生活の中にある何げないメロディ「ファミマ入店音」に隠された"優しさ"と"空虚さ"

何げないメロディは、発車音以外にも私たちの生活にあふれています。ディズニー、お風呂が湧いたことを知らせるメロディ、横断歩道を渡る時のメロディ...

タタタタ♪、タタタタ♪、タタタタ♪、タタタタ♪、タタタタ♪、タタタタ♪、タタタタ♪、タタタタタ~ン♪

皆さんは、この文字に起こしたメロディが何の曲かわかりますか? 実はこれ、山手線の内回りで使用されている電車の発車メロディ、「春」。よっぽどの鉄道好きではないとわかりにくいかと思いますが、普段、同線を使っている方は、どこかの駅で聞いたことがあるかと思います。

ふとした瞬間に耳に入る発車メロディは、自分がどの駅にいるのかを再確認させます。例えば、茅ヶ崎駅で使用されているのは、サザンオールスターズ『希望の轍』。大阪の駅ではやしきたかじんさん『やっぱ好きやねん』、和田アキ子さん『あの鐘を鳴らすのはあなた』など、地元出身歌手の曲が採用されています。

また、この春からは、東京メトロ日比谷線の秋葉原駅でAKB48『恋するフォーチュンクッキー』、千代田線の乃木坂駅で乃木坂46『君の名は希望』が流れるようになり話題に。どれも地元のイメージの強い歌手が担当しており、地元の風景が思い出されるものとなっていますよね。

こういった生活の中でふと流れるメロディは、意外と私たちに大きな影響を与えているのです。昔どこかで聞いたことのあるメロディが少し流れただけで、その時の記憶がよみがえったことはないでしょうか。不思議なくらいに、音楽の体験は私たちに影響を与えているのです。

ディズニーが大切にしている"何げないメロディ"

こういったメロディの重要性については、あのディズニーでも強く意識されているようです。

「ディズニーのテーマパークを訪れたゲストは、豊かな色彩と人気キャラクターに圧倒される。しかし、ゲストの感情にもっとも強く働きかけるのは音楽だ」

こう語るのは、テレビプロデューサーであり、ディズニーやヴァージン、メルセデス、AT&T、サウスウエスト航空、コカ・コーラなどの「サウンド・マーケティング戦略」 をコンサルティングしたジョエル・ベッカーマン氏。自著『なぜ、あの「音」を聞くと買いたくなるのか―サウンド・マーケティング戦略』のなかで、音楽の重要性を語っています。

確かに、「イッツ・スモールワールド」や「パイレーツ・オブ・カリビアン」の曲が聞こえてくると、この後に待っているアトラクションが何かを知ることができます。音楽は視覚よりも多くの情報をゲストに与えます。ですので、いま、自分がどこにいるのかを知る手がかりとなります。

ただ、ディズニーでこだわっているのは、こういった有名曲ではなく、何げない曲。つまり、アトラクションから次のアトラクションへ移動する間や、テーマランド間を移動する間に聞こえる「風の音」や「鳥のさえずり」のメロディ。

ディズニーでは、こういった移動の空間を「トランジション&ディコンプレッションゾーン」と呼んでおり、ファンタジーな世界にいながらも、一時的にそこから自分自身を切り離すためのエリアとしているのです。確かに有名曲ばかりが続くと、テンション上がりっぱなしで疲れてしまいますよね。ですので、何げないメロディを流しながら休憩させつつ、かつ、ディズニーの世界から離れないように調整しているのです。

何げないメロディについては、「パイレーツ・オブ・カリビアンを体験した後も、ジェットコースターを降りた後も、ショータイムを見て感動した後も、パーク内にいる限り、ゲストにずっと夢と魔法の世界に浸ってもらう――そのための音楽だ」と、同書で紹介されています。なるほど。

「ファミマ入店音」に正式タイトルがあった

何げないメロディは、発車音以外にも私たちの生活にあふれています。パソコンを立ち上げる時に流れるメロディや、お風呂が湧いたことを知らせるメロディ、横断歩道を渡る時のメロディなど、挙げ出すときりがありません。また、個人的によく出入りするコンビニの入店音も生活に溶け込んでいます。それらのメロディにはそれぞれ作曲家がいて、様々な想いをもって作られていることをご存じでしょうか。

自宅から最も近いコンビニ「ファミリーマート(ファミマ)」について調べてみました。何げない入店音でいつも私を迎えてくれるファミマ。

「タラララララーン♪ タララララーン♪」というあれです。

このあまりにも何げないメロディには、様々な工夫があることがわかりました。というのも、ウェブメディア「デイリ-ポータルZ」の西村まさゆきさんが、作曲家・稲田康さんに取材をしたところ、このファミマの入店音には三度の音程と五度の音程にわけることができることが判明。

「音程というのは、ふたつの音が重なったときの音の響きのことをいうのだが、三度、五度というのは、そのふたつの音がどれだけ離れているかを表す。比較的やわらかい、優しい印象のある三度の音程と、空虚でどこか冷たいイメージのする五度の音程」

なんと、あの入店音には、柔らかくて優しい音程と空虚な音程のストーリーが詰まっているのです。何げないメロディのなかにも工夫があるんですね。深いです。

さて、そんな同メロディには正式タイトルがあるとのこと。実は西村さんが稲田さんにお願いして、正式タイトルを決めることになったのです。

気になるタイトルは、「メロディーチャイム第一番『大盛況』」。

なんだかコンビニっぽい景気の良いタイトルに決まったと、西村さんの自著『「ファミマ入店音」の正式タイトルは「大盛況」に決まりました。』で紹介されています(ちょっとややこしいですね)。

私たちの生活の中で流れる"何げないメロディ"には、それぞれ作曲家がいて、また、正式タイトルがあるもの。そして、隠れたストーリーも。つい、その何げなさ故に聞き流してしまいますが、深掘りしてみると色んな"こだわり"が見えてきますね。

タタタタ♪、タタタタ♪、タタタタ♪、タタタタ♪、タタタタ♪、タタタタ♪、タタタタ♪、タタタタタ~ン♪

山手線内回りで流れる「春」には、どのようなストーリーがあるのでしょうか。気になってきました。

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