スロバキアの医学生からみた福島原発事故

私が驚いたのは、内部被ばく検査を見学した際に、福島の住民の内部被ばく量が想像より低かった事です。

夏にスロバキアから日本に帰省した際、南相馬市総合病院で子供用の内部被ばく検査の様子を見学しました。

その際に印象的だったのが、検査に来た母親が、南相馬を訪れるにあたり、知人から「どうしてわざわざ被ばくしに行くの?」と言われた事を医師に相談していた様子です。私自身も、福島に行く事をポーランド人の友人に話したところ、同様な内容の事を言われました。国内で起こった原発事故であるにも関わらず、日本人であっても当事者以外の人の原発に対する姿勢は、外国人と同様に、誤った情報の影響から偏見を持ちやすいのだと思います。

また、事故周辺地に住む住民達にとっては、このような何気ない言葉が、大きなストレスの原因になるのだと感じました 。

2011 年 3 月 11 日、私はニュージーランドの中高一貫校に留学していました。

現地のメディアは当時、原発事故による福島県の変わり果てた様子に加え、放射能汚染の妊婦や乳児への影響を主に大きく報じていました。海外での生活が長かった私は、周囲の外国人の友人と同じように、原発について深く考えないまま、漠然と福島の人々はこの先何十年も被曝による、がんや発達障害などの健康被害を受けるのだろうと考えていました。

また、高校を卒業後も海外に滞在し、原発事故への体制や正確な状況を把握しないまま、真偽を確かめることもせず情報を鵜呑みにしてしまっていました。

現在私は、スロバキアの大学で医学を学んでいます。

ウクライナの隣に位置し、チェルノブイリ原発事故の影響が今でも残っています。ベラルーシュやオーストリアと比較するとチェルノブイリ原発事故の放射能降下物は少ないですが、それでもスロバキアの 80% の地域で 10Kbq 〜 40Kbq / 平方メートルの放射能汚染がありました。

これは、事故直後の南相馬市の常磐線より海岸側に位置する地区と同じくらいの放射能量です。

スロバキアは年間に供給されている電力 (285億kWh) のうち、約 55 パーセント (157億kWh) を原発に頼っている国です。1976 年と 1977 年に、ボフニツェ 1 号機で事故があり、1 号機と 2 号機はEU加盟の際に隣国であるオーストリアから安全性を懸念され、それぞれ 2006 年 12 月末と 2008 年 12 月末に閉鎖されています。

しかし、 スロバキア政府は新しくボフニツェに1基、ケセロヴィツェに1基の新設を予定しています。 さらに、2014 年 11 月には、石炭火力発電を大幅に減らし、原子力発電の発電を大幅に上げる長期的な計画が発表されています。また事故が起き、今度は放射能が漏れてしまった場合はどうするのだろう、と気になり、福島の原発事故について興味を持ちました。

内部被ばく検査を見学した際に、私が驚いたのは、住民の内部被ばく量が想像より低かった事です。

私自身の内部被ばく検査で得られたカリウム 40 の値は、地域住民の方々より高いことにも驚きました。ひらた中央病院、南相馬市総合病院、いわき泌尿器科の 3 院で、 2013 年 12 月から 2015 年 3 月に 2707 名の乳幼児を対象に行った内部被ばくの検査では、放射性セシウムは検出されなかったことも説明を受けました。

またアンケートからは、福島県内での外出時間の長さ、食べている農産物の産地との関係は、ほぼない事がわかりました。

これには、 農産物の徹底した放射能検査による、市場に流通する食品の管理の影響が大きいと思います。

汚染された食物を食べ続けざるを得なかった旧東欧諸国との大きく異なる点でもあります。その他、子供や妊婦のいる家での早期の除染作業の実施や、現地で活動している医師による住民への啓豪活動が大きく関わっていると思います

福島の直面している問題は、客観的データに基づかない、むしろ風評による精神的なダメージ、情報が飛び交う中での混乱から生まれる不安なのではないかと感じました。

医師が人々の不安に寄り添って信頼関係を構成し、適切な情報提供により誤解を取り除く努力を継続していくことが必要と考えます。

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