「五島うどん」に救われた。3週間の離島「子連れワーケーション」は結構大変だった

夫と5歳の娘を連れて五島へ。ゲストハウスに滞在しながら東京と同じような仕事をしてみた

(文章・鈴木円香 一般社団法人「みつめる旅」理事、ウートピ編集長)

7月26日から8月18日までのちょうど3週間、ワーケーションをしていた。

第1回に続いて、連載2回目では、夫と娘が東京から合流してからのワーケーション生活について語ります。

>> 第1回 『東京の「仕事の空気」は離島に持ち込めない。夫と娘を残して5日間のワーケーションをやった』

>> 第3回『「借りを作る」が人間関係を良くする。離島・五島の経済は「お金」で回さない』

「本当に行っていいの?」と戸惑う夫

最初の5日間、五島の海辺のバンガローでひとりきりで過ごしたあとは、東京から夫と娘(5歳)が合流して、市街地から車で10分ほどのゲストハウスに11日間滞在していた。

夫は出発直前まで「このコロナのタイミングで本当に行っていいの?」とそわそわしていた。長崎県や五島市のサイトをこまめにチェックしては、コロナ対策ページを読み込んでいた。

五島市は6月19日に、北海道、関東1都3県、福岡県との往来自粛要請を解除したあとは、基本的に「新しい生活様式」に則った来島は、ビジネスでも、観光でも、受け入れるという姿勢だった。

行政として、コロナが長期戦となることを前提に経済のV字回復を目指しているし、7月22日には賛否あるなかGoToキャンペーンもスタートしていた。

しかし、夫が来島した8月1日時点で、東京の1日の陽性者数は、記録開始以来最高の472人を記録し、7月22日には市内で初の陽性者が出たというタイミングだった。

受け入れる行政側は観光もワーケーションもウェルカムという姿勢でも、「本当に行っていいのだろうか?」と不安がる彼の気持ちもよくわかった。

withコロナの時代にどう行動するか?「行ってもいいのか?」と戸惑う夫、インドアな遊びに飽き飽きして海を楽しみにしている娘。結局、一人ひとりが自分で考え、責任をもった行動をとるしかないのだろう。(筆者友人撮影)
withコロナの時代にどう行動するか?「行ってもいいのか?」と戸惑う夫、インドアな遊びに飽き飽きして海を楽しみにしている娘。結局、一人ひとりが自分で考え、責任をもった行動をとるしかないのだろう。(筆者友人撮影)

親子3人+オジギソウの生活

一方、5歳の娘は、コロナにより保育園がインドアなあそび中心となり、プールも中止、1年前から楽しみにしていたお泊り保育も中止ですっかり退屈していたので、五島行きを心待ちにしていた。

真夏だというのにまったく日焼けしていない青白い肌に、お気に入りのラベンダー色のワンピースを着て、福江空港に降り立つ。なんと、東京の家で大切に育てているオジギソウを鉢ごと一緒に連れてきたという。

こうして、親子3人+オジギソウというメンバーで、「島ぐらしワーケーション」が改めてスタートした。

夫と娘とオジギソウが合流してからも、次の4つのルールは守り続けた。

・お年寄りや基礎疾患のある人と会わない
・外食は減らして、できるだけ自炊する
・買い物に行く時はマスクをつける
・地域の人との打ち合わせも、できるだけオンラインでやる

東京の保育園も「一人でも陽性者が出たら閉園」という綱わたり的な状況がずっと続いているため、5歳の娘も園でコロナ対策はみっちりと叩き込まれている。

手首や爪の間まで残さずきれいに洗うための「手洗いの歌」や、咳エチケットは、大人より徹底している。

初日の夜は、東京と同じように

初日に、私が一人で車のトランクがいっぱいになるほど、どっさりスーパーで買い出しをした。五島は、やはり魚と肉がおいしい。

魚がおいしいのは、まあ、当たり前として、肉が牛も豚も鳥もおいしい。特に五島豚はコスパがとてもよい。

野菜は、今年は長梅雨でびっくりするくらいの高値がついていた。小さなレタスのひと玉がなんと500円もする。

夏野菜のナス、トマト、キュウリ、パプリカあたりは、東京の半値くらいであるだろうと思っていたけれど、1.2〜1.5倍する。ゴーヤもフツーに1本150円と値札に書いてあって驚く。

