ドイツがネット上のヘイトスピーチを取り締まる法律を厳格化 表現規制への懸念も

ユーザーから指摘があった時点で犯罪が疑われるコンテンツを直接連邦警察に届けることをプラットフォームに義務付ける条項を盛り込む。
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オンラインヘイトスピーチに関する法律は表現の自由の観点から違憲だとフランスの憲法評議会が判断した一方で、ドイツはヘイトスピーチに関する法律を強化する。ユーザーから指摘があった時点で犯罪が疑われるコンテンツを直接連邦警察に届けることをプラットフォームに義務付ける条項を盛り込む。

この動きは、右翼過激主義の高まりとヘイト犯罪に対するドイツ政府の幅広い取り組みの一環だ。ヘイト犯罪はオンライン上でのヘイトスピーチの拡散と関係している。

ドイツの既存の法律「Network Enforcement Act」(別名NetzDG法)は2017年に発効し、ソーシャルネットワークプラットフォームに明白に違法と分かるヘイトスピーチを24時間以内に削除することを義務付けた。違反した場合の罰金は最大5000万ユーロ(約60億円)だ。

6月19日にドイツの議会はプラットフォームに特定の種の「犯罪的なコンテンツ」を連邦刑事庁に報告することを義務付けることを加えた改正案を可決した。

NetzDG法の幅広い改正が並行して進行中で、これはユーザーの権利と透明性をさらに確固たるものにするのが狙いだ。ここには、ユーザーノーティフィケーションを簡素化したり、人々がコンテンツ削除に異議を唱えやすくしたり、主張が認められたコンテンツを復活させられるようにしたりといったことが含まれる。必須事項の報告に関するさらなる透明性もプラットフォームに求めている。

NetzDG法は常に議論の的になってきた。罰金のリスクを取るよりコンテンツを削除する方向にプラットフォームを誘導することで表現の自由を制限することになるのでは、との批判もある(言い換えると、過度の表現制限のリスクだ)。2018年に人権NGOのHuman Rights Watchは欠陥のある法律、と指摘した。「不明瞭で過度だ。そして高額な罰金を避けようとする民間企業による検閲が行き過ぎになるものであり、ユーザーは司法の監視ができず、主張する権利も失われる」と批判した。

ヘイトスピーチ法律への最新の変更もまた議論を巻き起こしている。現在の懸念は、国が市民に関する膨大なデータベースを構築するのをソーシャルメディア大企業が確たる法的正当化なしに手伝っているということだ。

最新の法改正に関する多くの変更案が却下された。ここには、指摘されたソーシャルメディアへの投稿の作者の個人データが自動的に警察に送られないようにする、という緑の党が提出したものも含まれる。

緑の党は、新たな報告義務が乱用され、実際に犯罪的なコンテンツを投稿していない市民のデータが警察に送られることになるリスクを懸念している。

また、多々ある批判の中でも、すでにデータが警察に送られた要注意の投稿をした作者にその旨を伝える必要性が確保されていないことも議論の的となっている。

緑の党は、警察に直接送られることになる投稿コンテンツは、真に調査する必要があるものだけにすべき、と提案した。警察はこれまでプラットフォームに個人データを要求できていた。

ドイツ政府のヘイトスピーチ法の改正は、難民受け入れ賛成の政治家Walter Lübcke(ヴァルター・リュブケ)氏が2019年にネオナチ過激派によって殺害された事件を受けてのものだ。殺害に先立ってオンライン上で標的型攻撃とヘイトスピーチがあったとされている。

ドイツのメディアによると、今月初め警察はリュブケ氏に関する「犯罪的なコメント」を投稿したとして多くの州にまたがるヘイトスピーチ疑い犯40人を検挙した。

政府はまた、オンライン上でのヘイトスピーチは言論の自由に萎縮効果をもたらし、標的を脅すことでデモクラシーに有害な影響を及ぼすと主張する。つまり人々が恐怖心なしに自由に表現したり社会に参画したりできなくなることを意味する。

EU全体では、テック企業がEU Code of Conduct on hate speech(欧州ヘイトスピーチ行動規範)に自発的に同意した後、欧州委員会はヘイトスピーチをなくそうと何年もの間プラットフォームに報告の改善を強制してきた。

扱うコンテンツにテック企業がどれくらいの責任を負うのかを示すことになる今後導入される予定のデジタルサービス法のもとで、欧州委員会はプラットフォームの規則とガバナンスについて幅広い変更を加えることを検討している。

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