けいざい早わかり:大枠合意に達した日EU・EPA

日EU・EPAが発効すれば、日本企業にとってはEUにおいてビジネスチャンスの拡大やビジネス環境の改善が期待できると考えられます。

Q1. 日EU・EPAが大枠合意に達したそうですね。

2013年に交渉が開始された、日本と欧州連合(EU)の間の経済連携協定(EPA)が2017年7月に大枠合意に達しました。

今回、4年にわたる交渉を経て大枠合意に至った背景には、トランプ大統領就任後の米国の通商政策において、自国の利益を強調し、保護主義的な傾向が強まる中、日本とEUが相互に市場開放を行って貿易自由化を推進していくことを世界に示すことが重要であるという共通認識があったと考えられます。

日本EUのGDPの合計は、世界のGDPの3割近くを占めており、日EU・EPAが発効すれば、世界的にみて経済規模の大きな自由貿易圏が誕生することになります。

EUの資料によると、日本の自由化率(関税が撤廃される品目が全体に占める割合)は発効から15年後に97%となり、EUの最終的な自由化率は99%とほとんどの品目で関税が撤廃されます。このように、日EU・EPAは高い水準の貿易自由化を実現していると言えます。

EUは、日本の貿易総額において、中国、米国、ASEANに次いで規模が大きく、全体の11.9%を占めています(図表1)。

TPPは、米国の離脱を受けて、米国を除く11カ国での発効に向けて調整が進められていますが、ベトナムなどは米国を除いた形での発効には消極的との見方があります。

こうした中、海外需要の取り込みを経済成長へつなげようとする日本にとって、日EU・EPAが大枠合意に至ったことは、成長戦略を進める上でも、意義は大きいと言うことができます。

今後、日本とEUは、大枠合意の内容の詳細について協議を行う予定となっています。また、日EU・EPAの発効には、欧州議会、日本の国会以外に、EU28カ国すべての議会の承認が必要です。このため、時間がかかる可能性があり、EUは2019年の発効を目指しています。

図表1. 日本の貿易総額におけるEUのシェア

Q2. EUはどのような品目の関税を撤廃するのですか?

日本からEUへの輸出の中心である乗用車には、EUは現在、10%の関税をかけていますが、関税は8年目に撤廃されます(図表2)。また、自動車部品は、現在は3%程度~4.5%の関税がかけられていますが、発効時に9割以上の品目で関税が撤廃されます。

EUは、すでに韓国と自由貿易協定を締結しており、韓国から輸入する乗用車の関税を撤廃しています。

現在、乗用車のEUへの輸出という点で、日本は韓国と比較すると関税面で不利な状況にありますが、日EU・EPA発効後8年目に関税が撤廃されると不利な状況が解消することになります。

また、EUで乗用車の現地生産を行っている日系企業が自動車部品を日本から調達する場合には、これまで関税がかかっていましたが、日EU・EPAが発効すれば、最終的には自動車部品にかかる関税を支払う必要がなくなります。

このほか、現在14%の関税がかけられているカラーテレビは、6年目に関税が撤廃されるなど、工業製品では最終的にはすべての品目で関税が撤廃されることになります。

農林水産品では、醤油、緑茶、酒類をはじめ、ほとんどの品目の関税が発効時に撤廃されます。また、EU向けの水産物輸出の中心であるほたて貝(冷凍)の関税は8年目に撤廃されることになっています。

このように、EUは、最終的にはほとんどの品目で関税を撤廃することから、関税面において、日本からEUに輸出する場合の環境が改善することになります。

図表2. EUの関税削減・撤廃の概要

Q3. 日本の関税撤廃状況はどうなっていますか?