以前、五島の友人宅を訪ねた時には、野菜はよく近所の方からいただくと言っていた。そういう関係が築けたら素敵だろうなと思う。

初日の夜は、東京にいる時と同じように、夫がパパッと炒め物と汁物を作り(基本、わが家では料理は夫の役割)、刺身を並べ、ビールで乾杯した。娘は、同い年の友達との再会を喜び、ゲストハウスの庭で花火を堪能してから、眠りについた。

「子連れワーケーション」って言うけれど

「リモートワーク」や「ワーケーション」を企画・運営する立場にある私のような人間にとって、子連れか、そうでないか、はかなり重要な問題だ。が、しかし、これを理解してくれる人は案外少ない。

子どもを連れて、慣れない土地を旅しながら、仕事をこなすのには、相当な困難をともなう。「子連れワーケーション」と簡単に言うが、実際に親としてこれを実行する立場になると、かなりの覚悟と忍耐が必要だ。

これまでもリモートワークやワーケーションのイベントをいくつか企画してきたが、お子様連れには手厚いケアが必要だ。(撮影:廣瀬健司)
これまでもリモートワークやワーケーションのイベントをいくつか企画してきたが、お子様連れには手厚いケアが必要だ。(撮影:廣瀬健司)

「まじか!」というタイミングで「トイレ!もれそう!」

まず、子どもはだいたいいつもグズグズしている。乗る飛行機が決まっているのに、朝なかなか起きてこない。朝ごはんも「食べたくない」「おなか空いていない」とごねてなかなか進まない。

着ようと思っていた服が洗濯されていないことに気づいて怒る。泣く。やっとこさ出発できたとしても、子どもに拘っている間に自分のかなり重要なアイテムをスーツケースに入れ忘れていることに気づく(スマホの充電器とか、化粧道具一式とか)。

どんなに用心していても、「まじか!」というタイミングで「トイレ!もれそう!」と声を上げる。

飛行機の中では、上昇中や下降中に「耳が痛い」と怒る。1時間を過ぎれば「疲れた」と言ってぐずる。CAさんがくれたおもちゃにも一瞬にして飽きる。しかも、興奮しているから寝ない。

「五島うどん」に救われた

で、現地に着いてからも、親が食べたい名産品はだいたい子どもが苦手なもので、仕方なく「唐揚げとポテトとうどん」で手を打つ(「五島うどん」には何度救われたか知れない)。罪滅ぼしに野菜ジュースでも飲ませる。と、だいたいこういう展開が旅の最初から最後まで繰り返される。

運営サイドに特別のケアがなければ、「親子ワーケーション」の現実はこういうものだ。子どもが起きている間は、基本仕事にならない。子どもが寝ている間に、驚異的な集中力を発揮して終わらせてしまうしかない。

日中どうしても重要なオンライン・ミーティングを入れざるをえない時は、Youtubeかゲームの力にすがる。

これを変えたい。

親も子どももしんどくない、いや、もっとアンビシャスに言えば、「楽しい!」「東京にいるよりラクチン!」と思えるワーケーションをやりたい。

そう願いながら、これまで試行錯誤を重ねてきた。

親にとってラクで、子どもにとって楽しいワーケーション

「親にとってラクで、子どもにとって楽しいワーケーション」とは何か?

一つは、友達ができること、だと思う。

親にも、子どもにも、その地域に「友達」と呼べる人がいる。「友達」とまではいかなくとも、フィーリングがなんとなくあって、おたがいにいい刺激を与えられる同世代の相手をその地域に見つけられると、ワーケーションは格段にラクに、楽しくなる。

五島に関わり始めてもう3年近くになるので、私にも、娘にも、そういう「友達」ができた。

仕事やプライベートの予定を調整しては、おたがいの子ども面倒をみあったり、今取り組んでいる仕事やプロジェクトの相談をしあったり、人を紹介したりしてもらったり。

海での遊び方や、危ない生き物から身を守る術、地域に新しくできたお店や宿のことを教えてもらう代わりに、ビジネスで何か力になれそうなことがあれば、自分の知識や人脈を提供する。そんなふうに、気持ちのいいGIVEが続いている。

「東京にいる時によりも、親はラクで、子供は楽しいワーケーション」って何だろう?といつも考えている。今年はsense of natureさんと連携して「アウトドアスクール」を実験的にやってみようと思う。(撮影:廣瀬健司)
「東京にいる時によりも、親はラクで、子供は楽しいワーケーション」って何だろう?といつも考えている。今年はsense of natureさんと連携して「アウトドアスクール」を実験的にやってみようと思う。(撮影:廣瀬健司)

