「自分らしくいられる居場所」を福島に。きれいなお母さんが「食べる塾」を作るまで

精神保健福祉士として活動し、女の子のお母さんにもなった。2011年の東日本大震災では、子供をはじめとした被災者の心のケアに向き合った。

■「あそこに行けば安心」な居場所づくり

福島県白河市に住む鴻巣麻里香さん(35)は、地元に無料でご飯と勉強のサポートをする子供たちの塾を作ろうとしている。なぜ、このプロジェクトを始めようと思ったのか。「日常的にあそこにいけば安心だというお守りみたいなところがあるといいな、と思ったから」だという。

オランダ人の母と日本人の父が学生時代にイスラエルで出会い、鴻巣さんは生まれた。大きな目に白い肌。幼い頃はハーフと言われ思い悩むこともあったという。脱サラして森を開墾し農業を始めた両親のもとすくすくと育つが、「マイノリティの思いを常にどこかに抱いて生きてきた」という。「どこだったら自分らしくいられるんだろう」。ずっと自分の「居場所」探しが続いていた。

東京の大学院生時代には精神障害の人が集まる精神科病院の関連施設で手伝いをした。牛や馬の世話をしながら、集団生活をしている人たち。

彼らと農作業をするうちに、「社会的に生きるのが困難だとされる人も、マイノリティのコミュニティの中で生き生きと自分らしく過ごしているのを見て、思い悩んでいる人たちのために自分らしくいられる場所をいつか作りたいな」と思っていた。

■「頭の中の爆弾」

精神保健福祉士として活動し、女の子のお母さんにもなった。2011年の東日本大震災では、子供をはじめとした被災者の心のケアに向き合った。

夜おねしょをしてしまう、学校へ行けなくなってしまったという子供。放射能など予測不可能な事態にとまどう親。子供も親もどこを頼っていいか分からない。

そんな中、家の外で支えてくれる存在の必要性を感じた。「子供にとって給食のおばちゃん、保健室の先生のような、ちょっと疲れた時に頼れる人、安心できる居場所が必要だ」。

そんな時、今こそ取り組まなければいけない、と思う出来事が起きた。自身の体の異常だった。

震災前から脳に腫瘍があるのは分かっていたが、「頭の中の爆弾とはうまくつきあっていけばいいと思う程度」に思っていたという。しかし、とうとう左側の顔面をキリで刺されるような痛みが襲い、けいれんの症状が現れた。子供には「(障害が残り)いままでママができていたことができなくなるかもしれないけれど、手術はうまくいけばいいと思っている。とにかく信じてちょうだい」と言い聞かせ、2014年12月、開頭手術を受けた。手術は成功。たくさんの人に支えてもらったことを心から感謝した。

■「動かないと人は集まらない、まずは動く」

「拾っていただいた命」。火がついた。「居場所づくり」に取り組むことを決意。3、4カ月の早さでプロジェクトの詳細を詰め、資金調達のためクラウドファンディングに申し込んだ。

福島県白河市は、商店街があり自然豊かな町だ。東北新幹線を使えば東京から90分のベッドタウンで、ニュータウンと城下町の文化がモザイク状に入り交じる場所だという。

その白河市内に子供の居場所をつくるのが今回取り組んでいるプロジェクトだ。無料で子供に温かいご飯を食べさせ、勉強も手伝う「食べる塾」を作ろうとしている。

利用者には事前に食べる塾に行く日を登録してもらい、鴻巣さんらが、地元の野菜などで作ったご飯で出迎える。

「この場所では子供を通じて、ご家族に会うことができ、家族の生きづらさとも向き合える」。10年あまり、心の病を抱える人とソーシャルワーカーとして向き合ってきた経験をいかす。

そして、以前出会った、どこにも行き場がなく、子供とコンビニの駐車場で一晩を過ごしていた親子のような人たちが、「立ち寄って元気になってもらえる場にしたいと願っている。

クラウドファンディングA-portで資金を集めているサイトはこちら。

温かいご飯と学習サポートを無料で。福島に子どもたちの居場所「塾」を作りたい

クラウドファンディングの進捗状況をA-port事務局のある築地に伝えに来てくれた鴻巣さん

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