フリーランスは増加した。でも「奴隷的」会社員の延長では社会は不自由なままだ。

「Freelance Basics」でランサーズが提案する「フリーランスに会社機能を」というサービス。その背景にある問題とは。

働き方が多様化している、とさまざまなメディアで伝えられ、企業に属さずに働くフリーランスにも注目が集まっている。業務委託で副業として仕事を受注する働き手を含む広義のフリーランスの人口は、国内の労働力人口の17%に及んだという試算もある。

でも、フリーランスとして仕事を始めてみたら「いやいや、言われるほど変われてないよ」と思わされることが正直、増えた。

「正社員のほうがフリーランスより上?」

一緒に仕事をしていた社員編集者から「フリーランスって正直、キャリアダウンじゃないですか」と涼しい顔で同意を求められたことがある。取材で会った男性が、私がフリーランスであると知った途端「じゃあ、子どもいるんだ?」と聞いてきたこともある。

両者とも、正社員の方がフリーランスより上の立場だという感覚を持っていると感じた。

後者の男性の発言は、育児をしながら働いている全ての女性に対しても相当に失礼だが、急にタメ口になったことも鑑みれば「フリーランスっていうのは正社員で居られなかった人がなるものだから、さしずめ子どもでも出来て、仕事は空いてる時間でやってるんだね」と言いたかったのだろう(ちなみに、私には子どもはいない)。

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「奴隷的扱い」は企業中心社会の悪しき伝統

フリーランスは増加傾向にあるにも関わらず、不利な立場に追い込まれがちなのはなぜなのだろうか。

「会社員が消える 働き方の未来図」(文春新書)などの著書がある神戸大学大学院法学研究科の大内伸哉教授(労働法)は、背景に「日本がこれまで『企業中心』の社会を是としてきたこと」があると指摘する。

どういうことだろうか。

大内教授によれば、企業中心社会とは、新卒一括採用・年功賃金・終身雇用に裏付けられた日本独自の雇用システムの中で育まれてきたという。

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「欧米では特定の業務に従事させることを前提に採用がなされ、自分の仕事の範囲がはっきりしていた。一方、日本では従来、職務を限定せずに人を雇い、採用後に、いろいろな仕事を経験させてきた。正社員は、『長期の雇用保障』が保障されたが、それと引き換えに、会社の命令があればいつでも、どこでも、何でもやるという働き方に応じてきた」(大内教授)

この正社員の在りようを、大内教授は「ある意味、奴隷的だ」とも言う。「たとえ奴隷的でも、定年まで企業が面倒を見てくれるならメリットはあった。しかし、年功賃金や終身雇用が崩れ、企業を取り巻く環境変化も激しくなる中、社員を長期的に抱え込む『成功モデル』は、もう持続し得ない。すでに『幻』になっているとも言える」(大内教授)。

しかし、「意識」はそう簡単には変わらない。個人として、契約に基づいた範囲で仕事をするというフリーランスの働き方は「それとは真逆の働き方をしている多くの正社員には、理解しにくい。『頼まれたら何でもやるものだ』という自分たちの感覚でフリーランスに仕事を頼んでしまうと、そこでトラブルが起きやすいだろう」(大内教授)。

フリーランスに「会社機能」を

取り急ぎ、フリーランスが「自衛」するにはどうすればいいだろうか。

私がフリーランスになったのとちょうど同時期の2018年6月、クラウドソーシングサービスなどを提供するランサーズが打ち出したのが「Freelance Basics」(FB)という新事業だ。

コンセプトは「フリーランスに、バーチャル会社機能を」。事業の内容や構想した背景について、根岸泰之執行役員に聞いた。

Aiko Kato

――フリーランスに「バーチャル会社機能を」。どういう意味でしょうか。

会社を「機能」で考えてみると、大きく3つに分けられます。一つは、仕事を獲得してくる「営業」機能、本業に当たる「役務提供」機能、そして、それらをスムーズに営むための「管理」機能です。

しかし、これをフリーランス(個人事業主)に置き換えてみると、どうでしょう。突然、必要な機能を「全部一人で担いなさい」ということになる。そうすると、得意な仕事で価値を提供できるはずだった時間がどんどん奪われ、さらに不自由になるという悪循環が生じます。

