメンバーのパフォーマンスを見ている娘の姿を見ると元気がでた。それまではTRFのファンでもなかったが、すっかり魅了された。ライブが終わる頃には元気を取り戻していた。女性は嬉しくなってそのことをファンレターに書いてきた。

保屋松さんはこう言う。

「不思議ですよね。たった2時間で誰かの人生を変える。僕にはとてもそんなことができません。でも、そうしたアーティストが持つ力を生かして『小児がん』の子供たちや家族の苦しみを無くしていきたいんです