新型コロナウイルス(COVID-19)
2020年02月05日 18時11分 JST

新型肺炎が直撃した中国経済と“2020年の縛り”。「SARSとは経済へのインパクトが違う」専門家が指摘

5Gの基地局整備や半導体、それにエドテックなど...未来志向型の投資が増える世界は描けるか?

政府によって延長された春節休みが明け、2月3日に取引が再開された上海株式市場。代表的な指数は一時、取引開始から8.7%下落した

これはもちろん新型コロナウイルスによる肺炎の拡大によるものだ。春節休みが明けた今も、中国に暮らす人たちは不要不急の外出を控え、その分経済活動は停滞している。

今回の肺炎騒動が中国経済に与える影響は。また、終息後の経済をどう見れば良いのか。中国経済が専門の対外経済貿易大学(北京)の西村友作教授は、中国政府がかつて自らに課した“縛り”の存在を挙げ「未来志向型の投資が増えるか注視する必要がある」と指摘する。

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西村友作教授(対外経済貿易大学)

■消費減が痛い

実家に帰省したり、家族で旅行をしたりと、大量の消費が行われる中国の春節。しかし今年は新型肺炎の流行により自粛ムードが一気に広まった。

直撃したのが中国国内のサービス業だ。毎年、春節の時期には映画の大型タイトルが封切りとなり、今年も妻夫木聡さんらが出演する「唐人街探案3」などが注目を集めていたが、劇場公開が一斉に延期された。上海のディズニーランドなど観光地も臨時閉園を余儀なくされた。西村教授は消費への影響を重く見ている。

「人が集まるところは軒並み営業中止になり、“廟会”のような恒例の縁日もなくなりました。映画やサービス業はもちろん、旅行など不要不急な消費に大きく影響します。武漢市は産業の集積地と言われ、サプライチェーンへの影響も懸念されますが、中国経済で言えば消費の落ち込みが一番インパクトが大きいでしょう」

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WUHAN, CHINA - FEBRUARY 03 2020: People in overalls talk at a table outside a hotel accommodating isolated people in Wuhan in central China's Hubei province Monday, Feb. 03, 2020.

思い起こされるのは、2003年に中国で大流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)だ。当時も中国では大幅に消費が落ち込んだが、終息とともに復活し、2003年通年では実質で9.1%の成長を成し遂げた。

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SARS感染拡大予防に向けた検査(上海・2004年)

しかし西村教授は、SARSとは経済成長に与えるインパクトが異なると指摘する。

「SARSが流行した当時は、中国が2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟したあとで、世界から投資が集まっていました。中国国内でも固定資産投資が続き、投資主導の成長モデルと言えました。当時は消費が下がっても投資が上がり成長をカバーできました。しかし今の中国経済は消費主導の成長モデルに切り替わっています。経済全体に対する消費の寄与度が高まっているため、成長率に与えるインパクトが大きいのです」

2000年代は「世界の工場」として、安い人件費などを武器に労働集約型産業で成長を続けた中国。SARSのダメージこそあれど、安価で大量に生産できる場所としての魅力は変わらなかった。

しかし2010年代に入ると人件費も高騰し、工場やインフラなどに投資しても採算性は低くなった。代わりに政府が成長エンジンに据えたのが「消費」。今回の新型肺炎はそこを直撃している、という構図だ。

■それでも成長にアクセル

西村教授は、今後、新型コロナウイルスによる肺炎の流行が終息したとしても、SARSの時のようなV字回復は望めないと話す。

「消費は、第一四半期に落ち込んだから後半に急に増える、という性質のものではありません。中国の経済成長率が年々下がっているなかで、2020年はGDP成長率が5.8%〜6%前後とみられていましたが、どこまで落ち込むのか注視しています。4〜5年スパンでの中長期的な影響を評価するのは時期尚早ですが、短期的にはかなり効いてくるでしょう」

中国政府はこの事態に景気刺激策を検討している。詳しい内容は明らかになっていないが、金利の引き下げや減税などで市場に出回る通貨の量を増やしたり、地方政府などからの補助金や投資が増加したりする可能性もある。

ここで思い起こされるのは2008年、リーマンブラザーズが経営破綻し、世界的な不況が起きた際に中国政府がとった4兆元(当時のレートで約57兆円)規模の景気対策だ。

地方政府を主役に高速道路や地下鉄などへの大胆なインフラ投資が相次ぎ、民間でもマンション投資などが過熱した。しかし採算を度外視した投資も横行し、積もり積もった不良債権は今も中国経済のアキレス腱となっている。

「4兆元の景気政策ではインフレが起きたうえ、過剰生産や過剰債務が問題となるなど、政府は大きな副作用に苦しみました。今回は、当時の経験から学び投資を行うのではないでしょうか」

Reuters
中国で進むインフラ整備(資料写真)

無理な投資に走らず、消費の回復を待つという手段はないのか。西村教授が指摘するのは、中国政府が経済成長のアクセルを踏まざるを得ないある“縛り”の存在だ。

それは2012年に行われた第18回共産党大会で提唱された「2020年までにGDPを2010年の倍に引き上げる」という目標だ。西村教授は、新型肺炎の拡大という想定外の事態があったとしても、この目標は変わらないと考えている。

「GDP倍増は必達です。揺るがないと思います。共産党とすれば、新型肺炎を言い訳にせず“困難はあったが達成した”としたいはずです。そのため、消費が戻らないなら投資を増やすとみられます」

時事通信社
第18回共産党大会(2012年)

■バラマキの再現に警戒

これはリーマン後の再現とならないか。西村教授は、政府の投資対象をよく見極めるべきだと話す。

「今の中国経済には成長が見込まれるポイントも増えています。例えば5Gや半導体などです。5Gならば基地局の整備など、こうした産業に一気に金が流れ込む可能性はあります。未来志向型の投資が増えていくのではないでしょうか。副作用の強いバラマキ型の景気刺激策になっていないか、注意が必要です」

民間企業にも希望を見出すことはできる。連休明けの上海株式市場などは一時、株価が大幅に下落したが、この機会をビジネスチャンスに変えられる産業もある。

「大学では、教育とテクノロジーを合わせたエドテックと呼ばれる分野で遠隔授業をしようという動きもあります。テレワークも急速に進んでいます。とにかく今はネットの力を使ってなんとかしなければ、という雰囲気になっていますし、こうなった時の中国は早い。肺炎をきっかけに、中国が日本がいまいち実現できていない働き方改革を成し遂げるかもしれません」

「GDP倍増」という経済政策の成果を問われる年に、イレギュラーに襲われた中国政府。目標「未達」があり得ないならば、どのような手段で成長を実現するのか。政府の一挙手一投足を冷静に見極める必要がある。