ハッカーズ、マッキントッシュ、そして情報はフリーになりたがる―1984年と2014年

スティーブン・レビーさんが、自著『ハッカーズ』の刊行30周年を記念して、編集長をつとめる「メディアム」内のテクノロジーサイト「バックチャンネル」でマニアックな特集記事「ハッカーズ・アット・30」を掲載している。

スティーブン・レビーさんが、自著『ハッカーズ』の刊行30周年を記念して、編集長をつとめる「メディアム」内のテクノロジーサイト「バックチャンネル」でマニアックな特集記事「ハッカーズ・アット・30」を掲載している。

その第1弾「〝ハッカーズ〟と〝情報はフリーになりたがる〟」は、1984年11月に、サンフランシスコの対岸、サウサリートで開かれた「第1回ハッカーズ・カンファレンス」の模様と、いまも広く知られているテーゼ〝情報はフリーになりたがる(Information wants to be free)〟とは何だったのか、を克明に振り返っている。

アップルの共同創業者、若きスティーブ・ウォズニアックさんや、マッキンシュの代表的な開発者、ビル・アトキンソンさん、フリーソフトウェアの代名詞、リチャード・ストールマンさん、電話ハッカー(フォン・フリーカー)、ジョン・ドレイパーさん(キャプテン・クランチ)など、出席者もかなり濃い。

1月にはマッキントッシュが発売され、7月にはウイリアム・ギブスンさんのサイバーパンク小説『ニューロマンサー』が出版された1984年。コンピューター革命まっただ中のハッカーたちの議論の様子は、とても興味深い。

●「ハッカーズ」と「ホールアース」

「第1回ハッカーズ・カンファレンス」を企画したのは、カウンターカルチャー雑誌「ホールアース・カタログ」を創刊したスチュアート・ブランドさんだ。

イベントのきっかけは、同年発行されたレビーさんの『ハッカーズ』だった。

コンピューターハッカーの歴史と、ハッカー倫理を詳述したこの本は、すでにテクノロジーの分野の古典とも言える。

『ハッカーズ』が示すハッカー倫理とは、この6つだ(訳文は工学社版、古橋芳恵氏・松田信子氏訳より)。

・コンピュータへのアクセス、加えて、何であれ、世界の機能の仕方について教えてくれるものへのアクセスは無制限かつ全面的でなければならない。実地体験の要求を決して拒んではならない!

・情報はすべて自由に利用できなければならない。

・権威を信用するな―反中央集権を進めよう。

・ハッカーは、成績、年齢、人種、地位のような、まやかしの基準ではなく、そのハッキングによって判断されなければならない。

・芸術や美をコンピュータで作り出すことは可能である。

・コンピュータは人生を良いほうに変えうる。

一方のブランドさんは、黎明期のコンピューターカルチャーを扱うテクノロジーライターのさきがけであり、1972年に雑誌「ローリングストーン」に掲載した記事「スペースウォー」で、いちはやく〝コンピューターハッカー〟を紹介している。

また、「パーソナル・コンピューター」という言葉を、初めて活字メディアで紹介したことでも知られる。

そのブランドさんが『ハッカーズ』に触発され、同年にはレビーさんとともに、「ホールアース」シリーズの一つとして、「ホールアース・ソフトウエア・カタログ」を刊行している。

そして、リアルのイベントとして企画したのが「ハッカーズ・カンファレンス」だった。

このイベントの企画・運営には、「テクニウム」の著者、ケヴィン・ケリーさんも参加している。

●自由な情報

レビーさんの特集記事によると、議論がハッカー倫理の一つ「情報はすべて自由に利用できなければならない(Information Should be Free)」を巡って交わされていた。

ウォズニアックさんが、企業がプログラムを抱え込むことについて、「それは情報の隠匿であり、間違ったことだ」と発言する。

それに対して、ブランドさんがこう発言する。

一方で、情報は高価になりたがる(information wants to be expensive)。それが極めて価値があるからだ。正しい情報が正しい場所にあれば人生を変えることになる。他方、情報はフリーになりたがる(information wants to be free)。情報を入手するコストは常に低くなり続けているからだ。その間のせめぎ合いにさらされることになるのだ。

そしてイベントから30年後、レビーさんの問い合わせに対し、ブランドさんは発言の真意をこう説明しているという。

確かに君の本にあった〝情報はすべて自由に利用できなければならない(Information Should be Free)〟を引いた発言だ。それをスティーブの発言を受けて、まず〝高価になりたがる〟と言いかえたんだ。

「情報が求める(Information wants)」という表現になったことで、このテーゼは一気にミームの側面を持つことになる。

ケヴィン・ケリーさんの「テクニウム」の原題「What Technology Wants」は、まさにこの延長線上にある。

●〝無料〟と〝自由〟

ブランドさんのここでの発言「フリーになりたがる」は、主にクリス・アンダーソンさんのベストセラー『フリー』の意味、つまり〝無料〟を指している。

ただ、ブランドさんは1987年の著書『メディアラボ』で、あらためてこのテーゼを論じている。

この中では〝無料〟の意味に加えて、〝自由〟の意味についても述べている。

著作権者と(ゼロックスによる)コピーとの攻防、そして利用者の関係を取り上げる中で、こんな記述がある。

情報はフリーになりたがる。それが完全に否定されたとき、利用者はどこか他所にいくか、さもなくば不公正だと思う法律を堂々と破るだろう。

ウィキリークスやスノーデン事件は、まさにこちらの意味がぴったりする動きだ。

●ハッカーの定義

第1回ハッカーズ・カンファレンスの模様は、映像にも収めてあるという。だから、詳細なやりとりが再現可能なのだろう。

その一部はドキュメンタリーになっている。みんな若い。

『ハッカーズ』30周年特集には、ハッカー自身が「ハッカーとは」を定義している記事もあり、読みでがある。

ちなみに、〝キャプテン・クランチ〟ジョン・ドレイパーさんの定義は「障害物を迂回する方法を見つけ出す人々」。

スチュアート・ブランドさんの定義は、「何かクールなことを起こすために知恵を凝らす、無精で聡明なあらゆるエンジニア」。

リチャード・ストールマンさんの定義は「何か難しいことを、それが役に立とうが立つまいが、面白がりながらやる。それがハッキング」。だそうだ。

【追記】

スチュアート・ブランドさん本人も、グーグルプラスでハッカーとカンファレンスをめぐる経緯を振り返っている。

(2014年11月22日「新聞紙学的」より転載)

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