FBは確定申告や取引での契約書の作成など「管理」機能を代行しています。

――フリーランスなのに「不自由」。会社員として働いている人から見たら、違和感もある表現のように思いますが。私も正社員だった頃は「組織の都合を時には我慢して受け入れてこその仕事」という感覚を持ちながら働いていたので。

僕も元々、フリーランスのライターだったんですよ。その頃から「フリーランスはフリーじゃない」と思っていました。

契約に関する知識がなかったから、仕事を口約束で引き受けることが多かったんです。報酬の不払いや支払いの遅れは日常茶飯事でした。ある知人のデザイナーは「かっこよくないから」という漠然とした理由で、クライアントから幾度となく修正作業をさせられたと言っていました。一方で、ことを荒立てて次の発注がもらえなくなることも怖い。いろいろ考えた結果、泣き寝入りするケースはとても多いんです。

――その経験が、構想の原点だったわけですね。私も、まるで社員の延長線上のような形で恣意的に仕事量を増やされそうになった経験があります。外部に仕事を切り出す上での、企業側のリテラシーの低さは目立ちますね。具体的にFBでは、どのようなサービスが受けられるのでしょうか。

例えば、確定申告に関しては、必要な資料を専門家に渡すだけで「丸投げ」できるサービスを、個人で依頼した場合の半額程度の金額で提供しています。

契約関係については、書類の文面から不利な立場に置かれるリスクのある記述などをAIが解析してくれるシステムがあります。他社の商品ですが、連携して安価で使えます。また、職種ごとの知識にくわしい顧問税理士・弁護士を紹介するサービスもあります。

――会社にあって、個人にはない機能を提供しているのは分かりました。でも、あえて「バーチャル会社機能」として一つのパッケージにしたのはなぜでしょう。

一言でいえば「会社か、個人か」という二項対立で語られがちな現状を変えたかったんです。

フリーランスが不自由している要素を列挙していくと、「会社には当たり前にある機能」ばかりだった。もちろん「それを失うことを知っていて独立したのだろう」という指摘は常について回ります。取引で不利な立場になっても「交渉スキルを身に付けて自衛すればいいじゃないか」と思われがちです。でも、選んだ働き方が異なるだけで、著しく不自由になっても当たり前だという発想は、社会全体にとってプラスになるでしょうか。

――確かに今は「正社員か、そうでないのか」という区分が強く働きすぎているように思います。

好きなことだけで生きていく、というと「わがままだ」と揶揄される風潮はありますよね。でも、考えてみてほしい。実際、ランサーズが専業のフリーランスに対して調査をすると、本業としている業務に割いている時間って、労働時間全体の3割程度なんですよ。その他の大半の時間を、営業や経理といった「その人がやる必然性のないこと」に使っている。

例えばデザイナーであれば、デザインという本業の仕事に取り組む時間をなるべく増やすことが、個人にとっても社会にとってもプラスになると思います。逆に、苦手な領収書の整理や仕分けは、それを得意とする税理士などの力を借りたほうが互いにハッピーじゃないですか。FBは、フリーランスを孤立させないためのプラットフォームでもあるんです。

――サービスを提供するだけではなく、「バーチャルにつながっている」イメージを強調しているのは、そういう意味なんですね。

その通りです。自分の得意なことは、誰かの不得意なこと。逆も然りだと思います。必要なときに助け合えるコミュニティーを作りたい。そういう思想が根底にはあるので、FBの機能の一つとしては、フリーランス同士が交流したり、スキルアップの機会を得たりする場も増やしていきたいと考えています。

◇ ◇

フリーランスが企業との取引で不利な立場に置かれやすいのは、働き方の多様化を実現するための制度や意識が未だ過渡期にあるからだ。

だからこそ、フリーランスの自立を助け、孤立をさせない仕組みとして「FBのような事業は一つのモデルになり得る」と大内教授は話す。

副業が少しずつ広がりを見せ、正社員がキャリアを組織から自分の手に取り戻そうとする兆しも見える。

でも、「企業中心」の意識を引きずったまま、個人の自己責任だけを追及する空気が強まれば、社会はたちまち息苦しさを増してしまう。バーチャルなコミュニティーで個人を結ぶというFBのアイデアは、働き方を本当の意味で多様化させていく方法を考えるためのヒントになりそうだ。

(取材・文:加藤藍子@aikowork521 編集:泉谷由梨子@IzutaniYuriko

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