他人事では語れない―「バズフィードの不振」を伝えたフィナンシャル・タイムズの苦境

どこを見渡しても、他人事では語れない、メディアの曲がり角にきているようだ。

英フィナンシャル・タイムズが、バイラルメディア「バズフィード」が「2015年の売り上げ目標に届かず、2016年の内部見積もりを半減させた」と不振を伝えたのは4月12日だった。

それから10日後、今度はニュースサイトのポリティコ欧州版が、フィナンシャル・タイムズの「我々は難局に直面している」との社内メモを公表。求人の延期などの経費削減を検討していることを明らかにした。

ネットメディアが苦境にあるなら、紙メディアが無縁なわけがない。米ネットメディアのマッシャブルから英ガーディアンやインディペンデントまで、リストラ、廃刊、不景気な話は尽きない

どこを見渡しても、他人事では語れない、メディアの曲がり角にきているようだ。

●FTの苦境

ポリティコによると、フィナンシャル・タイムズの社内メモは、ジェームズ・ラモント編集局長名で今週、明らかにされた。

「2016年、我々はいくつかの難しい営業状況に直面しつつある」とラモントさん。このため、ビジネス部門は、「今後数カ月の難局に備えている」のだという。

対策として挙げられているのは、4点。

欠員に対する求人の延期。出張費と交際費の削減。非常勤スタッフは「必要時に厳密に」限定。紙面製作へのさらなる合理化要求。

年内、営業状況が改善されず、後になってから手遅れを取り戻そうとするはめに陥るより、あらかじめ対応策をとっておく方がはるかにいい。第2四半期末には、取り組みの結果を検証する予定だ。

ラモントさんは、メモの中でそう述べている。

具体的には、第1四半期の紙の広告収入が、「当初見通しを遥かに下回る軟調」だったとしている。

●デジタル化の優等生の試練

この社内メモは、業界内でも驚きを持って受け止められた。

なぜなら、既存メディアの中でも、フィナンシャル・タイムズは高額所得のグローバルなリーダー層をターゲットにしたニッチ戦略と、デジタルシフト、デジタル課金で先陣を切る〝デジタル化の優等生〟と見られていたからだ。

同紙は昨年、日経傘下に入っている。

実際に、同紙が3月30日に発表した2015年のデータでも、紙とネットを合わせた購読者数は78万人で前年比8%増。うちデジタル購読者は4分の3を占める56万6000人で12%増となっていた。

英国市場における我々の同業である伝統メディアのいくつかは、この数カ月で、大量リストラや紙からの撤退を表明している。デジタル分野では、バズフィードが2016年の売り上げ見通しを半減させたとのニュースを目にしたことだろう。

ラモントさんはメモの中で、メディア業界の現状を、こう述べている。

ガーディアンは3月17日、編集局100人を含む250人のリストラ、5860万ポンド(94億4000万円)の経費削減を表明。

インディペンデントは3月26日を最後に、紙の新聞を廃刊している。

そして、ネットメディアのトップランナーの一つ、バズフィードの「不振」をスクープしたのも、フィナンシャル・タイムズだった。

●バズフィードの不振

フィナンシャル・タイムズがそんな見出しの独自記事を配信したのは4月12日だった。

記事では関係者の話として、バズフィードは2015年に2億5000万ドル(約280億円)の収入予測を立てていたが、実際には1億7000万ドルにも届かない結果となった、としていた。

また、当初5億ドルだった2016年の収入目標を2億5000万ドルに半減した、とも指摘していた。

だが、バズフィード会長のケン・レラーさんは、リ/コードのライター、ピーター・カフカさんの取材に対して、この報道を否定。今年の第1四半期は目標を達成し、第2四半期以降も、同様に目標を上回るペースだ、と述べている。

ただ、カフカさんの記事も、2015年は2億1000万ドルの目標に対して1億7000万ドルの実績だった、との関係者の証言を盛り込んでいる。

●急成長の減速とネット動画

バズフィードだけではない。

ネットニュースの米マッシャブルも4月7日、新たな収入源として注目を集めネット動画にシフトするための組織改革の一環として、30人規模のリストラを発表。

この中には、同サイト編集長で、元ニューヨーク・タイムズ編集局次長のジム・ロバーツさんも含まれていた。

これらの動きを受け、急成長を競い合ってきたネットメディアの減速と方針転換を指摘する声が、ニューヨーク・タイムズや、メディアアナリストのケン・ドクターさんらから相次ぐ。

テキストベースのコンテンツで呼び込めるトラフィックは頭打ちとなり、一斉に、より広告収入も見込めるネット動画へと舵を切り始めている、と。

ちょうど軌を一にして、評価額10億ドル以上の「ユニコーン企業」に沸いたシリコンバレーのブームも陰りを見せ、ベンチャーキャピタルの投資額も、昨年第4四半期に急落している

●他人事ではない

もちろん、このメディア環境の曲がり角は、他人事ではない。

そして、曲がり角を曲がりきった先にあるのが、フェイスブックやグーグルなどのプラットフォームの、存在感のさらなる巨大化としか思えないのが、さらに憂鬱だ。

(2016年4月23日「新聞紙学的」より転載)

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