「地域に友達ができる」が一番豊かな体験

今回の滞在期間中も、そうした繋がりに何度も助けられた。おかげさまで、睡眠時間を削らずとも仕事が滞りなくできたし、オンラインミーティング中どっちが子どもをみるかで夫婦ゲンカをせずに過ごせた。

これまで五島での「リモートワーク実証実験」や「ワーケーション・チャレンジ」で組み込んできた、保育園の一時利用や小学校の体験入学も、仕組みとして有効だとは思う。

利用してくださった親御さんからは「これがなければ、とてもじゃないけど子どもを連れてなんて行けなかった」という感想を何度もいただいた。今年はさらに「子どもアウトドアスクール」も平日は毎日開催してサポートを手厚くする予定だ。

でも、やっぱり「その地域に友達ができること」が親にとっても、子どもにとっても、一番ゆたかな体験だと感じる。

どんなに海が綺麗でも、どんなに食べものが美味しくても、どんなに滞在施設やアクティビティが充実していても、「よかったね」「楽しかったね」と一度きりで終わってしまう。

自然だけなら、五島を凌駕する場所は世界中にいくらでもあるし、立派な施設は一度見れば満足してしまい、そのさらに「上」を求めてしまう。

「また行きたい」と思わせてれるもの、「旅してよかった」という気づきを与えてくれるものは、結局は「人」をおいて他にないような気がしている。

近年五島市には20代、30代の子育て世代の移住が増えている。地域の子どもたちとワーケーションで訪れる子どもたちの交流も、あれば楽しいと思う。(撮影:廣瀬健司)
近年五島市には20代、30代の子育て世代の移住が増えている。地域の子どもたちとワーケーションで訪れる子どもたちの交流も、あれば楽しいと思う。(撮影:廣瀬健司)

「地方創生」? むしろ東京が地方に救われる

近年叫ばれている「地方創生」にはどこか「(中央が)地方を救う」というニュアンスがあるけれど、こうしてプロジェクトを進めていると、むしろ東京が地方に救われることの方がずっと多いような気がしてくる。

生きることの不便さ、人間関係のめんどくささを含めて、「ああ、人間って、そもそもそういうものだよね」という原点が、五島などの僻地には特にまだ色濃く残っていて、それらが、都市部の失ってしまった「手触り感」として新鮮に感じられる。行くたびに元気をもらう。

10日間の滞在を終え、夫はオジギソウと共に東京へ帰っていった。海ゴミ拾いに参加した他は、料理をして、読書をして、原稿を書いて、散歩をするという東京にいるのとほとんど変わらない生活を続けていた夫だったが、最後に「本当に来てよかった」との感想を残して満足気に飛行機に乗り込んでいった。

次の8日間は、私と娘の二人で「島ぐらしワーケーション」を続けることになっている。

青白かった娘の肌は、いい感じに小麦色に焼けてきた。

ーーー

五島市は2021年1月16日(土曜日)~1月31日(日曜日)まで「島ぐらしワーケーション in 五島列島 2021」の参加者を募っています。もし興味を持ったらぜひこちらのサイトをのぞいてみてください。

【筆者略歴】

鈴木円香(すずき・まどか):一般社団法人みつめる旅・理事。1983年兵庫県生まれ。2006年京都大学総合人間学部卒、朝日新聞出版、ダイヤモンド社で書籍の編集を経て、2016年に独立。アラサー女性のためのニュースメディア「ウートピ」編集長、SHELLYがMCを務めるAbemaTV「Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜」レギュラーコメンテーター。旅行で訪れた五島に魅せられ、五島の写真家と共にフォトガイドブックを出版、Business Insider Japan主催のリモートワーク実証実験、五島市主催のワーケーション・チャレンジの企画運営。その他、五島と都市部の豊かな関係人口を創出するべく活動中。

【写真撮影】

廣瀬健司(ひろせ・たけし):福江島在住の写真家。生まれも育ちも五島列島・福江島。東京で警察官として働いたのち、1987年に五島にUターン。写真家として30年のキャリアを持つ。2001年には「ながさき阿蘭陀年 写真伝来の地ながさきフォトコンテスト」でグランプリを受賞。五島の「くらしと人々」をテーマにした作品を撮り続けている。2011年には初の作品集『おさがりの長靴はいて』(長崎新聞社)から出版。