日本は、農林水産品を中心に関税の削減・撤廃を行うことになっています(図表3)。EUが日本に市場開放を求めていたチーズでは、低関税での輸入枠の設定や関税撤廃が行われます。

具体的には、カマンベールチーズやモッツァレラチーズなど、ソフト系チーズには、現在29.8%の関税がかけられていますが、低い関税で輸入できる枠を設定し、その枠は発効時の2万トンから16年目に3.1万トンに拡大されます。

その枠内で適用される関税は段階的に削減され、16年目に撤廃されることになっています。主に原材料として使用されるチェダーチーズなどのハード系チーズは、関税が段階的に削減され、16年目に撤廃されることになっています。

図表3. 日本の関税削減・撤廃の概要

豚肉は、安価な海外産品が大量に輸入されることを防ぐため、差額関税制度が採用されており、平均輸入価格が524円/kg(分岐点価格)のときに課税額が最も小さくなるようになっています(図表4)。

日EU・EPAでは、豚肉の関税は削減あるいは撤廃されるものの、差額関税制度の基本的な枠組みは維持されることから、豚肉の輸入価格はそれほど大きくは下がらない可能性があります。

また、関税を削減した場合に輸入が急増すれば、関税を引き上げることができるセーフガードが確保されています。

図表4. 豚肉の差額関税制度と関税の削減・撤廃

このほか、チョコレートやパスタ、トマト加工品(ケチャップ他)、ワインなどの関税も撤廃されます。

現在、チョコレートには10%、パスタのうちスパゲッティは1キロあたり30円の関税がかけられていますが、これらの関税は段階的に削減され、11年目に撤廃されます。ワインの関税は発効時に撤廃されます。

鉱工業製品では、最終的にすべての品目で関税が撤廃されます。現在、日本は、鉱工業製品では、化学工業製品、衣類や履物類、鞄などに関税をかけていますが、化学工業製品や衣類については発効と同時に関税が撤廃されます。

皮革・履物には現在、最高で30%の関税がかけられていますが、11年目または16年目に関税が撤廃されます。

このように、日本は農産品を中心に関税を段階的に削減・撤廃するため、EUから輸入が増加すると考えられます。

関税の削減・撤廃が行われるチーズ、スパゲッティ、チョコレート、トマト加工品、ワインなどは、日本の輸入量に占めるEUのシェアが高いことから、消費者にとっては選択の幅が広がることに加えて、これまでよりも安く購入できる可能性があります。

外食産業などでもパスタなどの食材をEUから安く調達できることになり、関税の削減・撤廃の恩恵を受けると考えられます。

他方、酪農家にとっては、国内においてEUからの輸入品との競争が激しくなることから、政府が支援策を実施する方針です。このほか、最終的には関税が撤廃されるパスタなどを製造する業者にとっても輸入品との競争が激しくなる可能性があります。

Q4. 関税以外ではどのようなことが決まりましたか?

知的財産分野で、ある特定の産地に特徴的な原料や製法などによって作られた商品だけが、その産地名を独占的に名乗ることができる制度である地理的表示(Geographical Indication、GI)に関して、日本、EU相互に保護することを決定した品目については、保護が強化されることになります。

たとえば、EUで、日本酒や日本産の農産品の保護が強化され、模造品の流通が防止されることにより、ブランド価値が守られるようになります。

また、EUにおいて、単式蒸留焼酎の容器容量規制が緩和されることになります。EUでは700mℓや1750mℓ等の決められた容量以外の容器での流通が認められていませんが、日EU・EPAの発効後は、焼酎の四合瓶や一升瓶での輸出が可能となります。

政府調達分野では、日本、EUともWTOの政府調達協定に参加しており、市場開放はすでに進んでいますが、日EU・EPAでは、日本、EUともに対象となる調達機関を追加することとしています。

また、鉄道分野の政府調達では、日本、EUの双方が市場アクセス拡大のための措置をとることになっています。

サービス分野の市場アクセスや投資の自由化に関しては、原則としてすべての分野を自由化の対象とし、自由化を行わない分野を列挙する「ネガティブ・リスト」方式が採用されており、EUのサービス分野における自由化が進展することになります。

なお、企業と進出先の政府との間で投資に関する紛争が生じた場合に、日本は、企業が進出先の政府を国際仲裁機関に訴えることができる「投資家と国家の紛争解決」(Investor-State Dispute Settlement、ISDS)の導入を求めています。

他方、EUはこれまでに締結した自由貿易協定ではISDSとは異なる制度を導入しており、投資に関する紛争解決については、今後も協議が行われることになっています。

このように、日本とEUは、関税以外の分野においても、相互に市場アクセスの改善を図ることにしています。日EU・EPAが発効すれば、日本企業にとってはEUにおいてビジネスチャンスの拡大やビジネス環境の改善が期待できると考えられます。

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